国境を越える策は跡形も無く吹き飛ばされました。
転移を終えた俺は直ぐに駆け出した。方角は予め城の物を幾つか盗んでおいた中に方位磁石がある為、把握出来る。
急がないと追手が来る。俺が居るのはまだローレンガルド王国の国内に居る。国外へ出るには国境を越えなければいけないが俺が脱走した事で検問も厳しくなっているだろう。
特に中立の国であるアーデンエリス王国との国境は検問が厳しくなっている筈だ。けれど俺には行くべき場所がある。ローレンガルド王国から南東に進んだ先にある国、カグラハラ国。
カグラハラ国はアルス語とは別のジオル語を使っているらしい、そして、使用している文字が俺が居た世界の漢字を使っているからだ。
「それにこの母さんがくれたペンダントに意味があるのだとしたら・・・行ってみる価値はある。そうだろ?」
俺の問いかけに返答をするように遠吠えをするのは銀色の毛並みを持った一匹の狼だった。この狼が一体なんなのかは分からないが敵意を感じない。
俺が近づいて手を差し出すと尻尾を振りながら自ら顔を擦り付けて来たので一頻り撫でてやると狼が背を向けて一鳴きした。どうやら乗れという事か。
しかも、向いている方角が南東、つまりこの狼はカグラハラ国からの使いという事なのだろうか。
「けど、それなら好都合というやつだな。俺をカグラハラ国まで連れて行ってくれるのか?」
俺が乗ると一鳴きして駆け出した。この狼の一歩一歩は力強く吹き抜ける風を連想する程の速さだった。
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東から昇る朝日が重い瞼を刺激して私は目を覚ました。そうか、昨日、私は夜中に襲われて、疲れて寝てしまったんだ。ユウ様、そうだ。私を助けてくれたユウ様にお礼を言いに行かなければいけませんね。
そう思い、私は急いでベットから出てクローゼットを開けた。
「ユウ様はもう起きている筈ですし、動き易い服に着替えた方が良いですね。」
直ぐに私は寝巻を脱ぎ捨てて動きやすい服に着替える。ユウ様が来てから私もユウ様を見習って自分の事は自分でするようになった。同い年のユウ様が出来るのだから私もという気持ちがありました。
まだまだ、侍女達に手伝って貰う時もありますが少しずつ出来るようになりたいと思うようになりました。
ふと、今日は城内が騒がしい事に気が付きました。しかも、いつもなら起こしに来る筈の侍女達が来ません。
そんな時でした。部屋をノックする音が聞こえて来たのは。
「リフィア姫様、入ってもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ。」
「失礼致します。」
入ってきたのはユウ様のお世話をしているメアリーでした。いつも私にユウ様の予定を教えてくれます。なんでも出来てしまうユウ様ですからメアリーは手持ち無沙汰になって困ると良くぼやきます。
そんなメアリーがいつもとは違い申し訳無さそうな表情を浮かべています。何かあったのでしょうか?
