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大秦戯界開拓録  作者: 御食山左近
ある軍団長のおはなし
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ある元老院議員の独白

結局のところ、蝗のように帝都を食い散らかした蛮族には同じ虫けら程度の頭しかなかったのだ。


あれらは都市を大きな集落ぐらいにしか考えていなかった。


水と秣でもやっていれば富と麦が涌いてくるとでも思っていたのだろうか。馬鹿馬鹿しい。


----それに、その虫けらとやらに負けた我らは何だというのだ。


既に齢40を超え、執政官となる資格も得た。軍歴も決して短くはない。


若いころには虐げられる北方の民のためだと兵役も喜んで受けた。


父が私の兵役免除のために用意した大金で武具一式を仕立て、残りは配属された百人隊のために使った。



私が愛した軍隊は強かった。兵役とは良き市民の義務であり、我々だけの権利であった。


装備は充実し、我らの士気も高かった。都市の堀は深く、市壁は厚く高かったのだ。


----しかし、この帝都の惨状はなんだ。


元老院議員であった父の後を継いで、帝都で性に合わない政治屋などをやっていたが、この戦線を離れた十余年。


北方の山脈を越えやってきた蛮族は瞬く間に帝国の国土を食い散らし、畑を焼いて都市を略奪していった。


----あの軍制改革さえなければ…。


ちょうどあれは私が百人隊長に選ばれ、調子に乗って毎日土木工事をしていた時期だったはずだ。


元老院で平民への市民権の拡大が決定したのは。


この元老院の決定に私は、帝国臣民全員が我らのような誇りを持てるようになるのだと嬉しく思った。


市民権が得られることになった軍団付の補助兵の連中とも祝杯をあげたが、どうもしばらくすると宴の次の日の私の財布同様に雲行きが怪しくなっていった。


我が百人隊に交代要員として配属された、装備もみすぼらしく士気も低い新兵の姿を見た瞬間に私は愕然とした。


これがよもや誇り高き軍団兵の姿かと。


この時は一人間違えて入ってきたのだろうと笑っていたが、それが何人か続くとその時になってようやく実感したのだ。


兵役免除金を納められない程の平民にも市民権が与えられていたことに。


兵役は神聖な義務であるからして、神殿でのくじにより公正に私のような元老院議員の子息から、都市の商人や農場主の子などの若い市民へ振り分けられる。


当然ながら装備を自力で整えられる市民に限定されたものであったため、今まで問題はなかった。


だが元老院議員たちが彼らの親族や支持者が選ばれる確率を減らそうと、国家の生産を担うさほど財産のない平民までもが駆り出すようになった結果がこれだ。


逃れ得ぬ徴兵での士気の低下や装備の不足による軍の弱体化、最大の問題として平民の若年層が前線に赴くことによって帝国の生産力の低下は免れなかったのだ。


----だが帝国は再び息を吹き返したのだ。


軍制改革よりしばらく経って帝都が陥落し、陛下が民衆を逃がすために親衛隊と軍団の残存兵を率いて教本のような見事なゲリラ戦を行っていたのは昨年だったな。


同じ年に神託とともにチェンジリングが多発したのだったか。


幸いといっては他の市民に申し訳ないが、しかし血を分けた我が子が巻き込まれなかったのは本当によかった。


この時はじめて私の兵役に免除金を苦労して集めた父の気持ちがわかったものだ。


これで多くの家族が記憶の欠落とともに失われた我が子を取り戻したらしい。


人口の急激かつ大幅な増加は、同時に帝国に有史以来の食糧危機をもたらしたが、他の元老院議員どもがため込んだ備蓄を放出した結果なんとかなってしまったのは嘆かわしい気持ちもある。


またチェンジリングの帰還者は大半が軍団兵へと志願したため、膨大な物量による国土の回復と開拓、未耕地を利用した小麦の増産が行われ。今年もどうにかなりそうである。


----保身を図った元老院の自業自得だ。しかし蛮族は滅ぼされるべきである。


先程までこの廃墟で私の執政官就任と軍団旗の授与が行われていたが。


今から私の執政官退職式典と軍団の出発式が行われるらしい。


元老院の穴熊どもはそんなに私を前線に早く追い出したいのか。無論私も前線が好きだが。


私の指揮に入るのは人族と妖精族の混成のようだ。


しかし混成だろうが10個軍団6万もの武装した屈強な男というだけで十分だろう。


これだけの兵力があれば蛮族をこの半島から追い返すどころか根絶やしにはできる訳だ。


たしかチェンジリングは確認されているだけで100万近くだったか。


神からの贈り物とはいえ多すぎだろう。大凡その十何分の一を預けられた形になるのか。元老院議員の人材不足もここに極まれりか。


帝国の奥義をこれだけの人数に叩き込むというのは人生で初めてだな。これは腕が鳴る。


先程こっそり覗いてきたが、全員が志願兵だけあって士気も高い。


だが彼らには申し訳ないことに生産が追い付かず、支給できたのは青銅の剣と盾だけだったのだが、どうもこの連中が木の棒一本ではなかったことを不満がっていたのは謎である。


さて、いい加減前の老人の話も終わったようなので彼らに挨拶でもしておこうか。


…今更だがなんと話そう。


兵士諸君というのも政治屋臭くて好みではないから…。


まあ、あれだ。大隊長をやっていた時と同じ呼びかけでよかろう。



----戦友諸君!!





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