表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 紅もみじ
3/9

得手不得手

こちらは

真面目(?)優等生×不良

です。


切甘?

リバっぽい

長い

おkの方どうぞお進みください。



 真面目な奴は苦手だ。

 学級委員とか、人が面倒でやらないような仕事を自分から引き受けるような、世間で言う“優等生”って言う奴。不良なんかやってる俺が言うと僻みのようだが、人には得手不得手ってあるだろう?それと一緒なんだよ。なんでか受け入れられないんだ。

 だから、真面目な奴は苦手だ。


 ――だったはずなのに。



「またサボってるのか。ちゃんと授業出ろって言ってるだろうに」

「やだ」

「……ったく」

 教室棟の裏手に位置する木陰の穴場。夏だというのに涼しい風が吹きぬける。誰からも見つからない俺だけの場所に、今は俺だけではない。毎回同じ事を言って現れる彼――関は代議委員会(学級委員のこと)二年副委員長を務める所謂俺の嫌いな“優等生”。ひょんなことから俺がここでサボっているのを知って、なぜか毎日のように通ってきている。始めは追い払うのも面倒で無視を決め込んでいたが、暫くして始めの一言以外は“優等生”らしいことを言わないことに気が付き、そのことを尋ねたのをきっかけに打ち解けてしまい、今に至る。

 何度も言うが俺は真面目な奴が苦手だ。それは今も変わらない。

 ただ、関を除いては。

「なぁ、成宮はさ、文化祭でるのか?」

 既に定位置となった俺と向かい合わせの木に凭れかかり、こちらにその透き通った瞳を向けて言う。僅かに吹いた風に、瞳と同色のしなやかな黒髪が揺らされる。

 綺麗だと、そう思ってしまう。関はさわやか系な美形だ。

 俺は苦手と言っておきながら、その苦手な人種に恋心を抱いていた。

「文化祭かぁ」

 態と彼から目をそらす。

 絶対に言えない、叶わない。気づいた時点で終わった恋だ。同姓で、たとえこの学校にそういうのが多くとも、相手は優等生で、俺は不良だ。中性的だといわれる俺の容姿では、ぱっと見分からないけれど結構名は売れている。煙草は吸わないけど酒は飲むしピアスも開けた。髪だって金髪で長いから一つに結っている状態。どう考えても不釣り合い。

「どうせ聞いてないだろ。日程。ほら、代議用のコピーやるよ。……参加しないか?」

 関が首を傾げて問いかけてくるのを尻目に僅かに身を乗り出した。

 関から文字のたくさん書いたコピー用紙を受け取って、簡単に目を通す。

 去年だって参加しなかった面倒甚だしいイベントに、彼の一言で参加してみようかなと思ってしまう自分に心中で苦笑する。この短い期間でこんなにも絆されてしまった。思えば彼が来るようになってから教室にいる時間が多くなったような気がする。この“優等生”と同じ空間に少しでも長く居たいだなんて、そんな女々しいことを思ってしまう。

「うちのクラスは何すんの?」

「飲み物販売」

「……たる」

「ローテーション組むから自由な時間が多くとれるぞ」

「自由時間ねぇ……」

 自由な時間なんてたくさんあったって騒ぐ気も起きないし。回ったって野郎しかいないこの学校で楽しいことなんてないし。第一一緒に回る奴なんていないし。あれ、俺悲しい奴みたいじゃん。不良仲間は一緒に回るような仲じゃない。何より俺は一人でいるのが好きだ。

 でも、関となら、一緒に回るのもいいなと思う。だけどこいつはきっと忙しいし、友人だってたくさんいるだろう。俺なんかがこいつと一緒にいるのは周りから見ても異質。だから誘わない。我ながら冷静に判断した結果だ。

 なのに。

「せっかくだし俺と一緒に回らないか?」

 耳を疑った。俺はさぞ目を見開いていることだろう。

 俺が今下した決着はなんだったんだよ。なんでお前が言うんだよ。

 呆ける俺に関はくすりと笑んで目を見据える。なぜか真剣な目をしていた。彼から目が、離せなくなった。

 どうして俺相手にそんな表情をする?まるで関が俺と回りたいみたいな。いや、誘われているわけだしそれであっているのか。

 関が、俺を誘ってくれたんだ。

 たったそれだけのことに仕舞い込んだ感情が脈打った。

 やばい。嬉しい。

「まぁ、返事は明日でいいよ。もう予鈴鳴るから」

 関はにわかに立ち上がると、俺を促しもせずに一人で去って行った。


 一人になって嬉しさの半面、余計分からなくなった。

 どうして俺を誘う?今までまともに行事に参加したこともないのに。周りの奴らからは煙たがられるような状態なのに。恐れられている状態なのに。……ファンクラブがあるって聞いたこともあるけど。俺の。これはこれで意味分からんが。

 脱線しかけてふと思った。

 俺がまともに行事に参加しないから?関が代議員だから?俺を馴染ませるため?

