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あれから1ヶ月がたち、俺とリュークは2人して学園から合格を貰い堂々と学園へと向かっていた。
勿論、俺もリュークも魔法剣士科だ。
…上手く上位に入ったもんだと思う。
だが、それもそのはず。
なぜなら俺とリュークはリヴィアに扱かれたんだから。
リヴィアから魔法を放たれまくって、剣を教わった。
そんな俺等がそう簡単に落ちるわけが無い。
……ってか、そう簡単に落ちたら殺されるぞ。
「学園生活か……。
貴族とかにはあんま関わんねぇようにしようぜ」
「あー……そうだな。
カイが色々と問題起こしそうだしな…」
「問題起こすってんならリュークの方だろ!?
何で俺が問題起こす事になってんだよ!?」
聞き捨てならないとばかりに口にするがリュークは笑って誤魔化した。
俺はため息をつき、まぁ、リュークだしな…と思うことにした。
「この学園はいつからこんな弱そうな奴を入れるようになったんだ?
田舎臭い奴らは私の前を歩かないで貰いたいものだ」
どう考えても貴族の言葉だった。
先程関わらないように…と言ったばかりなのにも関わらず既に関わらざるを得ない状況になっているとは……どういった了見だろうか?
「カイ、行こうぜ」
「お、おう……」
珍しくリュークが噛みつかないためホッと胸を撫で下ろしたのも束の間……。
「ふん、礼儀も知らぬ平民が……。
平民は平民らしく私達貴族にひれ伏していればいいものを」
その言葉により俺とリュークの足がピタリと止まった。
「リューク、悪いがやっぱダメだわ。
コイツを許せそうにねぇ」
「……カイ、俺も許せそうにない」
その少し顔の整った貴族は俺等を見るとふんと鼻で笑う。
そしてやはり、小馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。
「平民如きが私に何をすると?
私はレクトール・ヘルナス。
ヘルナス公爵家の跡取りだぞ」
「…それがどうした?」
「貴族と平民って…ここじゃあ関係ねぇんだったよな?」
「何も知らぬ馬鹿どもめ。
私の職業は魔導師、貴様らなんぞに負ける事はない!」
魔導師って……俺は守護者だし…(??つきだけどな)リュークに限っては勇者だ。
コイツにどうこうできるとは思えない。
まぁ、それは職業だけを見た場合だ。
とはいえ、総合的に見てもリュークや俺が勝つだろうけどな。
「あんたさ、ワイバーンより強ぇの?」
「……は?
ワ、ワイバーン、だと?
最弱とはいえ竜種のワイバーンよりも強いわけがないだろう!」
だとしたら相手にすらならねぇ。
俺もリュークもワイバーンなら1人でどうにか出来る程度までには育てられた。
元々村に出る魔物を追い返したりはしていたせいか戦闘能力も程々にあったのだ。
それもあり、俺とリュークは1ヶ月の間にワイバーンならば狩れるようになった。
………死にそうになったけどな。
「んじゃ、相手にならねぇと思うぜ」
「リュークはこれでも上位の戦闘職だしな」
「……な、な…!?
き、貴様ら、私を愚弄する気か!?
いいだろう、決闘だ!!」
話を聞かないのは貴族に多いよなぁ……などと思いつつどうする、とリュークを小突く。
「カイ、逃げないか?」
「……そうするか」
「合図したら走るぞ」
「あぁ、分かった」
俺達は小さな声での相談を終えるとすぐにレクトールだかの後ろを指さした。
「な、なんだあれ!?」
「……は?」
「行くぞ!」
「おう!」
「な、お、おい!
貴様等!!」
完全に振り切ったことを確認してから息を整え、何事も無かったかの様に歩き出した。
「あー、ついてねぇ……。
まさか初日から貴族に絡まれるなんてなぁ……」
「まぁ、なんとかなるだろ」
俺もリュークも軽い気持ちだった。
……俺等は2人して楽観的思考の持ち主なのだ。
「カイ、今日から寮生活だったろ?
