表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

生きていたと思ったら犬だった話

 俺は犬に転生したようだ。

 与えられた世界はプラスチックケースの中だけだが、ここは快適だ。御飯は1日3回出る。チューブを吸えば水も飲める。

 歯がかゆくて吸水シーツをかじっていたらガムがもらえた。退屈していたら縫いぐるみを入れてくれた。

 食って、寝て、遊ぶ。

 このまま一生を終えても良いと思った。


 おばさんは優しかった。何かと言うとでてくれる。

 御飯を食べるとで、おもちゃで遊ぶとで、うんちしてもでてくれた。

 うれしくなって仰向あおむけになるとおなかでてくれた。

(この人についていこう。俺にはこの人しかいない)

 この世界で俺が出会ったのは、このおばさんだけだ。

 おばさんと、プラスチックケースの中が俺の全てだ。


 ある日プラスチックケースから、さくの中に移された。

 御飯もお皿に入れられたシリアルになった。スプーンはない。

 所謂いわゆる犬喰いぬぐい」で、皿の中に鼻先を突っ込みくちゃくちゃ食べる。

 口を閉じて食べようとしたが、ほっぺたがないのでむたびに口が開いてしまう。

 幾ら食べても満腹感がない。ついつい皿をめてしまう。みっともないけど。

 おばさんは俺に首輪をはめた。俺は犬なのだから仕方がない。

 3食昼寝付きのお殿様から奴隷に身分が落ちたような気分だ。

 これから「しつけ」と称した理不尽な体罰が行われるのであろう。

 素直に言うことを聞いて、言われるがままにしておけば可愛かわいがってくれると思う。

 変に反抗してみ付いたりしたら、捨てられ保健所に連れて行かれガス室送りだ。


 おばさんに正対してお座りをした。

(何を言われてもすぐに言うことを聞くぞ!

お手だって、おかわりだって、すぐにできる。やってやるぞ!)

 おばさんは床に紙を広げた。五十音が書いてある。

「まずはあなたの名前を指してみて」

(名前は御主人様がつけてくださいよーっ! チョコでもショコラでも、何だったらティラミスでも良いです。 好きなようにお呼びくださいまし!)


 何を言っているのかわからない、という感じで首をかしげた。

「んー。わからないかなぁ? な、ま、え、よ」

 へぇへぇと舌を出して口角を上げ、左手を挙げた。

(はいっ、お手です!)

 俺は賢い犬だ。御主人様から命令される前に行動をする、勘の良い犬なのだ。

「あら? 失敗だったのかなぁ。エイチくん、私の言っていることがわかる?」

(はい? 今、名前を呼びましたね!?)

 人間だったときの俺の名前は「田辺たなべ英一えいいち」だ。

(何でこのおばさんが知っているんだ?)

 床の五十音表の「は」と「い」を手で差した。前足ではない。あくまでも「手」なのだ。

「いきなりだったので驚いたでしょう」

 おばさんはスケッチブックを取り出し「はい」、「いいえ」と書き、50音表に追加してくれた。

 俺は「はい」と書かれた紙に手を置いた。

「実験は成功、かな?」

 おばさんはにっこり笑った。

 俺も一生懸命口角を上げて「笑っています」アピールをした。




「エイチくん、気分はどう?」

 正直に答えた。

「さ」「い」「あ」「く」「で」「す」

 人間に戻りたい。人間が良い。犬は・・・嫌だなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