 浮かんでしまえば全てが繋がったように感じた。一番しっくりくる。

 所詮あいつも“優等生”なんだ。与えられた仕事はこなす。出来たやつ。俺もクラスのメンバーってだけなんだろう。

 巡る思考に嫌気が差して体を横に倒した。草の青臭い臭いが鼻をくすぐって、参ってしまっていた気分を刺激する。少し目を閉じていると、重い気持ちが少しとれた。

 関が誘ってくれたのだ。どんな理由があろうとも、これを蹴ってしまうのはもったいない。せっかく、そう、せっかくなのだ。どうせ叶わない恋ならば、勝手に思い出を作って閉まってしまえばいい。

 出来るだけポジティブに考えて、俺は少しの惰眠を貪ろうともう一度眼を閉じた。


「交代でぇーす」

「ん」

 教室を飾りつけした飲み物販売の売店で、レジ係用のエプロンを外し、声を掛けて来た奴に渡した。

 始めは警戒していたらしいクラスメイトも、俺が何もしないと分かると途端にフレンドリーに接するようになった。俺から話しかけたりはしないし、返答も短いが、声を聞くのも初めて見たいな奴ばかりで新鮮だ。

 初めて参加したが、こういうのも悪くない。別に関わりが面倒だっただけで、接客とか、準備とかが嫌いなわけじゃないんだ。あ、でも接客は苦手かもな。笑顔作るとかできないから。喫茶でもしてくれれば陰で料理してたのに。

「関も休憩だよね?」

 ふと、意識が誰とも知れない声のした方へ向いた。

「あぁ、じゃぁ任せるね」

「いってらー」

 関はジュースの管理をしていたようで、重そうな段ボールを床に置くと額に光る汗をぬぐった。かっこいいな、なんて乙女みたいなことを思っていると、目があって慌てて目を逸らした。やっべ、見てたの分かったよな。

 一人でハラハラしてる俺ってホント何?するとこちらに近づいてくる音がして、何とかして平静に戻した。いつまでもレジにいると邪魔なので、避けて教室の角に移動する。無意識に関から距離を取った形になる。

「成宮、行こう?」

「……あぁ」

 しかし関は気にした様子はなく、俺の返事を聞くと俺の肩を押して教室を出た。


 今は丁度お昼時。

 食べ物を売っている三年生の屋台はかなり賑わっているようで、炎天の元、長蛇とはいかないまでも行列が出来ていた。一日目の今日は校内だけでの開催なので、同校の生徒か教師しかいない。

「何食う?俺なんでもいいな」

「じゃぁ……そこの、あんまり並んでねぇとこ」

「おっけ。買ってくるからその辺座ってて」

「え、金「いいから」……」

 行ってしまった。

 あとでちゃんと金払わないと。じゃないと、また変な噂立つからな。『不良=かつ上げ』っていう方程式誰か抹消してくんないかな。

 植え込みの赤煉瓦の上に腰かけて、関を待つ。

 雑踏と比喩するにふさわしい中、関の姿を見つけた。よく見つけたな俺。頭しか見えてないのに確信する。ほんと、早くこんな気持ち忘れられたらいいのに。姿を見つけるたびにちくちくして気持ち悪い。なんだか暑さがそれに拍車かけてる気がする。めっちゃ頭ボーっとするんだけど。おかしいな。ちゃんと日陰選んで座ればよかった。

