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「さて、一旦この辺りで休憩にしましょうか」



神官、ハミルは馬車を一旦止めるとお昼に用意されたサンドイッチを出す。

手際よくマットをひき、俺とリュークを座らせると昼飯を広げた。



「これ、ミィさんのサンドイッチだよな!?」


「あぁ、そうだと思うぞ!」


「「一段と美味そうじゃねぇか!!」」



ミィさんとは俺達のいた村、レクハル村の優しい料理上手の人だ。

ミィさんの娘……リンとは大違いの料理の美味さだ。

リンは料理がとんでもなく下手だった。

普通、失敗しようのないサンドイッチを不味くしたというある一種の才能を持っている。



「カイ」


「おう、任せろ」



俺とリュークは食べる前に顔を見合わせた。


そして、俺は近くにあった木の棒で適当な弓を作ると矢を引き鳥を何匹か落とす。

リュークはキノコや薬草を採っている。

これは全て、村での生活で身につけた事……と、いいたいのだが簡易の弓を作るのは前世の記憶を使った。



「カイ、火はついたぞ」


「おう、サンキュ!

水がありゃいいんだけどなぁ……」



水があればスープを作れるんだが……。

まぁ、ないもんねだったところで仕方ないだろう。



「水だったら私が出そう。

その鍋に入れれば?」


「お願いします!」



思わぬ形で水を得ることが出来た。

だがこれでスープを作れる。

俺は捌いたばかりの鳥を一口サイズに切り水のはった鍋へと投入する。

その後、リュークが採った中でダシになりそうなもんと香辛料になりそうなもん、それと普通に食うやつの仕分けをする。

リュークはなぜか毒のあるものとないものの区別が出来る。

なぜかは分からないが。

本人にも分かってないようだしな。

本人は『気付いたら避けてた』と言っているくらいだ。


グツグツグツグツ……。


ダシが取れてきただろう頃合いを見計らい俺は一口分を掬った。

そして、それをリュークへ差し出す。



「味見だ」


「おう!」



元々一口分しか入っていないためすぐに器を返してくる。

それを受け取るとチラッとリュークの顔を見た。

頬が緩んでいた。

つまりは美味かったという事だ。

リュークは不味ければ無表情になるのだ。


ってわけで、ハーブや香辛料になりそうな薬草を入れ更に煮込むと火を消し器を鞄から取り出す。

ちゃんと五人分だ。

一人一人の分をよそっていき、渡すとリュークからは満面の笑みで、神官達からはぎこちなく礼を告げられた。



「……なぜ、荷物にこのようなものを入れているのですか」


「なにかあった時のために必要だと思ったから」


「……そういったことは私たちが考えますから大丈夫ですよ」



どうやら料理を辞めさせたいらしい。

だが、俺にはどうしても料理をやめられない理由があった。



「んー、でもリュークが喜んでくれるからな!

それに、村では自給自足が鉄則だったし。

今更やめろって言われても困る」



つまり、リュークが全て、ということだ。

リュークが喜んでくれるからやる。

ただそれだけだ。

他に意味は無い。

料理は孤児院で暮らしてた時に覚えただけだしな。



「カイの料理は美味いんだぜ!」



リュークは既にスープを飲み終えたようで器を差し出してくる。



「お代わり!」


「ったく、仕方ないな」



俺はリュークの笑顔の圧力に負け、よそってやるとまたすぐに「お代わり!」と器を差し出してくる。



「あとは自分でやれよ?」



そう言いつつもよそって渡してやる。

そしてやはりすぐに「お代わり!」と器を差し出してくるリュークであった。


神官たちも美味いって言ってくれたから良かったが。




「なぁ、ハミルさん。

俺とカイって、王都行ったらなにすんの?」


「そうですね……。

お二人とも加護がありますのでまずは祈りからですね。

余程神から愛されておりますと、神々のいる世界へと招待されることがあります。

きっと、リューク様は招待されるでしょう」



招待されればあのクソジジイを一発殴りに行けるって事だな。

招待されてぇ……。

ってか、クソジジイを殴りてぇ……。



「その後、来月には学園に入学していただこうと考えております。

学園では科目事に教科が分かれていますので、魔法か剣かを選んでいただきます」



どちらにするかは俺達の自由らしい。

俺は剣がいいかな。

だが、職業的には魔法の方がいいのだろうが……。

……『?』だしいいか。

リュークの事を考えるとやはり魔法の方がいいのだろうか。



「カイ、科目ってもう決めたか?」


「いや、まだ悩んでる。

リュークは?」


「俺は剣にするぜ!

上位に入って魔法剣士のコースに行くんだ!」



『魔法剣士』などというものがあるらしい。

……今まで俺が考えてきたのが馬鹿らしく思えてくる。



「俺もそうするか……」


「っしゃ!

カイと一緒の科目だな!」



……考えるまでもなかった。

この親友を一人にしてしまえば不安しか残らないのだから。

つまりは最初から答えは一つしかなかったということである。



「二人とも剣術科に決めたようですね。

では、もうすぐ王都に着きますのでこちらで申請をしておきましょう」



ハミルが隣にいた他の神官に頼むとその神官はコクリと頷いた。



ようやく、王都が見えてきた。

その周りを囲む結界と巨大な防壁という初めて見るものに俺もリュークも言葉が出なかった。


多くの人が並んでいる中、俺たちはその横を進みハミルが何かを見せるとすぐに通された。

疑問に思ったものの神官だからだろうと思い何も言うことは無かった。



「うぉー!

