奏ちゃんはおろおろしています。
奏は神社を出ると再び車に乗り、琴音の実家である新居に戻ると写真を撮り、そして着物からワンピースに着替える。
「はぁぁ……身が引き締まって良いけれど、慣れてないから駄目だね……」
「まぁ、家は着物を着ることが多いから、着付けとか習っておくといいよ?それまでは俺が着せてあげることはできるけど、俺がいないときは……」
「な、習う~‼だから、ベタベタしない~‼」
夫になった琴音の接触過多が気恥ずかしい上に、義理の姉たちが着物を仕舞う様子を覚えようとしているのにと必死に逃げる。
「お義姉さんたち、済みません。着物を着なれていなくて……」
「大丈夫よ。私たちもそうだもの。それより琴音くん?お雑煮の準備はできているから、お願いね?」
結花の一言に、目を見開き、
「忘れてた‼お姉ちゃん、ありがとう‼行ってきます‼」
「よろしくね?お祖父様もお義父様もほとんど台所には立たないでしょうし」
「家の龍と」
「家の信乃も全くダメダメなんだから……頼りはお義兄さんと琴音くんよ‼」
梓と智尋の一言に、奏ははっと我に返る。
「わ、私もお手伝いに……」
「あらあら、駄目よ。奏ちゃん」
「お正月は女性が台所に入らないのがしきたりだから」
「そうそう、昨日までおせちに年越しそばにと準備もしているから、大丈夫よ」
三人は奏を引き留め、義弟に手を振る。
「奏ちゃんは私たちと居ますからね?」
「年明け早々大仕事だけど、頑張ってね?」
「そうだね……来年まで俺が一番大仕事……その次には姉さんたちの息子たちを……」
何故か遠い目をした琴音に、智尋が手を振る。
「無理よ。琴音くんほど出来ないから。包丁も怖がって握らないもの」
「えぇ~?何とか2年でそれなりにしてよ~姉さんたち。余計に大変になっちゃうよ。じゃぁ、行ってきます‼」
せかせかと去っていく。
「え?男の人だけ?」
「一応10歳になったらって言われていたけど、琴音くんは小さい頃からだったそうよ。お義母様たちの手つきを見ていたそうだから」
「龍と信乃が喧嘩をするし、お祖父様の手つきが怖いって」
「それに、お義父様も手を切ったら駄目だからって、半泣きになって『お母さん‼お願い‼お母さんたちが忙しいのは解るけど、お父さんが怪我したら大変だから、去年に材料とんとんして~‼』って、駆け込んで来てたわ」
3人はクスクス笑う。
「しきたりってあるんですね……」
「私の実家はあったけれど、形だけだったわ」
「家はなかったわね。だから本当にビックリよ」
「さぁ、奏ちゃん、行きましょうか。お祖母様にお義母様、二人じゃ孫、曾孫の世話は大変だわ」
姉たちに囲まれ、向かった先は居間兼こたつのある部屋。
そこでは子供たちが、
「えぇぇ?カルタじゃなくて百人一首ですか‼」
小さい子供は義母の沙羅と遊び、祖母の文音が読み上げている。
上手く手をさばき、札をとった子供は喜び、とれなかった子は悔しがるさまに、
「どうしよう……私、覚えてはいるんですけど……焦っちゃいそうです。皆すごい‼」
感心する。
「あっ‼琴ちゃんのお嫁さんだ‼」
「お嫁さん‼お嫁さん‼」
「こら‼途中で気をそらさない‼奏ちゃんいらっしゃい」
「は、はい」
文音に近づくと、頭を下げる。
「お師匠さま」
「ここには家族しかいないのだから、お祖母様で良いのですよ。皆。琴音のお嫁さんの奏ちゃんです。仲良くするのですよ?」
「あ、よ……琴音さんのつ、妻の奏です。よろしくお願いします」
「うわー、琴ちゃんのスマホのお姉ちゃんだ‼」
「可愛い‼」
「あ、お姉ちゃんにも‼」
びしっ‼
差し出そうとする息子たちの手を、梓と智尋が叩く。
「琴音くんも奏ちゃんも学生です‼お祖父様やお祖母様に戴いたでしょ⁉」
「本当にごめんなさいね……奏ちゃん」
「……あっ!お、お年玉……ですね‼す、済みません‼私……すっかり忘れていて……貰ったのも両親がいた頃までだったので……あ、えっと……」
立ち上がろうとした奏に、
「奏ちゃん、あら、皆はさんなのだけど……まだ奏ちゃんで良いわね。お祖母様が、貴方にって」
「えっ!」
「奏ちゃん。学生の貴方には渡しましょうということになったのだけれど、それぞれ渡すのもと思って、準備しておきました」
置いてあったものを差し出す。
「一応、琴音の名義になっていますが、貴方のものです。勉強に使うのもよし、おしゃれに使っても構いません」
「えっ?通帳に印鑑……‼いえ、そ、そんな‼」
首を振る奏に、文音は首をかしげる。
「遠慮はいいの。持っておきなさい。何かあったときに必要になるものですよ」
「で、ですが……わ、私は、たくさん頂いてばかりで……お返しも……」
「まだ家に来たばかりでしょう?それに孫にお返しされても困るわ……ねぇ?沙羅さん」
「そうですわね、お義母様。奏ちゃん?明日にでもこの子たちをつれて、買い物に行くのよ。一緒に行くときに手持ちがないと自分の欲しいものも買えないわ。持っておきなさい」
「……は、はい。ありがとうございます。大事にします‼」
「大事に使いなさい。持っていても意味がないでしょう?」
小言と言うよりも、本当に隠してしまいかねない奏に釘を指す。
「明日、丁度、コートを探したいと思っていたのよ。私のようなお祖母ちゃんと一緒では選べないでしょうし、結花さんたちと選んでらっしゃい。結花さん、梓さん、智尋さん。解っていると思うけれど、色々揃えてあげなさいね?」
「はい。大丈夫ですわ」
微笑む3人の義姉たちに、おろおろとする奏だった。
多分、ある程度のものは揃えているものの、服とかは揃えられないので用意したものと思います。
良いなぁ……。