風の噂
隆と私の間を勢いよく風が通り抜ける。まるで私たちの間の溝を沿うように。
隆は高校入学時に初めてできた彼氏だ。あの出来事からだいぶ立ち直った今だが、やはり隆の存在はとても大きい。
「おはよ。まったく、朝から騒がしいなぁ。」
あぁ、いつもの笑顔だ
「それだけ仲がいいって事なの。」
この雰囲気、この感情
「はいはい。ほら、手。」
その差し出した手、ぬくもりのある手
隆は私の全てなのだと、いつもながら感じる。
手をつないで、そのまま登校しているときだった。
また、あの話が聞こえてきた。
「今度、高橋さんの旦那さん出てくるらしいわよ。」
「え?もうそんなにたったの?怖ぁい。でも、もう復縁はありえないわね。」
人の話、そう、私の家族の話。
関係ないのに、ほっといてくれればいいのに・・・。
悪いのは人。お母さんは悪くない。わたしも、宏さんも、隆も・・。
なのに、私たち一家がなにかのけものみたいにされている。
「色葉、気にすんな。ほら、笑って?」
いつのまにか険しい顔になっていたらしい。はっとして、笑顔に戻ることができた。
隆も・・辛いよね?嫌だよね?私なんかと一緒にいなかったら、こんな思いしなくて済むのにね。
なのに、隆は自分のことなんかほったらかして、私ばかりを気遣ってくれる。
嬉しいのに、胸の奥がすごく痛む。
「でも、旦那さんばかり悪いわけじゃないのよ?」
「あぁ…。あの件でしょ?確か、奥さんが色葉ちゃん・・・・・。」
すると、この会話を遮るように2台のトラックが通った。
何?お母さんと私?どうしたの、何があったの?人以外が悪いって、どういうこと??
せっかくの隆との登校なのに、そのことだけが、頭を駆け回る。
心の傷が少しずつ癒えてきたというのに、やっとまともな生活を送れているのに・・。
なんなのよ、もう!今日のあの日記を見てから、碌なことがない。
私は、より一層隆の手を強く握り締めると汚い過去を振り払うように歩み始めたのだった。