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あれから約二日間の幽閉生活を終え、俺とリューク、そして案内の教会騎士と共に王都の街へと繰り出していた。
「うぉー! すげぇ!
なぁ、カイ!
あれも、あ、こっちも全部美味そうだぜ!」
「学園入学するまで楽しみは取っておくぞ」
「……二人共、はぐれないで」
俺とリュークの後ろを眠そうな顔で着いてくるのはレイさんだ。
教会所属の騎士の中では一、二を争う強さらしい。
「……どこ、行きたい?」
「「ギルド!」」
「………分かった」
リュークは俺の隣を歩き楽しみだな、と、俺もそうだな、と言って笑い合う。
色々なものに目移りしながらレイさんを必死に追いかける。
「ここ」
「は、入っていいか!?」
「すっげー……」
「……一応、許可はされてるから」
許可がおりたとばかりにリュークはギルドの扉を開け、中に入る。
ギルドの中は多くの冒険者が居て奥に受付があり、その横には依頼ボードがある。
正にギルドといった様子のところだ。
「なぁ、なぁ!
冒険者登録ってしていいのか!?」
レイさんが無言で頷くと俺もリュークも目を輝かせて受付に走る。
「冒険者登録お願いします!」
「俺も、お願いします」
「え、えっと……?」
「……マスター、居る?」
俺達の服の襟をレイさんは掴むとそのままマスターの執務室へと連れ込む。
そしてソファへむけて投げると自分はゆったりと座った。
「レイ、その二人がそうなんだな?」
「……ん」
「そうか。
私は、このギルドのマスターを務めているリヴィアだ。
勇者とそのパーティの支援をすることになっている。
よろしく頼むぞ、勇者殿?」
リヴィアは長い足を組み、値踏みするように俺たちを見ていた。
彼女がすぐ手に取れる程のところに大剣がむき出しで置いてあり、それが余計緊張感を俺たちに持たせる。
「……俺が勇者のリュークだ。
隣にいるのはカイ。
一応、守護者で俺の一番の親友であり、家族だ」
一応ってとこは引っかかったものの一番の親友やら家族だと口にされたことで全て吹っ飛んだ。
「ほぅ?
守護者、ねぇ……?
ならば私の一撃くらいは持ちこたえてもらわねばな」
俺は顔を引き攣らせながらリュークを見る。
するとリュークは何故か満面の笑みでグッと親指をたててきた。
「は?
い、いや、確かに守護者ではあるがっ!」
「大丈夫だ。
カイならやれるって信じてるから」
「……ちょ、おま、リュークゥゥゥゥ!?」
俺は満面の笑みを浮かべるリュークに裏切られマスターに引き摺られながら訓練場へと連れてこられた。
「カイ、だったな?
守護者というのなら、私の魔法を受け止めてみろ」
「はっ!?
無理、無理だからな!?
なにクソジジイ並に無茶言ってんの、アンタ!?」
などと口答えしているうちに魔法が放たれる。
火属性の上級程の魔法だ。
『ふぉっふぉっ……ふぉ!?
わし、遊びに来ただけなのに何でこんなことになっておるんじゃ!?』
「うっせぇ、クソジジイ!
いいからなんとかしろぉぉぉ!」
『わし帰……』
「あぁ!!
クソっ!!
テンセイシンサマー、オタスケクダサイオネガイシマス!」
『ふぉっふぉっふぉっ!
やってやらんこともないぞい。
えい!』
クソジジイが気の抜けるような声を出した瞬間魔法が消える。
それと同時に尊厳という大事なものを失った気がした俺は、その場に崩れ落ちる。
このクソジジイに敬語を使わざるを得ない状況になるなど……もう二度とあってたまるものか。
そんな必要のないくらいに強くなってやる。
そんな理由から俺はこの先修行に明け暮れる事になるのだが。
「なっ……掻き消された、だと!?」
驚いているリヴィアを差し置いてリュークはステージに上がり、俺の肩を持つ。
「カ、カイ!
どうしたんだ!?」
その声からは焦りの色が見えた。
だが俺はリュークの声よりも頭の中に響くようなクソジジイの声のせいで正常な状態では無かった。
『ふぉっふぉっふぉ!
