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異世界転移したら俺は巫子の出自だった。  作者: K.ユフィン
第2章
19/82

アフターケアをしなければ

 

 レラシオンでの一件から数日が経過した。結果から言えばアキハさんから言われた期日通りに事を済ませる事は出来た。ロベルト・マーカスが筆頭になって行っていた悪事の証拠が次々と発覚した事で爵位を剥奪されて、アーデンエリス王国から追放される運びとなった。


 勿論、それに加担していた者達も同罪として芋蔓式に摘発されて行った。娼館で働かされていた貴族の娘達は皆、家を失っている関係で修道女として教会で働く事になっている。


「そうですか・・・レーンベイス枢機卿には感謝しております。あの後、ロベルト・マーカス元侯爵が捕まるまでの間、彼の敵視を教会に向けて頂いたお陰で事を上手く運ぶ事が出来たのですから。」

「こちらこそ感謝しておりますよ。コウ殿が彼の者が捕まるまでの間、エミリアのガードに入ってくれたからこそ出来た事でもありますからな。」


 レーンベイス枢機卿が付けて来た交換条件とはマーカス家に不都合な噂を立てる代わりに娘のガードに入れという物だった。その結果、俺がエミリアさんの婚約者として振舞わなければならなかったというのもありレラシオンから戻って来て早々に教会でボディーガードを務める事になってしまったのだ。

 しかも、レーンベイス枢機卿が流した噂は瞬く間に広がり、マーカス家の人間がちょっかいを掛けて来たものだから返り討ちにしたり、俺達を見つけるや否や一気に人が集まる物だから脱出する為に色々と労力を使い。最終的に寝ていない事をエミリアさんに感づかれてしまったのは俺のミスだ。


「それはそうとエミリア様は?」

「あぁ、エミリアなら新しく入った者達の指導を手伝っております。見学していかれますかな?」

「はい、気になってはいましたからお願いします。」


 助けた後も問題は無いか気になるしな。ちなみにトク姫様と黒豹族の娘と白虎族の男をカグラハラ国で保護する運びとなった。

 亜人である二人は希少種に属する亜人であり、カグラハラ国では保護の対象となっているのだ。トク姫に関しては母方の本家で一時的に保護されていたが、彼女が巫女の適正がある事が分かり彼女たっての希望で巫女の修行をする事になった。

 亜人である二人も今は俺が所属する諜報部隊『暗月』の一員となるべく修行をする事になっている。暗月には捕まっていた娘と同じ種族の者がおり彼女が適任と言う判断となり教官として就いてくれているので安心だ。


 今回の一件が一段落したとしてもアフターケアは必要という事で定期的に教会へ顔を出しているのはこの為である。


 俺が案内された場所は男子禁制である為、入れる場所は礼拝堂のみとなっている。中に入ると修道女達が集まって歌の練習をしていた。どうやら、皆、顔色等は良くなってきており身体の方は問題無さそうだ。

 中には薬を使われ焦点が合わず幻覚を見ていた娘も、中和剤を打った事で大分回復してとの事だが、今だに病院で過ごしている者も居る。そちらは宵華達が見に行っている。

 俺は巫女の瞳を開眼して遠目から健康状態を確認すると身体の方は経過は良好だが、心に負っている傷は深かいようだ。

 俺達、巫女が持つ瞳は心に受けているダメージをイメージとして表面的に読み取る事が出来る。見え方には個人差があり宝石のような鉱物に見える人や炎のように見える人と違いがある。俺の場合は核を中心にオーラが揺らめいており精神状態が色で判別出来る。

 皆、核が傷つき不安定なオーラを放っている。つまり、心に深い傷を負い不安、悲しみ、絶望と言った負の感情を放っていた。


 無理もない・・・こればかりは俺がケア出来る領域を超えている・・・何より、今の彼女達に俺が近寄っても恐怖心を煽るだけだ。


 彼女達は、総じて男性恐怖症を患っているのだ。それでも修道女として働かせようと言う話になったのは彼女達に生きる糧を得させる為だ。そこから自分なりの道へ歩む手助けになればと言う思いもあっての事だ。


