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僕は1人、勝手に先生と気まずいまま、毎日を過ごした。先生が僕に対して、何かを思っているのかは分からないけど、僕は二者面談のときの、告白のような、違うようなことをした自分が、すごく恥ずかしかった。
「愛斗、起きちょんか」
一階から、父さんの呼ぶ声が聞こえる。
今日は、母さんの命日だ。
母さんは、僕が高1の秋、急死した。脳出血で、倒れたのだった。
僕はそのとき、いつものように学校で授業を受けていた。放送で呼ばれた僕は職員室に行って、先生から、それを聞かされた。
僕は純平を呼び、先生の車で病院へ向かったのだけど、そのときはすでに、母さんは死んでいた。
ばあちゃんは、ぼろぼろと泣いていた。父さんは、ただ黙って、母さんの手を握っていた。
泣いてない父さんを見て、僕は、なんて奴だ、とか思っていたのだけど、その夜中に聞こえた、嗚咽のような泣き声を、僕は一晩中聞いていたのだ。
「準備できたかえ、愛斗」
ばあちゃんが喪服を着て座っている。僕が制服に着替えていると、純平もやって来た。
「もう、二年経つんやな。今もここにおりそう」
純平は、慰め方だとか、そういうのを知らない、というか、下手なので、ありきたりなことを言って、和ませようとする。
「じゃあ、行くで、乗りよ」
僕らは父さんの運転する車に乗り込んだ。
母さんの墓参りなんて、僕は滅多に来ない。父さんは多分、かなりの回数、行っている。
「母さん、来たで。寂しかったやろう」
父さんの、優しい声だ。僕はその声を聞くと、体の中の汚いものが、出て行くような気持ちになる。
「遅くなりまして、すみません!」
ふと、後ろから声が聞こえた。僕は、誰か親戚でも来たのかな、と思って振り向いた。
だけど、そこにいたのは、先生だった。
「裕子!来たんや」
純平も驚いて、先生の方を見る。
「俺が、呼んだんや。去年の命日んとき、次は来るっち、言ってくれたけん」
僕は、そう言って笑う父さんの声に、胸が痛くなった。どうして、どうして呼ぶんだ。僕と、父さんの、いる所に。僕が知らないところで、2人は連絡を取ってたのか。
神様は、どうあっても、僕を傷付けたいのか。
僕はそんなことまで思ってしまった。
「お母さん、お久しぶりでございます。昨年は、来られなくてすみません」
先生が、墓前で母さんに挨拶をしていた。僕の心は歪んでいて、父さんのこと、好きなくせに。なんて、思ってしまった。それは、ただの嫉妬から来る、心の叫びだ。
「先生、わざわざありがとう。今日は良かったら、うちでご飯食べて行きますか」
僕は耳を疑う。父さん、どうして、そんなことを言うんだ。僕はもう、先生を忘れて、苦しみから解放されたいのに。どうあっても、僕は、先生を諦められないのか。
僕が先生を見ると、先生はやっぱり、周りには気付かれないように小さな変化だけど、嬉しそうな顔をしていた。
「では、お言葉に甘えて」
「じゃあ、俺もお言葉に甘えて〜」
純平が、すかさず口を挟んだ。




