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夏休みが明けた。
僕は、友梨と続いていた。僕にとっては思いやりのない行為でも、友梨は感じていた。
友梨とは、先生を思い出すたび、重なった。友梨は、僕がどんなに強引なことをしても、悦んでいた。僕はその時間だけは、友梨だけを見ていられた。
純平は、夏休みは補習で終わった。彼女からは怒られ、先生からは呆れられ、とんでもない夏休みだったようだ。
僕は、先生を避けていた。出席をとるときの返事くらいしか、先生と話さなかった。個人的に呼ばれても、体調が悪いとか何とか、適当に断り続けた。
そして、友梨と重なる。
僕の感情はだんだん麻痺してきているようだった。
ただ僕は、先生を忘れることが出来たら、それで良かった。
そして、友梨を好きになれなくても、先生さえ忘れられれば。そう思って、毎日を過ごした。
だけど、担任を避けるなんて不可能に近くて、三年でもある僕らは、二者面談を担任としなければならなかった。
「次、瀬能」
僕の前の出席番号の奴が、僕を呼ぶ。僕は廊下に出て、先生と向かい合って座った。こんな風に近くで話すのは、久しぶりだ。
「瀬能くん、最近元気ないなあ」
先生は、僕をまっすぐに見つめる。僕は、目を合わせないように下を見る。
「進路はどうする?お父さんのとこは、継がんのやったかな」
僕は、沈黙を続けたかった。だけど、それだとどうも終わりが見えない気がした。
「やりたいこと、まだ分からん」
「そりゃあ、今決めたことが、人生ずっと続くわけやないけん。とりあえず働いて、行きたいとこあったら行くとか。やりたいこととか、欲しい資格とか、ないん?」
先生は、俯いている僕の顔を覗き込んだ。僕はそれに、心臓を締め付けられる。
だめだ、僕は先生を諦められない。その視線に、そう感じた。
「俺が、やりたいこと…」
先生に、好きだ、と言いたい。大事な時期なのに、僕の頭の中は色ボケでいっぱいだった。もう、どうあっても、先生のことしか考えられなかった。
「年上の嫁さん欲しいわ…」
僕は、そうつぶやいていた。
「お!いいやん、私とかどう?」
先生が、冗談めかして僕に言った。僕は先生の顔を、じっと見つめた。
先生、好きだ。先生が好きだ。僕は、久しぶりに見つめる先生を、すごく愛しく思った。
夏休みが明けてからは、見ないようにしていた、その姿を、僕は焼き付けるみたいに、見つめた。
その手に、触りたい。髪を撫でたい。僕だって…名前で呼びたいのに。
「ん?瀬能くん?」
「なに。嫁に来てくれるん?」
先生は、困ったように笑ったり、真顔になったりした。
「そんなことより、進路は?真面目に答えてよ〜」
「真面目に答えて、真面目に聞きよんのやけど」
先生は、黙ってしまった。僕は冷静にしていたけど、内心は消えてしまいたいくらい、泣きそうなくらい、心臓もバクバクした。
「…まあ、また考えがまとまったら聞くけん。次呼んで」
先生はそう言って、僕を見なくなった。僕はそれがすごく嫌だったから、また自分を隠す。
「とか本気にすんなよ、先生」
僕がそう言うと、先生は安心したように笑った。
「な、なんも本気にしてないけん!もう、最近おかしいんやけど瀬能くん!」
僕は笑いながら、教室へ戻った。
泣きたい。泣きたい。泣きたい。
また僕は、自分で自分の首を締めてしまったのだ。