 動くのも面倒になってその場で項垂れてみた。頭を下げると目の前が暗くなって少し楽になった。熱中症か?いや、俺そんなに柔くないはず。

と、視界に足が見えた。誰かなんて見なくとも分かってる。

「成宮?どうした?」

 関は少しかがんで俺の頭を触ると「あっち」と呟いて手を離した。

 え、今頭、さわ……

「日陰行くぞ!」

「え、……!」

 ぱっとひっぱり起こされ、そのまま歩きだした。その際に握った手を、そのままに。

 人の溢れかえる昇降口で、俺は関に手を引っ張られて歩いている。

 誰かに見られたらとか、俺の悪い噂とか、それで及ぶ関への被害とか。浮かぶけれどそれどころじゃなくて。感じる人肌に、俺を引っ張る背中に、魅せられて、頭が沸騰しそうだった。

 混乱と歓喜と――少しの罪悪感。

 関は俺の思ってることなんか知らなくて、ただ俺がへばってたからの親切心。優しい“優等生”な関だから。俺みたいな奴がいたら誰にでもするだろう。そんな、関にとってはなんでもないことにこんなに心を動かしている。迷惑でしかない感情。どうして抱いたかなんてもう分かんない。

 だからせめて思う。こんな俺が関を好きになってごめんって。

「着いたぞ…・って。ほんとにダイジョブか?」

「え、あっ。平気」

 繋がれていた手を自分から離した。

 罪悪感がさっきより大きくなって、関の顔が見られない。否、俺の顔こそ見せられなくなってるんじゃないだろうか。だって、熱すぎる。……熱中症のせいにしてしまおうか。

 関はいつもの場所に俺を連れてきたようだ。周り見てなくて今気がついた。関が定位置に腰を落ち着けたのに倣い、俺もその迎えに腰を下ろした。二人分のたこ焼きを関が袋から取り出した。

 その手をなんとなしに見つめる。ちゃんと男じみた骨ばった手。細くて、白い。どうしても関のことを考えると最終的にはマイナスな気分になってしまう。苦しくなって、申し訳なくなって、ますます大きくなる。

 あー!駄目だ。せっかく一緒にいられるのに。

 俺は関の方に腰を動かして、たこ焼きに集った。

 距離が少しでも縮まればいいと思った。

「うまそー。あ、金」

 片方を手にとって止めてあるセロハンテープに手を掛ける。

「いいよ」

「いや、でも」

「それよりほんとに平気?熱中症じゃないの?顔赤いよ?」

 覗きこむように近づいた関の顔に、俺は驚いて身を引いた。そんなことされたら余計赤くなるでしょうが。

「へ、平気」

 何とか絞り出した声も力がない。ほんとに熱中症なりそうだ。ってかピアス熱い。顔も熱い。頭も熱い。

「――!」

「いや、やっぱ熱いよ」

 さ、さわ、ほ、頬にさわ……!?

 そりゃ熱くなるよ!お前が俺の頬に手なんか添えたらそりゃあもう!

 何?なんで今日はこんなスキンシップ旺盛!?

 そんなことされたら――その気になっちゃうだろ?

