@熱の言い訳
言い訳ペアで風邪引き小話です。
風邪を引いた。俺、岡田誠也からしてみればとんと珍しいことである。
季節の変わり目は体調を崩しやすいと言うけれど、俺のこれは昨日の持久走で誤って川に落ちたからと推測する。うん、俺のバカ。心配してくれる可愛い子らとかそれに嫉妬する攻めたちを垣間見れたのは良かったけれど。
測ってみると、体温計は38度を超えた数値を示していて、体も頭もひどく重たい。こりゃ、学校なんていけないな、と寮部屋から連絡をいれた。
そうしてもう一度ベッドに体を投げ出し目を閉じた。
梅の爽やかな香りが鼻腔をくすぐって、俺は僅かに瞼をあげた。
部屋は電気がついて明るい。あれ、俺消さなかったっけ?
ふと、おでこに当たるひんやりとしたものに気づく。とってみればそれは案の定濡れタオルだった。
もしや……
かちゃん、と陶器の音がした。扉を開けて現れた相模は、手に小さな土鍋の乗ったお盆を持ち、俺と目が合うと柔らかく笑んだ。不覚にも高鳴る鼓動。看病しにきてくれたのだろうかと思えば、余計に胸が熱くなった。
「起きたのか。気分はどうだ?」
「……頭痛がちょっと、でも平気」
そっか、と笑うと、相模は俺の頭をくしゃりと撫でる。そのまま手をおでこへと滑らせ、まだ熱いなとつぶやいた。
「作って見たが、食えるか?」
差し出されたのは梅と水菜の粥。鼻腔をくすぐった香りはこれだったようだ。
「うん」
頷いて受け取る。相模の手料理なんて初じゃないかな、なんて浮かれた。梅をほぐして一口。あまり食欲はなかったけれど、あっさりしたそれはするりと喉におりていった。
「美味しい……」
「良かった」
本気でホッとしているらしく安堵の息が聞こえた。俺が粥をゆっくり口に運んでいると、相模はおもむろに立ち上がり、タオルを持って洗面所の方に行ってしまった。
ほぐしきった梅の種を口に含む。酸味に体の力が抜けた。
相模がきてくれたのが嬉しいけれど、そばにいて欲しいけれど、彼の時間を奪いたくない。彼はきっと俺が風邪を引いたと聞きつけて、心配してきてくれたのだろう。どうしようもなく愛おしい。でも、だからこそ、というのもあるだろう?
粥の土鍋を空にすると、体のだるさも軽くなった気がした。もう大丈夫。
水道の音が止んで、相模がタオルをてに戻ってくる。
「全部食えたのか」
「うん。食べやすかったよ、ありがとう」
「ん。ほら、タオル乗っけて寝てろ」
「うん。ありがとう相模。ほんとに…。もう大丈夫だから、相模も部屋に戻って」
「いや、いる」
「大丈夫だって」
いや、と彼は首を縦に振ってくれない。頑なな彼にほおが緩んだ。
「俺さ、相模が好きで、一秒でも一緒にいたいって思うけどね、その分相模の時間を俺で埋めてしまいたくないって思うの。来てくれて、看病してくれて、すっごく嬉しい。元気でた。明日には授業も出れるだろうから、相模だってやることあるでしょう?」
ね?と首を傾けて見せれば、相模は僅かにほおを染めて、眉根を寄せた。
「反則だろ…」
相模は呟くと、俺の肩を引き寄せた。肩口に顔をうずめられるとくすぐったくて、ふふっと声が漏れる。
「寝て汗かいてるから臭いでしょ」
「いい匂いだ……まだ熱いな」
「一晩寝れば熱も下がるって」
ちゅ、とおでこに降ったキス。俺はそれを甘んじて受け、お礼と俺からも返した。
「治ったらちゃんと口にしてあげるね」
いたずらっぽく笑みを向けて言えば、相模は破顔して、俺の頭をくしゃくしゃ撫でた。
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誠也くんは遠慮しがちな子である。