"地獄日和"
現世で不可能な事でも地獄でなら可能、と云うのは或る意味で本当の話だった
地獄の空は、何時も昏い
僕は此の場所が血の池なんだか針の山なんだか、何地獄なのかを実のところ本当は解って居ない
確実に断言出来る事なんて、ただ『君を責め苦に遭わせて居る』と云う事だけだ
具体的には現在、僕は君の白くて血管の蒼く浮かんだ頸部を、君の腹部から引き摺り出した、赤黒く濡れた臓物で絞首しながら上下運動をさせて窒息させる事を繰り返して居る
落下先には垂直に上を向いた細い針が敷き詰めて在り、必然的に君の躰は穴だらけの血だらけと云った有様だ
こんな事は流石に現世では出来ない
やった場合、君が途中で死亡するからである
僕があまりに派手にやり過ぎて居る為、観衆が溢れ始めて居た
獄卒と呼ばれる、地獄を管理する仏教的魔族のもの達だった
「お前」「なかなか派手にやるじゃねえか」
彼らの纏め役と思しき者が、僕に声を掛ける
『やり過ぎて眼を付けられたかなあ』『でも、楽しかったし悔いは無いな』とつらつら思案して居ると、獄卒の長は手を差し出した
一瞬理解が追い付かなかったが、握手を求めて居る様だった
「もっと面白いものも、視せられますよ」
握手しながら云うと、獄卒が真面目な顔をする
興味を持ったと断じて、僕は「石臼は在りますか?」と尋ねる
獄卒達は命令を嫌うらしく、あからさまに不快感を視せ、罵声を上げる者さえ居たが、彼らの長が手で制すると次第に静かになっていった
人ならざる怪力で石臼が運び込まれる
僕は其れを使って、君の躰から取り出した様々を磨り潰した
赤色や黄色、少し難しかったけど青色が作り出されていく
それらの配合で、視る間に他の色も出来上がっていく
観衆は固唾を呑んで僕が絵の具を作るのを視守って居たが、出来上がった絵の具で僕が近くの岩にグラフィティを描き始めると、遂には歓声が上がった
考えてみれば地獄には娯楽が乏しい
気付けば獄卒達も、指差して口々にグラフィティについて議論したり、自らも真似して岩に絵を描こうとしたりし始めて居た
「カルチャーの芽生えだ」
口には出さないが、そう思った
この場所にあって唯一人、君だけが切り開かれた姿で這いながら「か゛え゛せ゛」と呻き続けて居る
臓物の扱いに関し、納得のいかない部分が有るらしかった
「悪いが、地獄は民主主義なんだ」
君の頭を踏み付けながら、僕はからからと嗤う
「みんながあんなに愉しんで居るのに、水を差さないで呉れないか?」
地獄の空は、何時も昏い
それでも燦々たる太陽が、いま皆の心の中に在る様に思えた




