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短編集  作者: 紅もみじ
5/9

No bitter

・大学生×モデル

・元同級生


大人な感じ。

あまくぬるく。


『俺さ、ずっとお前のこと好きだったんだよ。知ってた?』

俺は君に笑いかけた。

秋風の涼しい季節だった。



○●○



「おつかれー」「乙」「おつかれさんでしたぁ」

 滴る滴を拭いたタオルをつっこんで、俺は小型のエナメルバックを肩にかけた。

「おつかれです!お先します」

 軽く手を振って言う。

 真夏の日曜、午後3時。

 俺はスタジオを出て、日焼け防止のカーディガンの袖を限界まで伸ばす。サングラスも忘れない。

 モデルたるもの、日焼けは厳禁だ。そうして日の下に出て、携帯を取り出した。

『着信1件』

 ディスプレイの名に頬が緩んだ。

 いつも通りメールで返し、交差点を右に曲がった。


 俺、佐竹陽人、20歳は高校出のティーンズ誌モデルだ。在学中から活動して今じゃそれなりに名も売れている。

 女子を対象とした雑誌。もちろん歩けば分かる人にはわかる。雑誌内のランキングだって毎回上位に食い込んでいることもあり、ファンレターだってもらったことがある。

 まぁ、典型的なイケメン男子だと思う。自分で言うのもなんだが。人づてに聞いたところだと、俺のルックスはかっこいいというよりは綺麗だそうだが、一応イケメンに入ると自負していたりする。

 そのルックスを生かしたこの仕事は天職だ。たぶん、妙齢にならない限りやめないだろう。止めたくない。

 だから俺は隠す。

 自分を、隠す。


 隠してきた。


『別に引いたりしないわよ?寧ろそう言う系の雑誌に移ってくれちゃってもいいし?陽人君ならそっちでも売れっ子よ』

 隠しきれなくなった時、プロデューサーは言った。


 隠さなくてもよくなった。


 公言しよう。

 僕は女子(君ら)を好きにはなれないのだと。



○●○



 風鈴が鳴った。

 こじゃれた煉瓦造りの喫茶店。駐車場には見覚えのある赤いバイクが止まっている。

 俺はバックを肩に掛け直して、軽く扉を押した。

 ちりん。

 本棚の並ぶ、広くはない喫茶店。高校時代から通う、なじみの店。なじみの席。

 なじみの人。

 ブラウンの天然パーマを少し揺らして、彼は俺を見つけると嬉しそうに手を振った。

 俺らの他に客はいなかった。だって今日は定休日。主人が俺らに許した、俺らのための空間に、いまこの喫茶店はなっている。

 半眼の、眠たそうな瞳をこちらに向けて細める彼、桐原弘夢は高校時代の同級生。そして今は、恋人。

 俺が席に着くのを認めると、主人が冷たいアイスティーを置いて奥に消えた。

「そのカーディガン。前雑誌で着てたやつでしょ?」

 目ざとく彼は見つける。君が僕のきているそれを見て、似合っていると微笑んだ淡いベージュのカーディガン。

「あったり。似合うでしょ」

「似合う似合う。陽人は何着ても似合うけど、やっぱりそれは特に合う」

 どう?ショッピングでも行く?彼はそう首を傾げる。頬杖をついたところから、引っかかっていた髪がパラリと落ちた。

「いいや、外に出たくない」

 そう言えば何も飲んでいなかったと、出してくれたアイスティーに口をつけた。俺が甘いのが得意でないと知っている主人の入れるアイスティーは、とっても俺好みの味。

「ところでさ、この前の話し、考えてくれた?」

「一緒に住むって奴か?別にいいけど、お前は大丈夫なのか?」

 カップを置いて彼を窺う。頭を抱え込んでいた。

「何とか……もう成人してんだし、なんで引きとめるかなぁ」

「お前が幼いんでないの」

「は、めっちゃ男らしいかんね。バイトでビール一気に六つは持てるようになったからぁ」

 そう言って手を大きく開いて見せる。確かに、お前の手はおっきいからなと納得した。

「大学は?」

「夜にしてんの。稼ぎはあんましないけどねぇ……あ、陽人に養ってもらうとか……なんかいいかも」

「おいコラ。俺だっていつまでもつか分かんないんだぞこの仕事」

「えー、じゃぁやっぱり俺が大黒柱になんないとねぇ。未来的には」

「今は?」

「あなたの稼ぎには及びません」

「嫁に来る?」

「婿に入る」

「お前料理作るじゃん」

「嫁が料理作るって言うのは固定観念ですぅ。こう言うのはあれでしょ、上か下か」

「んじゃ譲れ」

「それはない。絶対あり得ない」

「なんで」

「なんでも」

「……試してみる?」

 珍しく俺からの誘い。

「え、マジで……?」

 いつもならのりのりで俺を押し倒すくせに、自分がそうされるかもとなると微妙な顔をする。これまでも何度かあったが、いつもそうだった。俺だって男だって言うのに。

「俺明日オフ。お前は?」

「夜……バイト」

「じゃ平気だな。行くぞ」

「ど、どこへ?」

「決まってるだろ」

 にやりと笑んで見せると、弘夢はあからさまに赤くなった。こいつもモデルできそうなルックスは持っている。天然パーマを整えさえすれば、もっと。

「おじさんありがとね」

 聞こえているか分からないが、そう声をかけて喫茶店を後にした。

 さぁ、この辺で一番近いのはどこだっけ。



○●○



 葉桜になった頃だった。

『俺ってさ、陽人のこと好きなんだよ。多分、お前と同じ意味で』

 君は言った。



誤字脱字等ありましたらお知らせください。

また、感想評価など頂けると励みになります。



さて、この作は『神の力の箱ですか。』の企画とは関係ありません。突発的に書いたものです。


大人、あったかい、をコンセプトに今回は書きました。最近読んだ漫画に影響を受けまくっています(笑)

エロいのも書いていたいんだけど勇気と技量がない。


で、語りますと。

陽人君はゲイです。生粋の。昔からそうだけど、でも容姿が良かったこともありスカウトされてモデルに。女の子には超もてます。でも断ります。

モデルだから、クールに見えがちだけど、表情も結構変えたり、突拍子もないこと言ったり突っ込んだりと、性格はいたって普通です。

弘夢君はゲイではないです。陽人君だから好きになりました。二人は中学からの大親友です。いつも眠そうな顔してるけど、元気いっぱいな子です。寝るのは大好き。料理人を目指して栄養系の大学に通っています。


この話はもっと掘り下げたくなるwww


今回、まぁ突発的だったこともあって時系列が入り乱れております。

伝わればいいなぁと願って、この辺で。

お付き合いありがとうございました。

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