接触&捕獲
どれ、ターゲットも決まったことだしソロソロ接触を開始しようか。
須賀君の席は私の左斜め前。
美少女が登場するラノベ小説にブックカバーをかけてコソコソと読んでいる。
だいぶ小説に入り込んでいるから声は掛けずにそっと肩を叩いてみよう。
トントン
「?!…っなっなに?四ノ宮さん。」
肩を叩かれた須賀君は一瞬ビクッとして慌てて本を閉じた。
「…あっ、驚かせてごめんね。今、須賀君が読んでた本が気になって…」
「えっ!?こっこれ?」
おぅおぅ、大分動揺しとるな少年よ。顔色が悪いぞ~大丈夫だーって。
とって食ったりしないしバラしもしないから安心したまえ。
「…それって"紺碧のミーニャ"だよね?…ごめん覗くつもりはなかったんだけどチラッと挿し絵が見えちゃって……私もそれ読んでるから…」
「えっ…四ノ宮さんが?」
須賀君の目が大きく見開かれてビックリしている。
まあそれもそうだろう。紺碧のミーニャはロリ系巨乳美少女が主人公の所に転がり込んで魔法やら戦いやらをしつつちょっぴり百合描写やラッキースケベな描写が盛り込まれた、ガッツリ男性向けな小説だから。
まさか女の清純可憐(ここ重要)なクラスメイトが読んでるとは思わないだろう。
ふふふふ…。ここが第一次接触で大事なところである。
隠れヲタクにとって隠れてまで読む自分の好きな本と同調してくれる人物はほぼ同士といっても過言ではない。
普段ガチガチに固めたガードでも突破口さえ間違えず入り込めば相手のパーソナルスペースに入り込める。
「うん。紺碧のミーニャ可愛いよね、話も面白いし他のキャラクターも凄く魅力的だし。私、好きなんだ~。」
ニッコリ笑って首を傾げてみる。小説内でミーニャがよくやる仕草だ。
「……そっそうなんだ…。俺もコレ好きなんだ」
「そっか、じゃあもしかして今日新刊発売日だから買いに行ったりする?」
「あっ、うん。予約してる…」
「へー。もしかしてブックメイトで?」
「うん」
「そっか~じゃあ、私も一緒に買いにいっていい?」
「えぇっ!!しっ四ノ宮さんと一緒に行くの!?」
須賀君があたふたしてる。
一緒に行きたくないのか?そうはさせんぞ。
私は悲しそうな顔を作り須賀君の袖口を軽く摘まむ。
「もしかして…ダメ?」
さあどうだ!?私のうるうる攻撃に食いつくか!?
「…やっ…だっダッダメじゃないよ!」
ッシャー!!かかったぁ~!
コレでますはフラグが立ったぁ!
後は帰り道にオトしに掛かればこっちのもんだ。ひゃっほーい!!
「ホント!?じゃあ、帰りよろしくね!」
「うっ…うん。」
そして放課後。
ブックメイトまでの道のりを須賀君と並んで歩き、書店では目当ての本を購入して帰宅するための駅を目指した。
「それにしても、ビックリしたよ…四ノ宮さんがミーニャ読んでるなんて」
「そぉ?私、ヲタクだからいろんな本読むよ?」
「えっ!?四ノ宮さんヲタクなの?!」
「そーだよー。須賀君もでしょ?」
「……やっ、俺はちが「さっき同人誌買ってるのみたよ?」…うぅ。」
「ついでに言うと、私コスプレイヤーでもあるの」
「マジで…!!」
「うん。最近やり始まったからデビューはまだなんだけど衣装はほぼできてるよ」
「へぇ…。なにやるの?」
「ミーニャだよー。」
「…ちょっ…マジ!?本当にミーニャコスするの?」
「ホントだよー。何なら見に来る?」
そう言ったとたん、須賀君の目がキラキラと輝きだした。
「見たい…!!」
「良いよ~。じゃあ、今から家行こっか。」
「えっ!?いっ今から!?…ってか、四ノ宮さんちに行くの!?」
「うん。来たらいいじゃん。私の家の最寄り駅と須賀君の最寄り駅一個差だし」
そう言って私は、慌てふためく須賀君の腕をつかんで颯爽と自宅へ向かった。