 歌が終わり休憩時間になったようで各々が奥へと入っていくのを見送るとエミリアが此方に駆け寄ってきた。


「コウ様、またご様子を見に来てくださったのですね。」

「えぇ、皆さん、少しずつですが回復をしているみたいで安心しました。」


 そう返すとエミリアは少し悲し気な表情を浮かべた。それを見たレーンベイス枢機卿が突如立ち上がり。


「エミリア、コウ殿のお相手をしてあげなさい。上には話をしておくからの。ではコウ殿、私はこれで。」

「えぇ、ありがとうございます。」


 そう言って、レーンベイス枢機卿は去っていった。なるほど、俺に修道女達が修行をする場まで来るように言ったのは孫娘のケアをしろという事なのだろう。


「外の空気でも吸いに行きましょうか。」

「はい。」


 今日は快晴で外を歩くには丁度良い気温だしな。


「んっー!!はぁー・・・。」


 外に出て思わず大きく伸びをする俺を見てエミリアがきょとんとしているが、俺は敢えて来ていた服を着崩して笑みを浮かべる。


「んっ、あぁ、どうにも堅苦しいのは余り得意じゃなくてね。位は持っていても元々は庶民だからな。俺の祖母、キクナ様ともプライベートはこんな感じだよ。意外だったか?」

「いえ・・・そのような。」

「屋根の上にでも行きましょうか。」


 エミリアに有無も言わさずに飛翔魔法を掛けて飛び上がり屋根に飛び乗ると腰を下ろすと彼女も隣で腰を下ろした。


 さて、どうしたものか・・・。


「エミリアさん、少し疲れているでしょ?」

「いえ、そんな事は・・・」

「身体じゃなくて、心がって意味だ。こう見えてカンナ院の巫覡だ。俺も巫女達と同じ力を持っているからね。見てれば分かる。」

「・・・」


 そう問うとエミリアは俯いてしまう。ちょっといきなり踏み込み過ぎたか?


「コウ様は、彼女達がどういう目に遭ったのかを見ていらしたのですよね?」

「・・・レーンベイス枢機卿から聞いたの?」


 どうやらレーンベイス枢機卿は俺がレラシオンで彼女達を助けた事を話していたようだ。まぁ、話すなとは言っていないからな、レーンベイス枢機卿は弁えている人だから孫娘であるエミリアと身の回りの事をしている執事に話している程度だろう。


「その、私にも」

「それ以上の事は聞かない方が良い。聞いたところで彼女達に何か出来る訳じゃないからね。」

「っ・・・」

「彼女達が負った傷は相当な物だ。俺も出来るなら手を貸したいけど、俺が今出来る事は彼女達に近づかない事だからね。今日みたいに彼女達を見て経過を確認する事しか出来ないんだよ。

 あんな風になる気持ちも分からんでもない。家を失って、助けが来る事を信じて張り詰めていた糸はバッサリと切られてしまったからね。」


 貴族達の慰み物にされながらも国は助けてくれるとギルドが捜索してくれていると思っていた中、クランサブマスターが手を貸していた事を知ってしまえば心が折れてしまうのは必定と言ってもおかしな話では無い。それだけクランと言うのはこの国にとって偉大な存在だったのだから。


 捕まった劫火の灰塵のクランサブマスターは直ぐに処断されている。事もあろうに民衆の希望を背負う者が裏切りを働いたのだ当然の報いと言える。


「エミリア、正直に言えば彼女達に何かを出来ないかと考えるのは立派な事ではあるけれど、正解では無い。出来る事は何も無いに等しいよ。」

「では、私はどうすればいいのでしょう。」

「エミリアがいつもやっている事を全うすれば良いんだよ。いつも通りで良いんだ。その姿がいつか彼女達の目標になる。そうなった時、初めてエミリアに出来る事が生まれるからさ。」


 とは言え、彼女も貴族の孫娘、いつかは修道女では無く正妻として何処かの家に嫁ぐ事になるだろう。それを分かっているから少しでもと言う気持ちがあったのかもしれない。


 エミリア・フォン・リーンハインスという少女は他人の心に寄り添おうと努力する者である事は、ここ最近、関わるようになって分かってきた事だ。それ故に気が付かない内に自分を追い詰めている所がある。


「慌てなくても良いんだよ。例えエミリアが何処かの家に嫁いで此処を出る事になったとしても、エミリアを見て目標とする子はきっとあの中にも居る。その子達の為に今、エミリアがするべき事をすれば良いんじゃないかな。」

「はい。」


 ようやく、彼女が笑みを浮かべた為、俺も笑みを返した。その後は暫く雑談をしたが彼女はクスクスと上品に笑う表情からは先程まであった陰りは消えていた。





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