なろう作家 刀身を簡単に交換できる生産性の高い剣を造ろう!
「すげぇいいアイデアを思いついたぜ!」
冒険者のカズヤは久々の大収入を得て、街の酒場でステーキを切っている時にそんな事を叫んだ。
「どうしましたのカズヤ?」
アークビショップのメルティーナは尋ねる。
「刀身が簡単に外れて交換できる剣を造るんだ!そうすれば戦闘中に折れようが刃こぼれしようが怖いもんなしだぜ!」
「素晴らしいですわ!今までそんな事も誰も考えたことはない!この武器を大量生産して売りまくれば、私達たちまち世界一の大金持ちになれますわっ!!!」
だが、同じテーブルで川カマスの焼き物をほじくっていたナオミは違った。
「・・・お二人とも。それ。本気で仰ってらっしゃるんですか?」
「ふ。すまんなナオミ。確かに魔術に関しては専門家のお前に一歩譲るかもしれないが、それ以外の事に関してはそうでもなかったようだな!」
「カズヤは剣技だけでなく武器の製造もできるのですのね!流石はレイピアの勝負でわたくしに勝利しただけのことはありましてよ!」
ナオミは骨だけ残してカマスの身を分離し終えた後。
「では明日。街の武器屋さんに行ってみましょうか?」
と、ナオミは切り出した。
「オヤジ!是非造って欲しい武器があるんだが!」
入店するなりカズヤは叫ぶ。
「戦闘中に刃が損傷しても、簡単に交換できる画期的な剣だ!具体的には鍔をスライドさせるだけで柄の中の留め具が連動して動き、刃が外れる。戦闘中に動かないようにストッパーもつける。唯一の欠点は片手で出来ない事かな?だが取り付ける時はワンタッチ。こいつを10。いや100本ほど造ってくれ!」
「いいえカズヤ!いっその事ギルドに借金して1000本造ってもらいましょう!」
「そうだな!どうせ全部売れるんだし。1000本造ってくれ!!」
「・・・その前お二人とも。これを見てくれますか?」
ナオミは、武器屋の壁に大量に立てかけられている槍に触った。魔力もなんにも感じられない。何の変哲もない。
「なんだそれは?」
「随分とみすぼらしい槍ですわね?」
木製の長い柄の先に、金属の穂先がついている。
「なんだそれは?」
「随分と安いっぽい槍ですわね?」
「ええ。安いですよ。これはピラプルムという槍です。既に大量生産され、尚且つ多くの王侯貴族の軍隊で正式採用されている武装。つまり流通経路が確保されている武器なので価格が安い。尚且つ常に一定の需要がある」
「ほう?嬢ちゃん魔法使いの癖に武器に詳しいね?」
武器屋の親父が感嘆の声をあげた。
「具体的な使い方は、まぁ征服王イスカンドルのヘイタイロイ部隊のやり方が基本になりますね。まずこの槍を1ないし2本持ちます。それを敵軍。もしくは大型の魔獣に対して長距離から投げつけます。その後は大型の盾スクトゥムと小型剣スパタを持ち、近接戦闘を行います」
ナオミは小さな剣を触った。どうやらこれがスパタらしい。
「金型に金属を流し込んで造る一体形成タイプです。当然ながら安価にできます」
次にナオミは小さな盾を手に取った。
「ラウンドシールドです。片手で持ってみてください」
カズヤは左手でシールドを。右手で剣を持った。
「次に盾を捨てて、両手で剣を構えてみてください」
「こうか?」
カズヤは言われた通りにしてみた。するとナオミはスリングショットを振り回し始める。
「おい。お前何する気だ?」
「いえ。カズヤさんに戦場で『盾を失う』という事の危険性を再認識して頂きたかったので。歴史家タキトゥスはこう記しています。
『ゲルマニアにおいて戦場で盾を失う事は己の命を失うと同意義である』」
「・・・・」
「あ、そういえば武器屋の親父さん」
スリングショットを店の棚に戻してナオミは武器屋の親父にカウンター越しに話しかける。
「なんだい嬢ちゃん」
「先ほどカズヤさんが注文した剣の件ですが」
「あ、やっぱやめにします」
「そ、そうですんわね。まだギルドに借入金も申し込んでいませんし・・・・」
「そうかい。気が変わったらまた来な」
カズヤとメルティーナと共に武器屋を出たナオミは思った。
一か月後、借金で首が回らなくなり首を括る運命にあった二人の人間の運命を救ってしまった。と。