すげぇ!」


「カイ!

見てみろよ!

キィの果実だ!」



キィの果実は甘酸っぱいのが特徴であり、リュークの大好物なのだ。

ただ、村の近くでは取れにくいためあまり食べる機会は無かった。

そんなキィの果実を見てリュークははしゃいでいる。

……まぁ、俺もはしゃいでいるのだが。



「カイ君、リューク君、行きますよ」


「う……分かった……」



最初にやらなければいけないことくらいは分かっていたため文句を口にすることは無かったが、可能ならいろいろと見て回りたかった。




「リューク君、カイ君、ここです。

この部屋が『祈りの間』と呼ばれる、神々の加護を受けている者しか入ることの許されない一級区画となっています。

祈りの方法は先程お伝えした通りです」


「カイ、行こうぜ」


「おう」



俺もリュークも特に気にすることなく部屋へと足を踏みいれた。

だが、その瞬間、頭が割れるような痛みに襲われる。



「あっ……が……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」



痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

頭が割れる。

苦しい、誰でもいい、誰でもいいから助けてくれ!


そんな思いで俺は手を伸ばす。

そんな俺の手を取ったのはリュークだった。

リュークも悲痛な叫びをあげているが俺を心配そうな目で見ていた。



「リュー、ク……」


「カ、イ……」


俺とリュークは祈る間もなく揃って気絶したのだった。




~ハミル~


私がここまで案内してきたお二人……カイ君とリューク君はとても仲が良く、まるで兄弟のような雰囲気だった。

きっと村で兄弟の様に育ってきたのだろう。

そんな二人を見ていると危なっかしいといった様子であるのにも関わらず、思わず目を細めたくなる。


だがこれはどういうことだ?

なぜ、なぜあの二人がこんなにも苦しんでいるのだろうか?



二人はこの『祈りの間』に入った瞬間苦しみ始めた。

こんなことは初めてだった。

まるで、なにかが拒絶しているような、そんな反応だった。

それはどうやらカイ君の方が酷いようでリューク君よりも悲痛な声をあげていた。

そんな二人に、加護持ちではない私が踏み入れてはいけない場所であると知りながら、私は迷わず足を踏み入れ二人を抱え部屋から出ていた。




~カイ~



俺が気付くとそこは見覚えのある白い世界だった。

ただ白いだけの広い世界に、ポツンと一人で立っているような感覚。

たが、今回は一人では無い。

俺の隣にリュークがいるからだ。



「カイ、大丈夫か?

それにここは…?」


「俺は大丈夫だ。

リュークこそ大丈夫なのか?」


「あぁ、大丈夫だ」



リュークの無事が確認出来た事で俺は安心し、この状況を把握しようとする。

そんな時、あのイラつく声が聞こえてきた。



『お!?

来たのか!

あー、良かったぞい!

わしは転生……』


「テメェ……こんのクソジジイがぁぁぁぁ!!」



気付けば俺はクソジジイの顔面を殴っていた。



『な、なにをするんじゃ!

お主、わしに受けた恩を忘れたというか!?

こんないたいけな老人に手を挙げるなど、お主には心というものがないのか!?』



なにを言ってやがるのかこのクソジジイは。



「あぁ!?

お詫びなんてもん押し付けてきた奴に言われたくはねぇよ!

ってか、職業欄の『?』ってなんだよ『?』って!

どう考えてもてめぇの仕業だろうが!」


『し、ししし、しらんもーん!

わしはそんなの知らんもーん!』


「ふ、巫山戯んじゃねぇぇぇぇぇ!!」


「お、おい、カイ!

さ、流石にそれ以上はやめとけって!」



俺が更に殴ろうとするとリュークが止めに入る。

そしてもう一人、女の人がクソジジイを止める。

……誰だ、コイツ?



『申し訳ございません、カイさん。

コレについては後程、神判に下しますので今は矛を収めてはくれませんか?

そして、リューク……お久しぶりですね。

……それとも、今は初めましてと言った方がいいのでしょうか?』



優しげな人であったがリュークの顔を見るなりどこか悲しげに顔を歪ませる。



「俺は、アンタの事を知らない」



リュークは非情にもそう告げる。

だが、俺にはそれがリュークの優しさに思えた。

淡い期待をずっと寄せているよりも早く気付かせてやろうという、リュークの優しさに。



『えぇ、えぇ……そうですね。

今のあなたは私のことを知らない、覚えてはいない。

分かっています。

……えぇ、分かっていたことです。

私は、ダーリアと申します。

リューク、あなたには魔王の討伐を、依頼、致します……。


真なる魔王の目覚めはもう近い。

あなたは四人の仲間と共に魔王討伐へと……』



四人の仲間。

どうやらリュークの仲間はこれからも増えるらしい。

俺を含めたとしてもあと、三人だ。



「魔王、か。

カイ、付き合ってくれるか?

長い旅になるだろうけどな!」


「当たり前だろうが。

約束したしな」


「……あぁ、サンキュ!

よろしくな、カイ!」


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