死んだと思ったら生きていた話
初投稿です。
暖かく見守ってください。
目を開けたら景色がボヤけていた。
ぼんやり人影があるのはわかったが、ほとんど見えない。
(事故の影響で視力が落ちたのか?)
耳鳴りもする。周りの音がよく聞こえない。
口の中に何か突っ込まれた。吸ってみた。温かいミルクのようだ。
(イマドキの病院は患者にミルクを飲ませるのか?)
おいしかったので夢中になって吸い続けた。
お腹いっぱいになったら眠くなったので寝た。
俺はバイクで転けた。
ハイサイドだったと思う。マンホールでも踏んだのか。
転けて壁にぶつかった。メットがすっぽ抜けていった。
近所のコンビニからの帰り道で、すぐ家に着くからとあご紐を留めていなかった。
頭がかち割れた。死んだと思った。
でも生きている。こうして思い返せるのだから生きていたのだ。
目を覚ますとボーッとして、しばらくすると管を口の中に突っ込まれ、ミルクを飲んで、腹がふくれると寝る。
こんなことを繰り返していた。
(俺は赤ん坊か!)
突っ込んでみたけど声が出なかった。
目がよく見えない、耳もよく聞こえない。
身体は動くようだが何かに押さえつけられているようだ。
(絶対安静で面会謝絶なのかな?ここは集中治療室なんだろう)
ぼんやりとだが、ケースに入れられているのがわかる。
早く一般病棟に移れるよう、大人しく安静にしていることにしよう。
だんだん目が見えてくるようになってきた。
透明なプラスチックケースに入れられている。生命維持装置?
「あら、起きたの?」
白衣のおばさんが話しかけている。女医さんだ。かわいい看護婦さんはいないのか?
「そろそろ離乳食にしましょうかね〜」
(離乳食じゃなくて流動食だろ!)
突っ込んだけど声が出ない。
ケースが開けられ、おばさんに抱き上げられた。
(このおばさん、怪力だなぁ!)
そのままお腹や首を撫でられた。変わった触診だ。
俺は擽ったくて手足をバタつかせた。うん、声が出ないこと以外は無事のようだ。
頭を撫でられたら気持ちがよくなり、また寝てしまった。
俺は犬に転生したらしい。
よくよく見たら、目の前に濡れた鼻がある。両手も犬の手だ。何も掴めない。
股の間からは尻尾が生えていて、ぱたぱた動かせる。
耳が痒くて掻こうとしたら、うまく掻けない。ちょっと首を傾げて足で掻いた。
(気持ちいい・・・)
おしっこをしたくてトイレを探したが、このプラスチックケースの中にはない。
吸水シーツがひいてあったので、ここにしゃがんでした。
うんちをするときには尻尾を上げていないと、うんちが尻尾についちゃう。
尻尾を上げるなんて初体験だったが思い通りに動くものだ。
流動食を食べているせいかうんちが柔らかい。
温水洗浄便座で洗いたい。せめてトイレットペーパーでお尻を拭きたい。
仕方がないので吸水シーツにお尻を擦り付けた。
(あぁ、事故って死んだらワンコに転生かぁ。勘弁してよ)
今はまだ生まれたばかりの子犬のようだ。
あのおばさんが飼い主なのだろうか。それともこれからどこかに売られていくのだろうか。どちらにしろ、優しい飼い主に巡り会いたい。
(いい子にしていないと保健所で殺処分されちゃうのかなぁ。
折角、転生したのにすぐ死んじゃうのはいやだなぁ。
聞き分けのいい、賢いワンコになろう)