アーデンエリス王国に派遣されます。②
この場に居ると何れ、衛兵が来る気配を感知したので豊水の癒し手のクランハウスがある場所から少し離れた喫茶店に入った。
「さっきは危ない所を助けてくれてありがとう。私はアンリ」
「私はリーフィと言います。」
アンリは活発そうな印象だな。髪の色が赤いと言う事は炎属性が得意そうだ。振る舞いから貴族らしくないけど作法はしっかりしている所から貴族みたいだな。笑顔になった時に八重歯見えるのがチャームポイントかな。
リーフィは青い髪から水属性が得意そうだな、アンリとは対照的に控え目な性格をしているみたいだな。リーフィの方が貴族らしいな。出るところは出てて引っ込む所は引っ込んでいる。
「俺はコウだ。よろしく。」
「もう、魔法さえ使えばあんな奴等・・・」
「もしかして、宮廷魔法学院の生徒か?」
「来週の試験に合格したらね。」
「そっか、じゃあ俺と同じか。」
俺の言葉に二人は眼を丸くした。そんなに驚く事だろうか・・・。
「てっきり、王立騎士学院の生徒さんかと」
「まぁ、護身術は接近された時の対処として必要だから覚えているだけだよ。」
これは一般的な解釈である。魔法使いは魔法を極める事を生業としている為、格闘術や剣術への優先度が低い傾向にある。しかし、冒険者やギルド員は日々魔物と戦う為、どちらでも対処出来るように武器と魔法を絡めた戦い方をする者も居る。これは単独任務が多い者によくある傾向だ。
例えば冒険者でもパーティーを組んでいる場合は魔法だけに専念できる為、後方から援護し前衛に戦士クラスの人間を置くのが基本だ。
俺は元々、刀、槍等の近接武器に格闘術は全て白夜真抜流という流派を使い、補助として投擲武器を多用する。遠距離武器は弓や銃も使えるので一人で状況に応じて立ち位置を変える事が出来る。単独任務では手数の多さが物を言う事がある。
「じゃあ、お互い試験に合格すれば同級生ですね。」
「私、首席合格目指しているから。負けないわよ。」
「俺は出来る限りの事をするだけかな。」
俺は近くにある時計を確認する。そろそろ集合時間だな。俺は伝票をさり気無く取って立ち上がる。
「それじゃあ、それはそろそろ行かないと。」
「ちょっと自分達のお代ぐらい払うわよ。それに助けてくれたんだから奢らせてよ」
「また会えるんだろ?それで充分だ。じゃあな。」
俺は代金を支払ってその場を後にした。
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コウが去ったのを見送った二人は彼が歩いて行った場所を見つめていた。
かっこいい奴とアンリは思っていた。
「ねぇ、リーフィ?」
「来週の試験、頑張らないと。」
隣に座っていたリーフィは一人握り拳を作って気合いを入れていた。
「もしかして、リーフィ・・・あんた」
「ふぇっ、あぁ、違うよ違うよ。助けてくれて格好良かったしまた会えるなら試験頑張ってまた会わなくちゃって思っただけだよ。」
否定しているつもりが全く否定出来ていない。それ以上に完全に自爆している親友の姿にアンリは呆れるしか出来なかった。
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宵華達に念話をして戻る事を伝えると俺は集合場所を歩き始めた。
「シア、どうだった?」
俺が問いかけると俺の影からフードを被った女性が姿を現した。彼女はフリーシア、氷属性を司る大精霊であり俺の使い魔であり苦楽を共にした相棒でもある。彼女は精霊である身を利用して霊体化をする事が出来る為、こうして俺が命じた時に偵察をしてくれたり一緒に戦ってくれたりもしてくれる。
彼女の容姿は非常に目立つ、美しい結晶のような青い髪に瞳、雪のように妖艶で白い肌が彼女の持つ魅惑のプロポーションは男の目を釘付けにしてしまうだろう。
初めて出会った時も純粋に綺麗だと口走ってしまった程だ。
「はい、遠くで彼女達を見守る人間が数人。マスターが助けに入らなければ彼等が助けて居たと思いますが・・・」
「けれど、間に合わなかっただろうな。護衛も彼女達を陰ながら見守る役目だったみたいだから冒険者に言い寄られた時も人目を気にしていたみたいだし。あの路地追い遣られたら助けようとした所に俺が出くわしたって所か・・・治安が良くても、あんな輩は居るもんだからな。」
そう言う光景は世界中を回って何度も見て来た。アーデンエリス王国が如何に美しく治安が良い国だとしても、蠢く黒い存在というものはあるものだ。奴隷市場とかは全面禁止で摘発されているみたいだけど。他の国では奴隷制があり、それを連れて歩く人間も見かける。
流石にボロの服を着させて歩かせると主の品位を問われるから最低限の身だしなみは整わせているみたいだがな。
「マスターは、あの二人のどちらがタイプですか?」
「・・・シア、何故、今ここで聞く?」
「先程の女性に言い寄られていた男性を助けずに、あの二人は助けたでは無いですか?」
「いや、最初のは明らかにあの男のだらしなさが招いた結果だろ。助ける理由にはならん。それに彼女達が貴族だって察したのも振る舞いと作法を見てだ。平民でも作法を身に着けている人は居るけど、しっかり訓練された人と比べると違いが出るものだ。寧ろ作法については俺の方が間違っていないか心配になったぐらいだ。」
「ご謙遜を余裕でしたでしょ?」
隣でシアがクスクスと笑う彼女は生まれて間もない大精霊であり、実年齢としても俺と二つぐらいしか違わない。時々俺を弟のような扱いをしてくる時があるが敬意をもって接してくれている。シアは敬語だが基本的には砕けた関係なので、主と使い魔と言う関係は余り無い。
礼儀作法も貴族や王族と会う関係上、キクナ様やアキハさん、キリハさんにみっちり仕込まれたからな。社交界や茶会でも問題は無い。
寧ろ、シアからは「草刈り場に過ぎないですよね。」と言われている。
「では私は戻りますね。また何かあれば呼んでください。」
「あぁ、ありがとう。」
彼女達は俺達が住む世界とは違う世界である精霊界から召喚される。召喚する時は肉体に刻まれる契約紋を触媒に召喚する事が出来るのだ。シアが居なくなると宵華達の姿を確認出来た為、宵華達と合流した。