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放課後、僕は友梨を呼び出した。廊下で待っていると、友梨は、小走りで僕の元へ来た。
「愛斗くん、どしたん急に」
友梨が、僕の制服をつかむ。僕はこの手に、どれだけ卑怯な感情をぶつけたのだろう。この、純粋な心を、僕はどれだけ弄んだのだろう…。
「友梨」
「ん?」
「俺の父さんが、事故ったんやけど」
「え!大丈夫なん?」
「うん。でもその事故、俺のせいで」
「なんで?」
「俺が、自分の気持ちに嘘ついて、目を逸らして。逃げて逃げて。逃げ続けて。父さんに八つ当たりして、俺、それからも、また逃げちょった。父さんは、俺を追いかけてきよって、道路に飛び出して、ひかれたんよな」
「…うん」
「でな。俺はもう、自分の気持ちから目を逸らすの、やめる」
「………」
僕の制服をつかむ友梨の手が、すこし強まったのが分かった。
「俺は友梨を好きじゃない。好きになれん」
友梨は、うつむく。
「俺の逃げ場にしちょった。たくさん傷付けた。今も傷付けた。ごめん。最低な奴でごめん」
「……なんでそんな、こと、言うん?あたしのこと、好きやなかったって?少しも、一度も、思ったことないん?」
友梨の声が震える。僕は自分で招いたことなのに、胸が痛む気がした。
「好きじゃない。好きと思ったことは、ない」
友梨は座り込んで、泣いた。廊下を歩く人たちが、僕らを横目で見る。だけど僕は、今、友梨と向き合わなければいけない。周りを気にしている場合ではなかった。
「友梨」
「遊びやったってこと…」
「違う。遊びやない。好きになろうとした。でも無理やった」
「最低………」
「……うん」
「最低や、愛斗くん」
「ごめん」
「消えて」
「うん」
「もう、あたしの前に現れんで…」
「…うん」
僕は友梨を立たせようと、手を伸ばしたけど、その手は弾かれてしまった。僕は友梨から離れ、教室へ帰った。後ろで、友梨を慰める女子の声がした。僕はきっと酷い人という噂が流れるだろう、だけど、それは仕方ない。
僕は、友梨を傷付けた。自分の為だけに、友梨を利用したのだから。
「…ごめん」
呟いた僕の声は、もうすっかり冬の空気に消えて行ってしまった。




