No bitter
・大学生×モデル
・元同級生
大人な感じ。
あまくぬるく。
『俺さ、ずっとお前のこと好きだったんだよ。知ってた?』
俺は君に笑いかけた。
秋風の涼しい季節だった。
○●○
「おつかれー」「乙」「おつかれさんでしたぁ」
滴る滴を拭いたタオルをつっこんで、俺は小型のエナメルバックを肩にかけた。
「おつかれです!お先します」
軽く手を振って言う。
真夏の日曜、午後3時。
俺はスタジオを出て、日焼け防止のカーディガンの袖を限界まで伸ばす。サングラスも忘れない。
モデルたるもの、日焼けは厳禁だ。そうして日の下に出て、携帯を取り出した。
『着信1件』
ディスプレイの名に頬が緩んだ。
いつも通りメールで返し、交差点を右に曲がった。
俺、佐竹陽人、20歳は高校出のティーンズ誌モデルだ。在学中から活動して今じゃそれなりに名も売れている。
女子を対象とした雑誌。もちろん歩けば分かる人にはわかる。雑誌内のランキングだって毎回上位に食い込んでいることもあり、ファンレターだってもらったことがある。
まぁ、典型的なイケメン男子だと思う。自分で言うのもなんだが。人づてに聞いたところだと、俺のルックスはかっこいいというよりは綺麗だそうだが、一応イケメンに入ると自負していたりする。
そのルックスを生かしたこの仕事は天職だ。たぶん、妙齢にならない限りやめないだろう。止めたくない。
だから俺は隠す。
自分を、隠す。
隠してきた。
『別に引いたりしないわよ?寧ろそう言う系の雑誌に移ってくれちゃってもいいし?陽人君ならそっちでも売れっ子よ』
隠しきれなくなった時、プロデューサーは言った。
隠さなくてもよくなった。
公言しよう。
僕は女子を好きにはなれないのだと。
○●○
風鈴が鳴った。
こじゃれた煉瓦造りの喫茶店。駐車場には見覚えのある赤いバイクが止まっている。
俺はバックを肩に掛け直して、軽く扉を押した。
ちりん。
本棚の並ぶ、広くはない喫茶店。高校時代から通う、なじみの店。なじみの席。
なじみの人。
ブラウンの天然パーマを少し揺らして、彼は俺を見つけると嬉しそうに手を振った。
俺らの他に客はいなかった。だって今日は定休日。主人が俺らに許した、俺らのための空間に、いまこの喫茶店はなっている。
半眼の、眠たそうな瞳をこちらに向けて細める彼、桐原弘夢は高校時代の同級生。そして今は、恋人。
俺が席に着くのを認めると、主人が冷たいアイスティーを置いて奥に消えた。
「そのカーディガン。前雑誌で着てたやつでしょ?」
目ざとく彼は見つける。君が僕のきているそれを見て、似合っていると微笑んだ淡いベージュのカーディガン。
「あったり。似合うでしょ」
「似合う似合う。陽人は何着ても似合うけど、やっぱりそれは特に合う」
どう?ショッピングでも行く?彼はそう首を傾げる。頬杖をついたところから、引っかかっていた髪がパラリと落ちた。
「いいや、外に出たくない」
そう言えば何も飲んでいなかったと、出してくれたアイスティーに口をつけた。俺が甘いのが得意でないと知っている主人の入れるアイスティーは、とっても俺好みの味。
「ところでさ、この前の話し、考えてくれた?」
「一緒に住むって奴か?別にいいけど、お前は大丈夫なのか?」
カップを置いて彼を窺う。頭を抱え込んでいた。
「何とか……もう成人してんだし、なんで引きとめるかなぁ」
「お前が幼いんでないの」
「は、めっちゃ男らしいかんね。バイトでビール一気に六つは持てるようになったからぁ」
そう言って手を大きく開いて見せる。確かに、お前の手はおっきいからなと納得した。
「大学は?」
「夜にしてんの。稼ぎはあんましないけどねぇ……あ、陽人に養ってもらうとか……なんかいいかも」
「おいコラ。俺だっていつまでもつか分かんないんだぞこの仕事」
「えー、じゃぁやっぱり俺が大黒柱になんないとねぇ。未来的には」
「今は?」
「あなたの稼ぎには及びません」
「嫁に来る?」
「婿に入る」
「お前料理作るじゃん」
「嫁が料理作るって言うのは固定観念ですぅ。こう言うのはあれでしょ、上か下か」
「んじゃ譲れ」
「それはない。絶対あり得ない」
「なんで」
「なんでも」
「……試してみる?」
珍しく俺からの誘い。
「え、マジで……?」
いつもならのりのりで俺を押し倒すくせに、自分がそうされるかもとなると微妙な顔をする。これまでも何度かあったが、いつもそうだった。俺だって男だって言うのに。
「俺明日オフ。お前は?」
「夜……バイト」
「じゃ平気だな。行くぞ」
「ど、どこへ?」
「決まってるだろ」
にやりと笑んで見せると、弘夢はあからさまに赤くなった。こいつもモデルできそうなルックスは持っている。天然パーマを整えさえすれば、もっと。
「おじさんありがとね」
聞こえているか分からないが、そう声をかけて喫茶店を後にした。
さぁ、この辺で一番近いのはどこだっけ。
○●○
葉桜になった頃だった。
『俺ってさ、陽人のこと好きなんだよ。多分、お前と同じ意味で』
君は言った。
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さて、この作は『神の力の箱ですか。』の企画とは関係ありません。突発的に書いたものです。
大人、あったかい、をコンセプトに今回は書きました。最近読んだ漫画に影響を受けまくっています(笑)
エロいのも書いていたいんだけど勇気と技量がない。
で、語りますと。
陽人君はゲイです。生粋の。昔からそうだけど、でも容姿が良かったこともありスカウトされてモデルに。女の子には超もてます。でも断ります。
モデルだから、クールに見えがちだけど、表情も結構変えたり、突拍子もないこと言ったり突っ込んだりと、性格はいたって普通です。
弘夢君はゲイではないです。陽人君だから好きになりました。二人は中学からの大親友です。いつも眠そうな顔してるけど、元気いっぱいな子です。寝るのは大好き。料理人を目指して栄養系の大学に通っています。
この話はもっと掘り下げたくなるwww
今回、まぁ突発的だったこともあって時系列が入り乱れております。
伝わればいいなぁと願って、この辺で。
お付き合いありがとうございました。