@言い訳じゃないさ
『言い訳だろうか』の続編。
そちらを先に読んでいただいた方が、面白味があると思います。
「じゃぁお先に失礼」
「ばいばーいなおちゃん」
ドアがパタンと閉まる。
沈黙。
俺、岡田誠也は冷や汗を背に感じながら、ある人物と二人きりの心臓に心底悪い状況の中にいる。仕事が終わらないから残るはめになっているわけだが、如何せん、全くはかどらない。
全く、今日は楽しみにしていたアニメが始まる日だっていうのに。録画してるけど。
それもこれもこいつ、会長である相模拓斗のせい。
俺は今、秘密を守るため、こいつのものになってしまっている。
「おい」
「……なに」
急に話しかけんな心臓に悪い。上ずったらどうしてくれるんだ。
「終わりそうか?」
「……」
いいえ。
あとデータのうち込みが30枚ほどあったりします。
「半分寄越せ。ファイル共有になってるだろ?」
「え、あ…うん」
俺なんもいってないんだけど。
相模は俺の顔を見て頬を緩める。そんなに分かりやすいだろうか。
とりあえず仕事が減るのは大歓迎なので、適当に、ちょっと多目にとって渡す。お前仕事早いからよゆーだろ。
「さっさと終わらせろ」
明らかに半分ではない量を文句も言わずに受け取り、相模はデスクに向かう。
少し、拍子抜けして俺も画面を見つめた。
キーボードを叩く音だけが、しばらくの間部屋をみたした。数字の羅列を一通り確認して息をつく。
やっと終わった。もしかして相模より先に終わったんじゃないの。だってほら、量的に。
そろりと相模を窺うと、優雅にカップに口をつけていた。
なぜか俺を見て。目バッチリあったんだけど。うかがい見るつもりが。
固まる俺。
「終わったか?」
頷いた。
既に帳が降りている。蛍光灯が眩しい。
いつの間にか大分時間がたったようだ。相模の背後に見える時計の短針は、6と7の間をゆっくり刻む。
「俺帰ろっかなぁー。かいちょーどうするのさ」
会話に目をそらす。不自然に見えなかっただろうか。
パソコンの電源を落として、完全に消えるまでの間に鞄に荷物をつめた。
あれ、眼鏡ケースどこやったっけ。がさごそと鞄をあさくって、ようやく見つけたとき、
「おい」
影が落ちた。
反射的に顔をあげる。
にんまりと笑んだこいつを見て、誰が平静でいられるだろうか。
断言できる。
誰でも不可能だと。
俺のように冷や汗を流すのは少数派だろうが。
「な、なにかな~」
お願いだからそのまま近づいてこないでくれ。怖いし、いろんな危険を感じるから。
「何じゃねぇよ。せっかく誰もいねぇんだ。させろ」
「や、やだ」
「んな拒否すんなよ。抱かねぇよ。明日も学校なんだから」
「……」
じゃぁなにをさせろと。
「キス」
耳元で響いた。スッと伸ばされた手が俺の顎をすくいあげる。至近距離にある彼を見て、自然とまぶたを閉じた。
熱に浮かされたと、自分に言い訳したあの時に、俺には確かに熱が点っていて。薪を入れる前にくべられた油は、俺に灯ったた熱を色濃く写し出した。
こいつにされるあれこれに大人しく翻弄されている俺に、もう言い訳なんて言う言葉は通用しないんだろう。
なんて、相模の温もりを感じながら考えた。
一気にかいたので、おかしいところが多々あると思います。
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