どうじゃ、わしの力は!
凄いじゃろ!
どうじゃ、褒めてくれても良いのだぞ?』
ぶん殴りてぇ……。
とにかくあってぶん殴ってやりてぇ……。
『どうしたんじゃ、ほれほれ?
転生神様ありがとうございます、と言ってみぃ。
ほれほれ』
俺の肩は既に細かく刻んでいた。
そう、ウザすぎて。
イラつきすぎて。
「テメェ、黙りやがれこのクソジジイ!
さっきから頭ン中でウゼェんだよ!
ってか、ステータス画面どうにかしろや!
加護のver.2って何だよ!?
ver.2って!!
加護にver.1とかver.2とかあんのかよ!?
テメェ、俺のステータスで遊んでやがるだろ!」
『ふぉっふぉっふぉ!
わしは知らんぞい!』
「知らんじゃねぇぇぇぇぇ!」
俺は土に拳を何度も叩きつける。
そうでもしなければやっていられないのだ。
……本来ならクソジジイの顔面を殴りたいのだが。
~リューク~
「勇者殿、カイはどうしたんだ?」
「……クソジジイってことは、転生神と話してるんじゃねぇか?」
「……て、転生神様だと?」
「何か知らねぇけど、カイって転生神に好かれてんだよなぁ……」
うるせぇぇぇぇぇぇ!!
と叫ぶカイの姿を見ながら俺はマスターに話す。
カイが転生神とかってやつに取られたようでなんか嫌な気もするが邪魔を出来そうな雰囲気ではなかった。
「はぁ、はぁ……。
リューク、悪ぃ……。
待たせちまったな」
「仕方ないから許す!
で、カイ、大丈夫なのか?」
「おう!
体は大丈夫だぞ!
ただ、あのクソジジイの力を借りちまったことだけがな……」
いつも通りのカイで安心した。
器の小さいことを思ってしまったことに若干、申し訳なさを感じていたのだがカイは笑っていた。
そんなカイの優しさが俺には眩しく感じた。
俺はこんなにも器の小さな奴なのに、それなのにカイはこんな俺についてきてくれる。
「ははっ!
だが、カイが無事で安心した」
「いや、もとはと言えばお前が俺を売ったんだろうが!?
流されるところだった……。
だが、心配させて悪かった、リューク!」
俺は、この時再び決意した。
これだけはなにがあろうと絶対に違えることはしないという決意を。
俺は、カイを守るために勇者として活動しよう。
俺を助けて、守ってくれたカイのために。
今度は俺がカイを守る番だ。
きっと、カイではなく俺が勇者になったのはそういう意味なのだろう。
俺の親友であり、一番の理解者であり、大切な家族であるカイのために。
俺はその決意を心の中でカイに誓った。
何があろうとカイを守ると。
カイのための勇者でいると。
そんな誓いを……。
~カイ~
リュークが俺にいつもの笑顔を向けてくる。
その笑顔はいつもよりも暗い気もしたが俺が心配させたのが理由だろう。
「二人共、カードを発行するから一旦戻るぞー」
リヴィアは出口で俺とリュークに声をかけるとさっさと行ってしまう。
そんなリヴィアに俺とリュークは顔を見合わせ走った。
それからリヴィアの部屋に戻るとカードに血を流し、名前が浮き出たところで登録完了となった。
俺とリュークのカードには名前の横にGと記入されている。
ランクはG~Sの八段階だそうだ。
Cランクから一人前と言われるらしい。
Sランクは世界で三人しかいないらしいのだが、そのうち二人程は放浪しているらしい。
一人は山篭り中のようだ。
……つまりのところSランクは自由人という事だ。
最後にパーティについての説明をされた。
パーティは基本四、五人程で組むらしい。
ヒーラーは貴重なので他のパーティに引き抜かれないように気をつけろとのことだ。
なんでもヒーラー絡みで揉めるパーティが後を絶たないらしい。
「カイ、パーティ組もうぜ!」
「おう!」
「パーティの申請はカードを使えばいい。
カードを重ね合わせ、パーティ申請と言えばいい」
リヴィアの説明に頷くと先程貰ったばかりのカードを取り出し重ね合わせる。
「「パーティ申請」」
すると、カードの横にパーティメンバーという枠が増えていた。
そこを押してみるとリュークと出た。
……スマホのようなものと考えておけばいいだろう。
「なぁなぁ、依頼受けてみようぜ!」
「だめ。
……神官長に、許可、貰ってから」
レイさんが止めたことでリュークは拗ねてしまったようだが理由は分かっているようなので文句は言わなかった。
「リューク、悪い……。
俺もちょっと疲れちまった……。
それと、そろそろ母さん達に手紙出さねぇと」
「早く出さねぇと、なにされるかわかんねぇ……!
