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「さあ瀬能くん、進路決めんと冬休みこんよ。もう就活とか始まっちょんに、呑気すぎるよ。大学の締め切りも近いんで!」
二回目の、先生との二者面談だ。進路が決まっていないのは、クラスで僕だけになってしまった。純平は父さんの会社に就職が決まったのだけど、僕は相変わらず何をしたいか分からないままだ。
先生は、僕に普通に接している。僕は、先生に普通に接している、ふりをしている。
やっぱり先生を見ると苦しいし、切ない。だけど、純平に気持ちを話してから、僕の感情は乱れることが無くなったような気がした。
「どうする、就職か、進学か」
「うーん…」
「どんなことしたいん?」
先生の、となりに、いたい。そんなことが頭に浮かんで、僕の顔は熱くなる。少女漫画のヒロインじゃないのだから、と思う。
「やりたいこと…」
先生は、手に入らないのかな。
「うーん」
先生に、近づく、方法。
「ああ」
先生に。
「俺、高校の体育教師なる」
僕は自分で言って自分で驚いた。僕が、体育教師?先生と同じ、高校の体育教師になるのか?
先生を見ると、先生も驚いている。
「いや、あの」
「…いいやん、体育教師!!」
「え」
先生の目は、キラキラしていた。
「瀬能くん、成績も悪くないし、体育も好きやろ?なれる、なれるよ〜」
「は、はあ」
「なんなん、ちゃんと考えちょんやん」
「う、うーん…」
「じゃあ、決定!いい大学、調べて教えるけん。県外に出るん?」
「いや…父さんとばあちゃんだけじゃ、家が心配やし」
「そっかあ。優しいなあ瀬能くんは」
そんな風に、言わないでくれ、先生。
何の気なしの褒め言葉が、僕には大きな刺激を与えるんだから。
僕の進路は、体育教師に決まった。僕はそんなものに、なるのだろうか。父さんにも、純平にも、誰にも言ってない。ましてや自分だって、そんな道を考えたことはなかった。
でも、不思議と、やってみようかな、と思える。先生と同じ道を歩むことが、嫌ではないのだ。
僕は席を立ち、教室に帰ろうとした。
「せ、瀬能くん」
「?」
先生に呼び止められ、振り向く。
「瀬能くんの、お父さんのお見舞いに、行っていいんかなあ」
僕は心臓が少し、きゅっとした。ああ、父さんに会いたいのか。僕と2人で話しているときにも。
「…父さん、喜ぶわ。先生のこと、いい先生やっち、言いよんけん。退院前にでも、行ってやって。まあ冬休み明けやけどな」
僕は、自分の気持ちに、いつまで嘘を塗りたくるのだろう。だけど、そうするしか、無いのだ。ぶつかる勇気が、僕には無い。
僕は、教室へ帰った。受験勉強をしなくては。帰りに、父さんに、会いに行こう。




