あの人、もしかして?
「暑いし、課題も終わらないし、休みなのは良いんだけどそれ以外が…」
全国の学生の声を代弁してみました。
「お姉ちゃんが手伝うよ?」
「手伝ってください、お願いします」
「ふふふ、お姉ちゃんに任せなさい!」
ちょろいものである。
姉はブラコン。
故に俺がお願いすると簡単に聞いてくれる。
こんな姉でも良いところはあるんだな。
「二人でやると進むなぁ」
「お姉ちゃんパワーよ!」
確かにそうかもしれない。
姉は学校では優秀な部類に入る。
それに加えこの容姿。
人気が出ないはずがない。
だが、一部を除いた大体の学校の人達は知らない。
姉がブラコンである事を。
「ふっ、これを知ったら凹むだろうな」
思わずゲスい顔になってしまった気がする。
それ程、姉を好いてる人達が姉の本性を見て絶望する姿が面白そうなのである。
いや、待てよ。
今までそれを知った人達、もしくは姉が俺と楽しそうに会話している所を見た人達はそれを見てどうなった?
凹んだだけ?
そうではない。
その人達は必ず俺に殺意、又は嫌悪のこもった視線を送ってきていた。
「そんな事になったら俺の居場所が無くなってしまう!?俺は気が狂っていたようだ…。これも暑さと課題のせいだ!!」
「どうしたの?突然叫んだりして」
「あ、いや、何でもないよ」
姉に言われてしまった…。
夜、散歩にでも行こう。
頭を冷やさなくては…。
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「終わった。やっと終わった」
「お疲れ様〜。夜ご飯できてるから、早く食べよ」
あれからかれこれ6時間程はやっていただろうか。
課題を全て終わらせた。
「疲れた…。いただきます」
「召し上がれー」
ああ、美味い。
課題でエネルギーを沢山使ったからか、姉の作ったご飯がいつもより美味く感じる。
「美味しい…」
ついつい声を漏らしてしまった。
これを姉に聞かれるとたまったもんじゃない。
ちょっと褒めるとすぐ騒ぎ始めるからな。
「散歩、どうしようかな…」
正直、疲れて行きたくない気持ちもある。
だが、たまには気分転換するのもいいかもしれない。
「ご馳走様。そうだ、ちょっと散歩に行ってくるよ」
あ、散歩に行く事を言ってしまった。
付いてくるとか言わないだろうか?
「行ってらっしゃい。変な人がいたらすぐ逃げてね?」
これは意外。
付いては来ないようだ。
それに、変な人なんて滅多にいないでしょ。
「行ってきます。久々に公園にでも行こうかな」
家を出て、右へ行き、少し歩いて左へ曲がり、そのまま行くと公園がある。
いつ以来だろうか。
よくあの公園で奈々弥と遊んだものだ…。
何度も言うが、あの頃の奈々弥もどぎつい子ではあったけど、今ほどでは……あれ?
誰だろう、あの人。
こんな夜に、見覚えのある後ろ姿を見つけるとは思わなかった。
だが、誰なのかが思い出せない。
その人は、髪を後ろで結び、何故か夏なのにも関わらずベージュ色のコートを着ている。
明らかに怪しい。
普通の人ではないのは確かだ。
姉に変な人がいたらなどと言われたが、本当に出会うとは思わなかった。
既に変な人が家族にいるが、それ以外にあまり変な人と関わりを持ちたくはない。
すると、丁字路の所で誰かがその女に話しかけた。
奈々弥である。
奈々弥とコートの女はどんな関係なのか気になるが、俺は公園を目指す。
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こうなるとは薄々感づいていた。
あの二人は俺と同じ場所に向かっていたのだ。
流石に入りづらい。
仕方がないので公園の外にいる事にした。
すると、二人が会話を始めた。
「奈々弥さん、どうかした?」
やはり女の声は、聞き覚えのあるものである。
「いや、隼とその愚姉の会話を聞いて海に行ったんですけど、相変わらずあの女は隼にベタベタしてたんですよ。反吐が出ます」
奈々弥?
「仲が良いのね、あの姉弟は」
女が奈々弥の方を向いた。
あれ、あの女の人もしかして?
「はぁ、隼を早く私の物にしたい。なのにあの女が邪魔で仕方がない」
奈々弥はそんな事を思っていたのか…。
「隼君を自分の物にするまで、私で我慢してね?ぐふふ」
「気持ち悪いですよ。このドM教師」
教師!?
やっぱりあの人、うちの高校の体育教師の摩理先生か!
ていうかドMだと!?
「あぁ♡もっと言って♡」
「気持ち悪いな。私が虐めたいのは隼だけなんですけど」
「そうだったね…ごめん」
おいおい、嘘だろ?
あのストレートにものを言ってしまうのは素だったと言うのか!?
しかも、先生がドMなんていう重大すぎる事実を知ってしまった…。
やばい。
流石に帰ろう。
このまま居てバレたら、どうなるかわからん!
俺は一目散にその場から逃げ出した。
そしてこの日は、先生のあのコートの下が気になり、あまり寝れなかった…。
二学期が始まってから、先生とどう接すればいいのだろうか…。