「どうしたのですか、メアリー浮かない顔をして、そうだ。ユウ様は既に起きて訓練場に居ますか?」
「・・・リフィア姫様、申し訳ありません。もうユウ様の事をお話する事は出来なくなってしまいました・・・」
「・・・えっ?」
その時、鈍器で頭を叩かれたような衝撃が私を襲いました。ですが、メアリーの言う事です。きっと嘘ではないのでしょう。前の私なら取り乱して泣き喚いたかもしれませんが、今は何故そうなったのかを知る事の方が大事な気がしました。
「詳しく教えてくれませんか?」
「リフィア姫様っ、はい・・・」
メアリーからの話を聞いて驚く事はあっても妙に腑に落ちた感じがあり、私はメアリーの言葉に納得してしまいました。
これもユウ様と一緒に居たからでしょうか、彼は色んな事を知っていた。そして、知ろうとしていた。その行動を見て来て追いかけるように私もして来たから分かりました。
ユウ様はきっとこの国がユウ様にしようとした事を一早く察知して脱出をしたのだと。彼なら事前に準備をしていたに違いありません。
「そうでしたか・・・メアリー辛い役目を背負わせてしまいましたね。」
「リフィア姫様・・・申し訳ありませんでした。」
「いいえ、メアリー。貴女は父上の言う事に従っていただけです。それを責めるような事はしません。それでユウ様・・・いえ、きっと『ユウ』という名前は偽名だったのでしょう。慎重な彼ならば私達に偽名を名乗った方が安全ですから・・・それで彼は去り際に何か言っていましたでしょうか?」
「はい、『リフィア姫が、俺と一緒にやって来た事をこれからも続ければきっとまた会えます』っと・・・」
「そうですか・・・なら、次に彼と会うまで頑張らないといけませんね。メアリー、付いて来てくれませんか?私の行く道に・・・」
「リフィア姫様・・・はい・・・姫様の仰せのままに」
私も貴方に再び会える為に生きなければ・・・待っていて下さいね。ユウ様、次に会った時は本当の名前を教えてください。
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城を抜け出してから三日が経過した。朝、俺は乗せてくれている狼と一緒に城から南東にあるローレン渓谷という場所に来ていた。ここを超えれば国境があり国境を抜ければカグラハラ国は目と鼻の先だ。
この三日間、城から支給されていた資金で保存食を買い込んでいたのもありある程度の食繋ぐ事が出来ていた。行動を共にする狼には呼ぶ時に困るというのもあって、銀風という名を付けた。
銀風は自分の呼ばれている名を理解しているようで一鳴きして指示に従ってくれた。
「ここを真っ直ぐ行けば国境だけど、問題はこの国境が平野って事だな。」
地図を見る限り、この国境は見晴らしの良い平野で検問所に近づく前に細くされてしまう。しかも国境沿いは全て高い壁に覆われていて超える事は難しい。駆け上がっても上から弓とか魔法で撃ち落とされてしまうだろう。
空が飛べれば良いけれど、飛べたとしても速度が無いと超える前に撃ち落とさせるのが関の山だ。
策を考えていると銀風が鳴いた為、視線を前に向けると国境が見えて来たのだ。
「銀風、近くの茂みに隠れよう」
銀風に指示を出して茂みに潜むと検問所を見据えた。この検問所はあくまでカグラハラ国を見張る為の検問所でありローレンガルド王国からカグラハラ国へ行く為の審査をする目的は無い。理由は簡単だローレンガルド王国とカグラハラ国は仲が悪いのだ。
「人が来ないから警備も手薄な訳ないよな・・・」
気配感知で人の気配を数えると国境の見張りが一定間隔に配置されていて約100人、4交代制なんだろう控えに300人の兵士が確認出来た。しかも俺が城から抜け出したからなのか増員されて1000人を超えている。
「これは厳しいな抜け道なんてものも無さそうだし・・・獣道を使って国境を超えるのも難しそうだな。」
強行突破という手が一番簡単だけど、それは無策無謀。先ず無理だ。朝は分が悪い。夜にもう一度来た方が良さそうだな。俺は銀風に触れて乗ろうとした時だった。全身に冷たい何かが走ると共に重い重圧を感じた。しかも冷たい筈なのに汗が止まらない。銀風も感じているようで唸り声を上げながらも震えている。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!!!
そう思った瞬間、俺は魔法を発動していた発動したのは炎属性の防御魔法。熱を持った魔力障壁が俺と銀風を包み込んだ時だった検問所に高密度の魔力が落ちたのだ。
爆風が当たり一体に襲い掛かる。その衝撃は冷気を帯びており周辺を凍らせながら俺達にも襲い掛かった。襲い来る衝撃を堪える為に俺と銀風は姿勢を低くして何とか受け流した。
「一体、何が・・・・」
吐き出した息は白く、防御魔法を突き抜けて俺と銀風の身体に薄い氷が張り着いていた。辺りを確認すると検問所は見るも無残な状態になっており凍り付いた瓦礫の山と化していた。人の気配も消えており。その威力を物語っていた。
これは国境を超えるチャンス、なんて思える物では無かった。何故なら検問所があった場所には巨大な青い宝石のような鱗を持ったドラゴンが空中から俺達を見下ろしていたのだから。