どうせだしこの後ギルド行って模擬戦でもしねぇか?」
「あー……パスで。
鍋と瓶が欲しいんだよなぁ……。
あとは砂糖も(黒糖だが)貰ったしな。
小麦粉がありゃ、新しいもんにも挑戦したいんだよな」
そう、小麦粉もちゃんとあればタルトが作れると思うのだ。
うろ覚えだが作れるだろう。
リュークが好きなキィの果実のタルトなんかも……。
「新しいものって……キィの果実を使った新作か!?」
「まぁな。
何作るかは秘密な」
リュークはあからさまに目を輝かせた。
俺の手を取ると会場とは逆方向へ走り出そうとする。
「っしゃぁ!!
今すぐ買いに行こうぜ!」
「いや、入学式終わってからだからな!?」
リュークはちっと小さく舌打ちをすると仕方なさそうに会場にむけて歩き出す。
……やっぱりリュークを1人で行かせなくて良かったと思う俺だった。
式は無事に終わり俺とリュークは科事に分けられている教室に向かった。
クラスは実力事に分けられており、上から1~9で1クラス20人の合計180人だ。
年々退学者が出てくるため卒業までには結構減ってしまうらしい。
「あ~、眠ぃ……」
「ったく…昨日あんなはしゃいでたのが悪いだろ……」
昨日のリュークの様子を思い出して苦笑を漏らす。
昨日のリュークは今日から始まる学園生活を楽しみにしすぎていたのか目を輝かせて語っていたのだ。
俺は途中、刻み刻み寝ていたからいいが……リュークは殆ど寝ていない。
まぁ、自業自得とも言えるのだが。
「仕方ないだろ……。
楽しみだったんだよ……」
「仕方ねぇな……。
しばらく寝てろよ。
俺が起こしてやるから」
「……ん、悪ぃ」
リュークは俺の言葉で安心したのかすぐに眠ってしまった。
そんなリュークの寝顔を見て俺は思わず目を細めた。
向こうに残してきたガキ共を思い出したのだ。
……ガキ共は元気にしているだろうか?
園長はまだ生きているのだろうか?
そんな心配事ばかりが思い浮かぶが俺には何もできない。
もう、何も………。
俺に出来ることと言えば祈る事しか出来ないのだ。
その事実に俺は目を伏せる。
「お!?
ここっすね!
ありゃ、先客っすか。
自分、ティードっす!
よろしくっす!」
変わった話し方の奴が教室に入ってくると俺等を見つけるやいなやこっちに寄ってきて勝手に自己紹介を始めた。
「声、落としてくれ。
コイツが寝てるからな。
…俺はカイだ。
寝てるのはリューク。
宜しく頼むぜ、ティード」
先程よりも少しだけ声を落としてティードは笑った。
「カイにリュークっすね。
了解っす」
リュークを起こさないのならば問題ないと俺はティードを無視することにした。
……ティードは後々面倒事を引き起こすようなタイプの気がしたのだ。
「カイはどこの出身っすか?
やっぱこの王都っすか?」
「………少し離れた村だ。
レクハル村っつうところだ」
仕方なく答えるとティードは少し考える素振りをしてからまた質問を重ねてきた。
「リュークも同じ村の出身なんすか?」
「あぁ」
俺はティードをチラッと横目で見ると再び興味無さげに視線を逸らす。
「……カイって結構人見知りする方なんすね!」
「……そんなんじゃねぇよ。
余計な音を立てたくねぇだけだ。
……リュークが起きるだろうが」
すると暫くティードは言葉を噤んだ。
そのまま沈黙の時間が流れる。
だが、またもや邪魔が入った。
「ここかしら?」
「そうみたいですよ。
ほら、カリン、早く入ってください」
「リナが先に入ればいいじゃないの……」
扉の向こうから聞こえくる女子2人の声にリュークが小さく呻き声をあげる。
「……ん…カイ……?」
「リューク、おはよう。
どうする、まだ寝るか?
