脱出をしなければ
地下牢に閉じ込められていた人から話を聞いてから俺はこの国から脱出する為の準備を進めて来た。その間、隠密行動で国中を調べ回った。それで分かった事はアーデンエリス王国は平和を望み、国交は行うが何処の国とも同盟を結ばない中立の国である事が分かった。そして、その中立は500年以上続いているそうだ。
それだけの年数を中立の立場を守って来れたのはアーデンエリス王国が持つ軍事力に他ならない。アーデンエリス王国が持つ戦力は王立魔法師団に騎士団、王都ギルド『エリスハイド』が保有する七賢者の存在である。
これはアーデンエリス王国で魔法を極めた者達が受け取る事が出来る名誉ある位であり国の守護者として君臨する者達だ。一人一人だ得意な属性の魔法を持ってはいる者のアーデンエリス王国が定める基本七属性である炎、水、風、雷、地、光、闇を完璧に使いこなす力を持っているそうだ。
そして、こんな逸話もある。『アーデンエリス王国に戦争を仕掛けた国あり、しかし、その軍全は一刻も経たずに一人の賢者が放った魔法によって壊滅させられた。』と、そんな話があるにも関わらずローレンガルド王国が戦争を仕掛ける為に俺を操り自爆魔法を唱えさせて宣戦布告をする理由は、国の象徴である王城を吹き飛ばせばアーデンエリス王国が浮足立ち混乱する。その隙を突いて全軍で攻め込むというものだった。
一見、作戦でもなんでもないと思われるがこの作戦で使われるのは大量の魔物である。ローレンガルド王国は密かに魔物の研究を行っており、ある時、魔物を操る術を見つけ軍事強化を行っていたのだ。魔物の制御はどの程度まで出来るのかも調査してみたが七賢者には敵わないが一介の兵士なら一方的に倒せる上級の魔物を使役出来ている。
それだけの力があるにも関わらず、俺を操って自爆魔法を唱えさせるという先制攻撃要因として偽りの勇者として召喚したのだから俺としては堪ったもんでは無い。
だから逆に利用させてもらう事にした。
「これで良しと・・・」
俺は今、その魔物達が閉じ込められている場所に来ていた。理由は簡単だ数匹の魔物を時限式で王城内で暴れさせる為に洗脳魔法を解除するのだ。暴れさせるのは中級程度の魔物である。これならば被害を極力抑えて兵士達の足止め程度にはなる。
これは俺の甘さでもあるがメアリーさんやリフィア姫は俺に良くしてくれた。だから怪我とかをして欲しくないと思ったからだ。
「本当はなりふり構わずに上級の魔物を放つべきなんだけどな・・・俺が悪いけど逃げる為の囮になってもらうよ。」
俺はそう言って転移魔法を使って自室へ転移した。明日、俺は作戦の為に洗脳魔法を施されてしまう。なんだかんだで策を張り巡らせていた為、時間が掛かってしまったのだ。チャンスは一度、何が何でも成功させなければいけないのだ。
その為に俺は早めに休もうと自室に戻ったのだ。勿論、熟睡はしない夜も警戒をする事は怠らない。隙は決してこの国の人間に見せるつもりは無いのだ。
その為、俺は感知魔法を発動して寝ようとしたのだがーーー。
不審な人間が三人、何処に向かっている?動きからして、リフィア姫の部屋だな・・・リフィア姫の部屋で止まった。これは殺気!!
