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先生が父さんを好きになったのは、初めての家庭訪問のときだった。僕は例年と同じように、母さんと父さんと並んで座り、先生の話を聞いていた。そのときの僕にとって、先生は担任の先生でしか無かったのだけど、いつもの教室で笑うのとは、違う笑顔を見せる先生に、僕はすぐ勘付いた。先生は、父さんに一目惚れしていたのだ。
入学式には親の顔を覚える余裕は無かっただろうし、家庭訪問だけで済めば良かったのだけれど、父さんは学校行事に必ず参加するから、先生と関わる機会も多い。
だから、その思いは、確実になっていったのだと思う。僕は何故、そんな些細な事に気付いたのかは分からないけれど、きっと僕は父さんの前で初めて見た、先生の女性らしい仕草に、だんだん惹かれていったのだろう。
だから、僕の恋は、叶うはずもなければ、それ以前にとても複雑なものなのだ。
「先生、ケーキ買ったけん!食べて下さいね、今日来たとき」
父さんは、わざわざケーキの箱を開けて先生に見せる。僕は恥ずかしい。
「おわ、俺も欲しいよ父ちゃん」
純平はケーキの箱を覗き込み、目をキラキラさせた。
「ああ、一個は母さんのやけん、母さんにお供えしたあとなら、食べていいで」
純平はそれを聞いてテンションが上がっていたけれど、僕は、先生の一瞬の、悲しそうな表情を、見逃さなかった。その変化は、周りに気付かれるようなものではないのだけれど、僕には、分かってしまう。
先生は、母さんが死んだとき、どう思っていたんだろうか。
「じゃあ、愛斗、純平。帰ろうな。先生、あとで」
父さんはケーキの箱を閉じて、先生に手を振った。先生は父さんに礼をして、笑っていたのだけど、その笑顔も、父さんの前だと、何だか違うのだった。
だから僕は、家庭訪問に参加をしたくない。自分の恋の無謀さを、目の前で思い知らされるからだ。
「純平、今日は飯食べて帰れ」
「まじ〜やった〜」
僕は、父さんと純平の盛り上がって話している姿を、少し後ろを歩いて見ていた。




