文字を覚えなければ。
予想外の出来事に頭が整理出来ていない状況で、何処からともなく現れたメイドに連れられて俺は客室に案内された。
「こちらをお使い下さい。」
「あ、ありがとうございます。」
「何かあれば何なりとお申し付けください。」
部屋から刺し込む日差しから昼下がりと言った所か・・・。
時間はありそうだ。少しでもこの世界の事を知っておいた方が良いな。
「じゃあ、書庫に案内してもらえませんか?」
「書庫ですか?」
「えぇ、この世界の事を知っておいた方が良いかなと思いまして。」
「かしこまりました。此方です。」
書庫に入ると近くの本棚に駆け寄ると背表紙に書いてある文字を見て、俺は顔が引き攣った。
「あの、えっと・・・」
「そういえば自己紹介をしていませんでしたね。私はメアリー・ハーヴェンと言います。メアリーとお呼びくださいユウ様。」
「メアリーさんですね。早速ですけど、この世界の言語って・・・。」
「アルス語です。」
やっぱりか、でもこうして会話が出来ているのは何故だ?俺は特に変わった物は・・・。
俺は自分の胸に手を当てた時に服の中に隠していたある物に気が付いた。
そういえば、この世界に来る前、母さんがお守りだって渡してくれたペンダント、まさかこのペンダント・・・。
「この世界は魔法が存在してますよね?」
「えぇ、ユウ様を呼び出したのも魔法です。」
「魔法を込めた道具とかもありますか?」
「はい、魔道具と呼ばれています。他にも自分の魔力を込めて作る魔武器と言うのも存在しています。」
つまり、このペンダントは母さんが作った魔道具の可能性があるって事か。
じゃあ、昔から母さんが不思議な力を持っているのは聞いていたけど、魔法が使えたのかもな。そうなると色々と説明が付く。文字は理解出来ないけどこうして話せているなら・・・
俺は一冊の本を手に取り開く。
「メアリーさん、この一文を呼んでくれませんか?」
「えっ?」
「言葉は分かるんですけど文字が読めなくて・・・」
「あっ、はい。」
メアリーに指で文字を謎って貰いながら読んで貰い文字の意味を覚えて行く。こうして話が出来ている分、文字を覚えるのが楽だ。これでもし言葉が通じなかったら苦労したけれど。
「賢者リーンが放つ魔法は森を吹き飛ばす程の威力を持っていた。」
なんとも物騒な一文だが、メアリーが読んでくれた文字から背表紙に書いてあるタイトルは『賢者リーンの伝説』と言う物語のようだ。
「物語だったんですね。」
「えぇ、これはリフィア姫様が大好きな物語なんですよ。」
「そうなんですね。」
そのリフィア姫様はこっちに近づいてきているんだよな。
「そのリフィア姫様は、こっちに来ているみたいですけどね。」
「えっ?」
この書庫の扉が開くとメアリーと並んで座っていた姿をリフィア姫が見て驚いたような顔をしていた。
「御機嫌ようユウ様、メアリーと並んで何をしていましたの?」
「御機嫌よう、リフィア姫様。メアリーさんには文字を教えて貰っていました。」
「私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
「えぇ、勿論。」
リフィア姫が俺の隣に座ると、俺はメアリーから教わった言葉を基に物語の続きを読み進めた。
「賢者リーンは世界の理を一つ解明した後、人前から姿を消しました。これで終わりですね。」
なんとか読み終えたな、途中、読むのに困った文章があったけど物語の流れから読んだけど大丈夫だったかな?
「えっと、どうしたの?」
「ユウ様、先程、文字が読めないと言ってましたよね?」
「うん、そうだけど?」
「じゃあ、もう文字を覚えたのですか?」
「メアリーさんが最初に読んでくれたからね。それで大体は・・・。」
訳とか間違っていなかったかな?
「こんな短時間で覚えるなんて・・・」
「凄いです。ユウ様。」
「これなら魔法も直ぐにマスターするんじゃないでしょうか」
「魔法と文字って何か関係あるのか?」
疑問に思った事を聞くとリフィアがメアリーに目配せしてメアリーが立ち上がると一冊の本を持ってきた。
「開いてみてください。」
俺は本を開くとそこには火の絵とアルス語で使用する文字ではない別の文字が書かれていた。
「これは初級魔法書です。最初に魔法の練習をする時に使う魔法書です。」
「これには魔法文字と魔法を使う時のイメージが書かれているんですよ。」
「その前にユウ様の魔法適性をこれで確認してみましょうか。」
「魔法適性って?」
意味合い的に使える属性とか系統とかの事だろうか、確か俺が居た世界の小説とかでもあったな炎属性とか治癒魔法とか幻惑魔法とかーーー。
「主に魔法の属性ですね。治癒魔法とか幻惑魔法とか種類はありますが、それは全部無属性に当ります。」
「なるほどな。」
分類は兎も角、考えは同じみたいだ。
けれどこの本でどの属性に適性があるか分かるってどういう事だ?
見たこともない文字だけど、否応にも炎を連想させる文字だな。意味合い的には論理的な思考とかしなくてもこの文字だけで炎のイメージが出来てしまう。
「どうですか?」
「どうですかって言うのは?」
「この文字を読めますか?」
読める?読めるってこの見たこともない文字を?
意味合いとかは確かに理解できる敢えて言うならこの文字は『フラ』と読める。
そこで俺は喉まで出かかった言葉を飲み込む。
ここはーーー。
「メアリーさんはこの文字が読めるんですか?初めて見る文字でなんて書いてあるのかサッパリなんですけど?」
「そうですか、そうなるとユウ様は炎属性の適正が無い事になりますね。」
「どういう意味です?」
「この本が魔法適性を計る事が出来るのはその文字が読めるか読めないかによるからです。」
つまり、この文字を『フラ』と読んでいる俺には炎属性の適正があるって事か。
「ちなみに私は光属性の適正があるんですよ。」
隣に座っていたリフィアが本のページを捲り光属性の事が掛かれたページを開いた。
これが光属性、なるほど守護、聖域、癒し、慈愛を思わせる文字だ。『ルメ』と読める。
けど、これも言うべきではないな。
俺は、自分の直感を信じて首を左右に振った。
「では私が得意の属性もお見せしましょうか。」
そう言ってメアリーが捲ったページは『ウェン』と読める文字が描かれた風属性を連想する文字だった。
しかし、この文字は先程の『フラ』や『ルメ』と比べて強く連想出来た。
「これは『ウェン』って読めます。」
「むぅ・・・」
「ではユウ様は風属性の適正がありますね。」
隣のリフィアが頬を膨らませたのは俺と同じ属性では無かったことによるものだろうか?
とりあえず他の属性も見てみよう。
次に捲ったのは『アクル』と読める水属性の文字だった。しかも風属性の文字よりも強く連想出来た。
「『アクル』・・・なんだこれ凄く濃く見える。」
その瞬間、俺の頭に冷たいイメージが過り『グラキ』という文字が頭に浮かび上がった。その文字が意味する属性は氷属性だ。
その後、いくつかのページを捲ったが読めない文字は無かった。そこで俺は風属性と水属性に適性がある事にした。