お疲れ様でした。お休みなさい。
奥に向かうと、居間で何故か毛布が広げられていた。
滅多に夜更かしは許されない子供たちは、公然と許される夜の遊びに、初詣にいとこ同士で遊んだり、お雑煮を食べたりと思う存分楽しんだらしく、日の良く当たる庭に面した場所でならんで眠っていた。
しかもその中心には奏がすぅすぅと寝息をたてていた。
「奏……?寝ちゃってる?」
「台所で手伝おうか、おろおろしていたわ。子供たちと遊んで、お腹一杯になったら眠くなったみたい。琴ちゃん」
母の沙羅に手招きされる。
「琴ちゃんのお年玉です」
慌てて正座をして、頭を下げる。
「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
琴音は小さい頃から家族の仕事や、行事に参加したりしていたため、お金の大切さや使うことについてしっかりと理解し、もらえることに感謝をしていた。
「それと、先程、おばあ様から奏ちゃんに渡したのだけれど、これをちゃんと奏ちゃんに渡してあげてちょうだいね?」
「つ、通帳ですか?」
「えぇ、琴ちゃんの名義にしているけれど、奏ちゃんのお年玉です。持っていて貰ってね」
「あ、はい。そうします。えと、明日か明後日に、これで奏にコートとか……」
一応、奏がもらったものだが、言っておこうと口を開くが、
「あぁ、明日、結花さんたちと行ってらっしゃいと伝えておいたわ」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「琴音ちゃんは遠慮しちゃうから気にしなくて良いのよと」
「そうですね……言っておきます」
琴音は、奏ならそういうだろうと思い、頬を緩ませる。
「それと、琴ちゃん?奏ちゃんが可愛いからって、子供は奏ちゃんが卒業してからにしてちょうだいね?お母さん、まだおばあちゃんになりたくないの……」
頬の手を当ててのたまう母は、すでに今年9才になる甥を筆頭に10人の祖母である。
「か、母さんは、兄さんたちの子供のおばあちゃんじゃないですかぁぁ‼」
「龍くんと信乃くんはできちゃった結婚……梓ちゃんと智尋ちゃんはいいのよ?でもね?琴ちゃんが卒業するまでは3年かかるから、お姉さんの奏ちゃんが卒業するまで子供は駄目よ?奏ちゃんが必死に努力しているのに駄目でしょう?」
「奏が卒業して、海外留学なんて困る‼」
琴音の本心である。
「あら?でも琴音ちゃんは言っていたけれど……」
「え?」
結花は、ゆっくりと告げる。
「夢は声楽家って思っていましたが、お姉さんたちのお話を聞いていたら、ボランティアやファミリーコンサートで音楽を知ってもらうことも素敵ですね。声楽はただ歌うことではなく、知ってもらったり、聞いていただけること……そう琴音に教わった気がします。なので、梶谷家の嫁としてだけではなく、梶谷奏として頑張ります。それに、琴音がここが私の家だと言ってくれたので、うちより遠いところに行くよりもお父さんやお母さん、お祖父様やおばあ様、お兄様たちと一緒にいたいです……ですって」
「……‼」
片手で顔を覆う。
真っ赤にあっているであろう顔で、周囲には完全にばれているが一応男として、見せていい部分と家族でも見せたくない部分がある。
「わぁぁ……琴音くんが照れてるわぁ……」
「かーわーいい‼」
梓と智尋ははやすが、言い返す余裕はなく、益々ぶしゅ~っと顔から火を噴きそうである。
「……えっと……お兄ちゃん……お姉ちゃんたち……」
「なあに?」
長兄の琵琶は優しく問いかける。
「あの、け、結婚式にはお揃いのリングをと思ってるんだけど……こ、婚約指輪を明日選びにいきたいんだけど、紹介してくれる……かな?が、頑張って貯金してるから‼その額で……」
「いいよ、じゃぁ、マリッジリングも一緒に合わせて選んでおくといいよ」
「あ、それに、もしよかったら、ウェディングドレスは私のものをどうかしら?」
「え?」
結花は微笑む。
「結婚式では『4つのsomething』が幸せになれるそうよ。『古いもの』『新しいもの』『借りたもの』『青いもの』ですって。だから、ウェディングドレスは良く姉妹やお母様から譲られたものを手直しするの。新しいものはブーケだったり、借りたものだったら……」
「私のネックレスやピアスを貸すわ‼あげてもいいけど……もう、この年には可愛いのよ」
「解るわ~私も時々思うもの。奏ちゃんだったら似合うもの多いわ。今度、持ち寄って譲り合いっこしましょうよ。服とかもね~?」
「サイズが合うかしら~?」
「やめてよ、気にしてるんだから‼」
梓と智尋は言いながら楽しげである。
「えっ?良いの?姉さんたち。子供たちいるのに……」
「ダメダメ」
「旦那に似て、そう言う可愛いものに疎いから」
「そうそう。『サムシング?ダンシングヒーロー?』とか、どこの時代よ‼熱血スポコンドラマも再放送とか見てる、シャレのなっていないバカボンが‼」
「こっちなんて『新しいものは奏ちゃん、古いものは智尋。取っ替えてもらおうかな』って言うもんだからぶっ飛ばしてやったわ」
琴音は心の中で手を合わせた。
バカ兄……新年早々と言うか、昨年末にすでにやったか……。
「明日はダメだけど、七草粥の頃には持ってくるわね」
「すみません。姉さんたち。バカな兄で……それにありがとうございます。奏も喜びます」
「良いのよ~私は男兄弟だったし」
「私は逆に個性の強すぎる姉ばかり」
「可愛い妹欲しかったんだもの」
そう言えば、結花の兄弟は男女一人ずつ、梓は兄2人に梓、弟二人、智尋は姉3人……。
「あ、奏、ひとりっ子だったので……姉さんたちのことすごく喜んでました……と言うか、俺より姉さんたちと話がしたいって……」
「うふふ、女の子同士でお出掛けもいいわね」
「あ、お母様やおばあ様も一緒に親子旅行に行きたいですね‼」
「本当‼お母様?おばあ様も如何です?」
兄嫁3人の一言に、慌てる。
「俺、新婚です‼」
「あらあら、おばあちゃんも一緒だと邪魔になるのではなくて?」
「嫌ですわ、おばあ様はお若いのに」
「一緒に温泉旅行に行きましょう、ね?お母様」
「本当‼6人で行きましょう?」
沙羅は微笑む。
「琴ちゃんには悪いけれど、奏ちゃんといってこようかしら……うふふ」
「お母さん‼酷いよ~‼」
「琴音……」
琵琶がツンツンと服の裾を引き、少し離れると、
「母さんは、表のことで傷ついてるから……無理に元気なふりをしてるんだよ」
「……‼」
「だから、ね?」
「……解った」
渋々と言うか、奏も大事だがマザコンでもある琴音はうなずいたのだった。
琴音のデレを見たかった……。義理の姉たちに可愛がられる(いじられる)琴音です。