あと少し時間あるぞ」
ボーッとしているリュークにまだ寝ているかと聞いてみるがリュークは目をこすって周りを見渡した。
「………や、いい……。
…カイ、コイツ誰?」
リュークはティードを指差して俺に訪ねてくる。
……随分失礼なことをしている気もするが…リュークだからな。
「あぁ、コイツは………」
「ティードっす!
よろしくっす!」
「ウザイ奴だ」
俺は本当のことを口にしたまでの事。
何か言われる覚えはない。
「酷いっすよ!?
自分、傷つくっすからね!?」
「…俺はリュークだ」
リュークは少し機嫌が悪いようだった。こういう時はキィの果実を出してやればいいのだが……。
「あら…あなた達、さっきヘルナスの馬鹿レクトールと喧嘩してた2人じゃないの」
「ちょっと…カリン!?
す、すいません、カリンが……」
カリンと呼ばれた気の強そうな金髪少女とは別の、緑の髪の少女が俺達にペコペコと頭を下げる。
その話し方や佇まいからして2人は貴族か商家なのだろう。
「……別に。
それより、あのレク何だかって奴の事、知ってるのか?」
「俺も気にしてないからいいぞ」
リュークはレクトールの名前をちゃんと覚えていないらしかった。
ま、村でも覚えるのは俺の役目だったからな。
「えぇ、勿論知っているわよ。
魔導師の職を持っているからといって甘やかされてきたヘルナス公爵の長男。
まぁ、ヘルナス公爵はレクトールに後を継がせる気はないようだけれど」
「あいつ、自分で跡取りだとか吐かしてたぞ?」
「えぇ、まぁ……頭が弱いのよ。
それに、まだ公爵は伝えていないと思うし…」
それに対して俺達2人が思った事は貴族って大変なんだな……ということくらいだった。
そんなに興味がないのだ。
まぁ、決闘だとか吐かしてはいたものの俺やリュークならば簡単に勝てるという自信があった。
「カイ………腹減った…。
何か食うもん持ってねぇか……?」
「…はぁ。
仕方ねぇな……。
ちょっと待ってろ」
俺は鞄の中からスプーンとゼリーを取り出した。
昨日、ギルドからの帰りにキィの果実を少しだけ買っていたのでそれを使っていつものゼリーを作ってみたのだ。
……一応持ってきておいて良かった。
「おぉ!
サンキュ、カイ!」
「おう!
……お前らも食べるか?」
俺は近くで見ていた3人にも声をかける。
すると、勿論というようにカリンが手を出したので鞄から取り出して渡してやる。
「へぇー、美味しいじゃない。
これ、どこの店で買ったのかしら?」
「ほんとっす!
こんなゼリー売ってるとこ、聞いたことないっすよ……。
こんな美味しいなら評判になってそうっすよ……」
「このゼリー、なんの果実を使ってるんでしょうか?」
まぁ、美味いって言われる分には嬉しいが…買ったと思われてるらしい。
俺が作ったとは考えない3人に俺は苦笑をもらす。
「買ってないからな。
キィの果実を使ったゼリーだ」
「買ってないって……貰い物?
それとも、料理人が?」
貰い物か料理人とは……そんなにも俺が作ったようには思えないのだろうか?
……いや、俺も前世でガキ共に作ってやったりしてなければ作れなかっただろうしな。
「カイの作ったもんだぞ。
カイの作ったもんは美味いんだ!」
リュークが笑顔で俺の料理(お菓子)を褒めてくれる。
その笑顔に俺はタルトを頑張って作ろうという気になる。
ただ、そんな中、周りの3人のポカンとした表情に俺は笑いを堪えるのに必死になるのだった。