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この街で、僕は恋をした  作者: めい
第六章
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3

冬休みに突入し、僕は勉強に力を入れた。高校三年間でまともに勉強をしていなかったものだから、僕の頭はスポンジのように教科書の中身を吸収できた。

ばあちゃんと純平と、三人で父さんの見舞いに行ったりもした。父さんは、相変わらず、中村さんと仲良く話していて、骨折なんてしていないかのように、いつも通りだった。


「あと、一週間で、退院や」


父さんの回復力は凄くて、予定よりだいぶ早く退院が決まった。


「良かったなあ、父ちゃん」


純平は父さんの横に座って、喜んでいた。純平はとても、父さんに懐いているのだ。

と、病室の扉をノックする音がした。


「失礼します」


先生だった。僕は、終業式以来、久々に見る先生に、胸が波打つ。

だけど、先生が会いに来たのは、僕じゃない。


「先生!すんません、恥ずかしいとこ見せてから。わざわざ来てくれたんですか」


父さんが、先生を見て、驚いている。


「なんや、綺麗な方やなあ、奥さんかと思ったがえ、ひぇひぇ」


中村さんが、怪しい笑い声をあげた。僕はその言葉にチクチクと傷付くのだけど、そんなこと周りに知られるわけにいかないので、平然を装う。


「…あー、俺、喉乾いた。純平、何か買いいこー」


僕は演技をして、純平に目で合図をした。純平は、よく分かっていなかったようで、座ったままきょとん、としていたけど、僕は無理矢理連れ出す。


「そうや、ばあちゃんも、そろそろ帰らんと。俺、晩ご飯はハンバーグがいいわ。あ、中村さん、中村さんも、散歩行きましょ」


僕はきっと、すごく棒読みだったと思う。なぜ、そう分かったかって、先生が、僕を変な顔で見ていたからだ。


「愛斗?いいん?」


病室を出て、純平は僕に小さい声で心配をする。


「いいんや。先生は、今まで父さんのこと、ずっと好きで、なのに、2人きりになるチャンスは無かったけん。いいんや」


僕が自分以外に優しくできたのは、自分を傷付けてまで起こした行動は、年末の、独特の雰囲気のせいだろうか。あの、いい気分で終わろうという、暗黙の。

僕はばあちゃんを見送って、中村さんの車椅子を押しながら、純平と屋上で時間を潰した。



「もう、そろそろいいやろ?」


病室に戻るきっかけになったのは、純平の一言だった。まだ、十数分しか経っていない。だけど、そろそろ中村さんへの誤魔化しも効かなくなってきたので、僕らは戻ることにした。


「さ、ただいまーやな、中村さん」


僕が中村さんの車椅子を押して、病室の前へ来て扉に手をかけたとき、中から声が聞こえてきた。


「しかしなあ、先生。ありがとうございます」


父さんの声だ。


「母さんが死んでから、先生には心配してもらったり、俺も愛斗も、ほんとに助かったけん。感謝でいっぱいです」


僕と純平は、何となく、病室に入りづらくて、扉を少し開けたまま、廊下で固まってしまった。


「私は、自分のしたいようにしただけなので」


先生の声が、震えている気がした。


「私は、好きな人を、支えたかっただけなんです。自分のことだけしか、考えていませんでした…。教師失格です、私なんて」


先生。先生も、僕と同じように。父さんを思って、苦しんでいたんだ。そんなこと、分かっているつもりだった。なのに、改めて、僕に重みが伝わってくる。


どうして人は、恋をすると、自分勝手になるのだろう。相手の為、だなんて、嘘だ。全ては自分のために、相手に尽くしているのだろう。


「先生は、教師失格やないわ!俺の母さんの墓参りも来てくれて、生徒の愛斗を気にかけてくれて。おかげであいつはな、夢を見つけたんや」


ああ、母さんを思い出すときの、あの父さんの話し方だ。僕は父さんに、愛されているのだ。


「瀬能さん」


先生の声に、力が入った。


「瀬能さんが。奥さんのことを今でも愛していることを、私は知っています。それなのに、こんなことを言うこと。お許しください」


父さんは、黙っている。頷いたのだろうか。ここから表情は見えない。


「瀬能さんのことが、好きです。ずっと好きでした。私は、奥さんのことを、羨ましいのです。瀬能さんに愛されて、羨ましいです」


僕は、立ち尽くしていた。純平が、心配そうに僕を見ているのがわかったけど、僕はただ呆然とした。

好きな人の、好きな人への思いを聞くのは、やっぱり辛い。

それが自分で作ったものなのに、どうしてこんなに、痛いのだろう。


分かって、いたのに。


「先生…」


父さんは少し黙ったあと、話し始めた。


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