「クソ、こんな時に!!」
身体が咄嗟に動いてしまった。俺は気が付けば窓を飛び出して魔力で糸を作りだし屋根の上に飛び上がると屋根を一気に最高速まで加速し駆け抜けるとリフィア姫の居る部屋に飛び込み近くに居た一人を遠心力を利用した回し蹴りで蟀谷を打ち抜いた。
白夜真抜流 格闘式 弐ノ型 竹雷
足に雷魔法を付与した為、俺の蹴りは威力が倍増し雷が脳を打ち抜くと共に頭蓋骨が砕ける感触が足に伝わると力なく壁際に吹っ飛んでいった。
「何!?子供!?」
目に魔法を付与して暗視すると二人の覆面を被った男がおり一人はリフィア姫が寝ているベッドの傍でナイフを突き立てようとしていた。
だが、リフィアは俺が男を蹴り飛ばした物音で起きたようでナイフを見た瞬間だった。
「きゃああああああああああああああああ!!」
「しまった、こうなれば!!」
そう言ってナイフをリフィアに突き立てようとしたがタッチの差で俺の方が早かった身体強化をしてリフィアをベッドから引きずり出して俺の後ろに移動させた。
「伏せてろリフィア!!」
「は、はい!!」
リフィアは決して状況判断が出来ない人間ではない、瞬時に自分の置かれている状況と助け出してくれた人が誰であるかを認識すると指示に従った。
俺は瞬時に加速してナイフを持っていない男の前に魔力を込めた掌打を放つ。
白夜真抜流 格闘式 壱ノ型 揺らぎ
すると乱回転する風が巻き起こり男の腹を打ち抜くと壁にめり込んで意識を手放したのを確認したと同時にナイフを持った男に接近するが、この男は別格だ。倒した二人より手練れのようだな、けどーーー。
「この!!」
白夜真抜流 格闘式 肆ノ型 崩月
俺の手刀がナイフをへし折った。
「なっ、馬鹿な!?」
「終わりだよ。」
白夜真抜流 格闘式 伍ノ型 円脚
高速移動によって連続の蹴りが男の急所を確実に打ち抜きトドメの一撃が脳天を砕き床にめり込んだ。
俺が全員を倒したと同時にリフィア姫の部屋に人が雪崩れ込んできた。
「リフィア!!」
「姫、ご無事ですか?」
「は、はい、ユウ様が助けてくれましたから。」
「なっ、勇者様が?」
「ユウ様、賊と戦ったのですか?」
「えぇ・・・全員倒しましたけど・・・」
驚かれてはいるが、親父の扱きに比べたら大した相手では無かった。それに俺のスピードについて行けてなかったみたいだからな。
「ユウ様、危ない所を助けて頂きありがとうございました。」
「怪我が無くてよかったよ。」
リフィアから向けられる純粋な視線に俺も表情を緩めて笑みを浮かべて答えた。すると遅れて国王が俺の前にたった。
「娘を助けてくれた事を感謝する勇者よ。」
アドルフ王は俺を見下しているのを見て俺は敢えてその目に気が付いていない振りをして笑みを浮かべて軽く頭を下げるとメアリーに促されて、リフィアの部屋を出た。
そして、自分の部屋に戻ったと同時に結界を部屋に張り外へ会話が漏れないようにした。
「ユウ様?」
「メアリーさん、何か隠してますよね?」
「えっ、何のことでしょうか?」
「恍けなくても良いですよ。アドルフ王の態度を見てハッキリ分かりましたよ。明日、何があるんですか?」
俺に問い詰められてメアリーは息を飲む、ここは少し本性を見せておくか。
「メアリーさん、知っていますか?メアリーさんやリフィア姫以外の人って俺の事を名前で呼んでいないんですよね。だから分かりました。俺は明日死ぬんですよね?」
「っ!?」
「その顔を見て確信に変わりましたよ。」
薄っすらと俺は笑みを浮かべるとメアリーの背後を取るとメアリーは反射的に短剣を抜いてへと振るうが俺はメアリーの腕を掌打で受け止める。
「メアリーさんが短剣使いなのは知っていました。本当はリフィア姫の護衛で俺を監視する存在って言う事もね。けれど、俺は死ぬわけには行かないんです。」
「ユウ様、貴方は何処まで知って・・・」
「全てと答えます・・・メアリーさん、リフィア姫は決して死なせてはいけない人です。彼女を絶対に守ってあげて下さい。あと気が付いたらすぐにリフィア姫の所に行って俺の伝言を伝えてください。『リフィア姫が、俺と一緒にやって来た事をこれからも続ければきっとまた会えます』ってね。」
「それはーーっ」
メアリーが振り返る瞬間に俺は手刀で延髄に打ち込み脳を揺らしてメアリーさんを気絶させた。もう、後戻りは出来ない。少し早いけど脱出を開始しよう。
そして、俺は転移魔法を使ってローレンガルド王国の外へ転移して国外への逃亡を開始した。






