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犬の生活も悪くない話

「エイチくんは事故で大けがをしたの」

 先生おばさんは脳科学の学者で医学博士だという。俺のことをいろいろ説明してくれた。

 バイク事故で病院に担ぎ込まれ、手術のときに先生おばさんも呼ばれた。

 頭がかち割れていて死にそうだったので、先生おばさんが開発した装置を使い、俺の人格や記憶を機械に移したのだとか。

 人格や記憶だけだったので、10テラバイト程度のハードディスクで足りたらしい。

 そのデータを圧縮して、生まれたばかりの子犬の脳に書き込んでみたそうだ。

(何で犬に俺の人格や記憶を移したんだ?)

「他の人間に書き込んだら、その人の人格や記憶が消えちゃって問題になっちゃうじゃない」

(そうじゃない! そこが問題じゃない!俺を犬にしちゃったんだよ!?

倫理的な問題はどうするの!?)

「大丈夫、私は己の知的好奇心を満たすためなら、悪魔にだって魂を売っちゃうような狂科学者マッドサイエンティストなの」

(マジかよ!!)

 いろいろ言いたいことがあったが、床に広げられた五十音表を指しての会話ではなかなか話が進まない。

 俺は一生懸命話そうとしたが「あぅ~、わぉ~」としか発生できなかった。

 先生おばさんが言うには「人と犬では声帯の形状が異なるから言葉を話せない」そうだ。

「な」「ん」「と」「か」「し」「て」


 次の日、先生おばさん髭剃ひげそりのようなものを持ってきた。

「これは人工声帯。声帯を失った人がこれを使って話をするんだけど、試してみる?」

 かなりの期間、練習をして口の形や舌の動きも正確に再現しないと人の話す言葉にならないそうだ。

 どうしてもしゃべりたかったので、1日中練習した。

 俺が天才だったのか、子犬の身体は順応性が高いのか、1ヶ月くらいで話ができるようになった。

『先生、俺の言葉がわかる?』

「あら、すごいじゃない。しゃべる犬なのね」

 先生おばさんはケタケタ笑った。おかしくない。ここは笑うところじゃない。

『もう部屋の中は飽きた。外に出たい』

「んー。良い子にしていたら出してあげても良いわよ」

『良い子にするから、出して』

 それから俺は良い子になった。縫いぐるみのおもちゃを食い千切るのをやめた。御飯の前にはせをして「よし」と言われるまで待った。よだれが止めどなくあふれ出たが我慢して待った。「ばんっ!」と撃たれれば死んだふりをしたし、何かというとおなかを見せて尻尾を振った。

(おや? これではワンコだぞ? いいのか? いいのか? 俺)

 まぁいい。先生おばさんも喜んでいる。良い子にしていたら頭をでてくれるし、褒めてもくれる。俺は褒められて伸びるタイプなのだ!


 先生おばさんがどこかに出て行った。

 俺はチャンスだと思い、さくを跳び越えた。いつまでも子犬だと侮るなよ。このくらいのさくなら飛び越えられるようになったのだ!

 部屋の中を探索してドアを見つけた。引き戸だったので鼻先でこじ開けた。


 部屋の外に出られてうれしかった。長い廊下を走り、階段を上ったり下ったりした。

 この建物は、どうやら病院のようだ。ずっと薬臭いし、ときどき血の臭いもする。

 すれ違う人はみんな白衣を着ているし、パジャマを着ている人もいる。

 俺の姿をみてみんな驚いていた。捕まえようとするやつもいたが、俺が本気で走り出せば追いつけない。俺は自由になったのだ!




 懐かしい匂いがするので、その方向へと走っていると少年が看護師さんに支えられ、松葉杖まつばづえで歩いていた。

 顔をみたら「俺」だった。

 

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