か、カイ!
早く戻って手紙書くぞ!」
「そうだな。
……後が怖ぇし」
俺とリュークの取るべき行動が決まったところでレイさんがリヴィアに頭を下げて退出する。
俺たちもそれに沿って頭を下げてからレイさんを追って走ったのだった。
「……待って。
少し、寄るところが、ある」
「じゃ、早く行こうぜ!」
「ふーん……」
俺もリュークも文句など言えるはずもなく黙ってレイさんの後ろを歩く。
レイさんはいくつかの店に立ち寄り色々と購入してから教会に戻った。
そして、俺達を部屋に送り届けた時、一つの紙袋を渡してくれた。
「……キィの果実。
二人で食べて。
……便箋と書くものも」
キィの果実と聞きリュークはすぐに目を輝かせた。
それに、便箋と書くものも買ってくれたとは……。
なにからなにまでやってもらうことになってしまって申し訳ない。
「サンキュ、レイ!」
「ありがとうございます。
リュークがキィの果実が好きだって知っていて?」
「……キィの果実を見ると、目で追ってたから」
……どうやらリュークの視線が原因らしい。
だが、良く見ていたものだと思う。
それも騎士としては当たり前なのだろうか?
それとも、護衛という意味もあったためだろうか?
どちらかは分からないがそれでもリュークがあれだけ喜んでいるのは見ていて嬉しく思った。
「カイ!
あれ食いたい!
作ってくれ!」
「いいけど、器具とか場所ってあったか?」
「……レイ」
「私の部屋、使えばいい」
どうやらレイさんの部屋にはキッチンがあるらしく借りる事にした。
……すると、なんという事でしょう。
レイさんの部屋は俺らの使っている部屋の隣だった。
曰く、一番警護しやすいから、だそうだ。
俺はちゃんと村から持ってきた鍋に火をかけキィの果実を入れる。
少しだけ火にかけてから水を入れ、自家製ゼラチンもどきを入れて混ぜ合わせ冷やす。
ただそれだけだ。
キィの果実を使ったゼリーの完成だ。
リュークはこれが好きらしい。
俺は器にレイさんの分までよそうとリュークの分は少し多めにして持っていく。
「ほれ。
キィの果実のゼリーだ。
まだ柔らかいかもしれねぇけどな」
「いただきます!」
リュークはすぐにスプーンを手にしゼリーを食べ始めた。
口に含むとすぐにとろけたような表情になる。
そんなリュークの表情が嬉しくてまた何か作ってやりたくなる。
「ゼリー?
初めて見る」
「そうなのか?
まぁ、俺も久しぶりに作ったし美味くねぇかもしれねぇけどな」
「ほんはほほはいほ!」
「食うか喋るかどっちかにしろ」
リュークはそれっきり喋るよりも食べる事を優先し始めた。
……まさかの食う方を優先するとはな。
レイさんもその頃にはつんつんとつつくのをやめスプーンで一口掬い口に含む。
驚いたように目を見開いているのを見てから俺もゼリーを食べ始めた。
この甘酸っぱい風味が口中に広がり山の果実という自然を思い出される。
地球で言うとヤマウグイスカズラのような味だ。
ほんのりとした甘みが酸味と絶妙なバランスをとっていて美味しい。
「……これ、売ってみない?」
「は?」
「これは売れる。
私が、保証する」
まさかの商売の話になってしまった……。
というか、こんなんで本当に売れるのか……。
まぁ、始めるにしても後だな。
そう判断した俺は色々と理由を付けて断ったのだった。