 近くにあった関の肩を押した。何の抵抗もなく草の上に落ちる体。いいのかよ、そんな無抵抗で。誰にでもそうなのかよ。

 無性に頭にきて、関の上に馬乗りになった。もう犯してしまおうか。そうして嫌われたら、ふっきれるだろうか。

「何、してんの?やっぱり熱ある?」

 関は心底驚いた顔をして、俺をまじまじと見つめていた。もう少し警戒しろよ。俺はお前を犯すかもしれないぞ。殴るかもしれないぞ。

 ……信用しきるなよ。

「かもな。でも、もういいや」

 自嘲気味に笑って、顔を近づけた。裏切るのだろうか、この信用を。

 そっと唇が触れ合う。一瞬で離れる、触れるだけのキス。

 結局、俺にはこれが限界だ。犯すなんて、できない。いくらいろんなものを壊して来た俺でも、こんな綺麗なもの、壊せないんだ。

「悪い」

 彼の上から退いて顔を逸らした。面と向かって拒絶されるのはきつい。

 関が起き上がる気配がした。片腕をついて、上体だけを起こした体制になる。はぁ、と深いため息が聞こえた。

「根性無し」

「……え?は、はぁ!?」

 勢いよく顔を上げると、真剣な目をした関を目があった。真っ黒な瞳が熱くて、息を飲む。

 刹那、俺がやったのより強く、口唇が押しつけられた。

「んんっ!?」

 啄ばむように何度も食まれ、その甘さに脳がしびれる。

 なんで、どうして関が俺に。

 とうとう舌まではいって来て、静かな木陰に俺の鼻にかかった声と舌の絡まる音だけが響いた。

 何これ、いやらしい。ってか、関巧い。これ、まずいんだけど。涙滲んできてるよね、これ。

 さっき馬乗りになったときに開いた足が関の足の上で震える。あれ、これ位置的に俺がネコみたい。

 やばい。痺れる。息が苦しい。

 力の入らない拳で胸板を数度叩くと、銀糸を余韻に離れた。

「ふはっ……はっ、は。せ、関?」

 困惑も色濃く関を見上げると、にんまりと普段見せない色香の立つ笑みを浮かべた関がいた。

「このくらいしたいかな。あーでもさっきみたいなのも可愛くて好きだけど」

「え?は?」

 何?これ誰?

 分かんねぇ。関だよな?関なのに、なんで俺に……?

 可愛いとか。

 何言ってるのか分かんない。

 混乱とかじゃ済まされない。もう何も分かんない。俺、頭溶けたんじゃねぇの。

「成宮」

 呼ばれただけで肩が跳ねた。おかしいでしょ。なんでそんな色気むんむんなの。いつもの関はどこ行った。

「俺ずっと我慢してきたんだけど、もう我慢しなくていいのかな?」

「……なにが」

 何?期待してもいいの?

 俺も我慢してたよ。それと同じだって、俺と同じだって期待してもいいの?

 じっと関を見つめて、仮想を考えて待ちわびる。

 今まで悪い方しか考えてこなかった。悪い方に悪い方に、報われないと、そう考えてきた。だから、今くらい夢を見たい。夢で終わらないことを望みたい。

「俺が成宮好きなこと」

 叶っ、た……?

「もちろん恋愛で」

 え、ほんとに?夢じゃない?

「まじ、で?」

 うんって、すごく優しい笑顔で頷く。信じられなくて自分の頬をつねってみた。

 痛い、痛い。 現実なんだ。

 どうしよう。すごく嬉しい。にやけてしまいそうだ。顔の熱なんてさっきから引きやしない。

 俺は関の真っ白いワイシャツを掴んで、肩に顔を埋めた。

 関の手が俺の頬に触れる。冷たくて心地いい。

「返事、聞いていい?」

 呟くように言われて、肩口で首を縦に振った。

 俺だって伝えたい。ずっとずっと思っていたこと。

 顔を上げて、しっかりと関の目を見た。やっぱりかっこいい。

「俺も、好き……」

 言ってから照れくさくなってはにかむと関も一寸照れたように笑った。それからなんだか可笑しくなって二人で馬鹿みたいに笑った。

 すっかり冷めてしまったたこ焼きを食べて、照れくさいような話をした。関の方が先だったとか、さっき見られてたとか、お前のおかげで文化祭これたとか。驚くような事や嬉しいようなこと。

「俺たちもう恋人でいいのかな?」

 たこ焼き食べ終わった頃、関はそう言って立ち上がると俺に手を差し伸べた。

 恋人。

 一寸照れくさい、甘い響き。

 俺は関を見上げ、そして延ばされた手に視線を移した。

 ……取らないわけないだろーが。




読んで下さりありがとうございました。

誤字脱字等ありましたらお知らせください。

また、感想評価など頂けると嬉しいです。



どうもやはり書いているうちにキャラが浮いてしまう。キャラが固定されないっていうのは致命的……。

書いててどっちがタチでネコか分からなくなってきて、初め不良受けを書こうと思って始めたので無理やりそうしました。

はっきり言って逆の方が王道で書きやすいような気もします。

しかし!わたしはこのCP好きだ←


内容的に。

成宮はもう文章中に書いたとおりです。

書いてない部分だと、結構喧嘩は強いです。喧嘩の強さに中世的で綺麗な容姿が拍車をかけて有名になってます。因みに学校は王道な感じです。

関君は一目ぼれです。

有名だから名前は知っていたけれど、不良なんていイメージがないため同じクラスになって少しいやだなって思ってたんです。そんなに気にしてたわけじゃないです。で、一目見たら、あんな綺麗な奴が……?ってなって一目ぼれ。ギャップですねギャップ。

それから代議員とかで話しかけるチャンスを窺ってたらたまたまサボり場所見つけて内心ガッツポーズ(笑)


というような設定でした。


最後にここまでお付き合い下さりありがとうございました。

僭越ながらリクエストなどありましたらメッセか感想にてお願いします。

既にあるCPでも大丈夫です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