Ep.8
「さて、今日は何をしましょうか!」
次の日の朝、まだ早いと言うのにサクラはヒナタを呼びに牢の前に来ていた。普段ならばその桜色の髪の毛が揺れるのみだが、今日はすぐそばに可愛らしい水色を三つ編みに結んだアズキが控えている。
「うーん、今日はちょっとゆっくりしてたいなぁ……休憩室とかいってみよう」
「わかりました!」
ヒナタはどちらかと言うと今日はゆっくりしたい気分であった。
「では早速行きましょう!」
「お、お~」
アズキも小さな声ながら、サクラのノリに付き合っている。
その様子を見て、ヒナタは少しだけ笑顔になるのだった。
†
ヒナタたちが朝食を終え、休憩室へ行くと、すでに先客がいた。
「あらー、いらっしゃい!」
ヒナタたち三人を迎え入れたのは、南リリィと白石マコトだった。
リリィとマコトはどうやら洗濯物を干そうとしているらしかった。
リリィもマコトも、それぞれ金色の髪と白色の髪をまとめ上げ、作業のじゃまにならないようにしている。
「その洗濯物、どうかしたんですか?」
「ああ、これは全部私のもの。スペース取っちゃってごめんね」
その洗濯物は、すべてリリィの物で、マコトは付き添いに来ただけらしかった。
「本当は外に干したかったんだけど、天気予報アプリなんてないから雨が降ってくるかがわからない……っていう理由があってね」
そう言い終わると、リリィは大きくため息を付く。たしかにリリィの言う通り、このスマホには必要最低限のアプリすら入っていない。もちろん天気予報アプリなんてないので、最善を尽くすなら室内で干すことになりそうだ。
「あれ、洗濯機なんてあったっけ?」
「洗濯機自体はないから、代わりにシャワールームで洗ったね。洗剤もないからただ水ですすいだだけだけど、気持ち的にきれいになった気がするし」
そういって一着、また一着と服を干していく。
服だけでなく、ベッドのシーツや何も見えない窓のカーテンまで少し色褪せた状態で干されていた。
「でもクモさんが言うには、二日おきに服が支給されるらしいですよ? 事実、今日の朝に着替えがありましたし」
初日に、着替えについても話された。
そして今日の朝、知らぬ間に自身の牢の中に着替えが入っていたのだ。
「それについては十分わかってるよ。これはただの貧乏性で、着替えを捨てるっていう選択肢ができないだけ。あんまり気にしないでほしいな」
たしかにリリィの衣服は、青と白のの刺繍が入っており、どこか高級感が溢れている。捨てても良いと言われてももったいないと思う気持ちはヒナタにも理解できた。
そうこう言っているうちに、すべての着替えを干し終えたようだ。
「それに、なんか私の服だけ少し劣化が早いように感じるのよね。ほら、マコトのとくらべてみたらわかりやすいけど」
そういって自身の衣服とマコトの衣服を比べさせる。色は違えど、たしかにリリィの服のほうが若干色褪せている気がする。
もとは明るい青色だったであろう場所が、すこしだけ色落ちしているように見えた。
「ふーむ、謎ですね。単に劣化が早い素材ってわけではないですか?」
「私だけそんな素材の服を着させられているならクモに文句つけてやる」
ただ、劣化の早い遅いはこんなにも早くわかってしまうことはないだろう。
「能力……じゃないですか……?」
ここで口を開いたのは、ずっと怯えていたアズキだ。
「能力?」
「はい……確かリリィさんのカードは星、ですよね。星といえば光、長く光にさらされた布が色褪せてしまった……なんて、ごめんなさい、トンチンカンですよね」
無理な推測をしてすみませんとアズキは謝る。
「光……たしかにありえますね。リリィさんが無自覚に能力を使い続けている可能性があります!」
「能力……たしかに、リリィのそばにいるとなんだか心が安らぐ気がするね」
反応したのはマコトだ。
「え、まじ?」
「……気のせいかもしれないけどね」
ただし、マコトにはあまり自信がないようだ。
「ふむ、たしか星のカードの意味は希望や夢なんて意味があります! それらが何かしら作用して心の安らぎとなっている可能性がありますね!」
ただ、その推測に好意的な受け取りをしたのはサクラだ。
「たしかに……意味的にはありえなくもなさそう!」
そして、更にヒナタが賛成する。
アズキは、自身のトンチンカンな推測がここまで好意的に受けとられると思っておらず、目を丸くしている。
「まじかー。それが本当ならマコトみたいにオンオフできないってことなのかな」
マコトも、食堂で能力を間違えて使ってしまったことが記憶に新しい。
しかしその際、マコトは自身の能力をオンオフできることに気づいた。今ならもう自由に幻影を出したりしまったりできるようだ。
「流石にできるんじゃない? ほらこうぐーっって感じで」
マコトの指示通り、リリィはぐーっという感じになる。
「ってわかるわけないよ!」
そんな指示でできるわけがなかった。
「というか、今発動してるかもわからないのに能力のオフのやり方を教わっても仕方がないですね!」
そういうサクラの言葉も真っ当だった。
「んー、でもやっぱり能力の使い方ぐらいは知りたいなぁ」
「じゃあ、今日は練習しましょう! どうせ私たちも暇ですし!」
そんなこんなで、この日はリリィが能力を使いこなすまで見守ることとなった。
†
「で、できた~!」
およそ十時間の激闘の末、リリィはついに能力を自由に使いこなすことができるようになった。
昼ご飯もすべてすっ飛ばしたせいで本来なら皆腹ペコのはずだが、不思議とあまりお腹は空いていない。
それは、リリィの能力に秘密があった。
いま、リリィは能力を発動している弊害で、光り輝いている。
そして、その能力で、空腹などの苦しい感覚がかなり緩和されているのだ。
「よし、じゃあやめるね」
そして、リリィは能力の発動をストップする。
するとヒナタたちには強烈な空腹が襲いかかった。
「お腹すいた……そういえばお昼食べてないや……」
気づけば時計がもうすぐ夜の九時になろうとしている。
「それじゃあみんなで夕ご飯食べようか!」
皆が空腹でダウンしているなか、リリィは元気そうだ。
そんなリリィの様子を見て、みなも少しずつ元気が湧いてきた。
ただそのかわりに、リリィの強烈な光を浴びた皆の服が、等しく色落ちしていた。
「あちゃー、皆の服も色がうすくなっちゃった」
それに気づいた皆は、声を揃えて笑う。
(やっぱり、皆でいると楽しいな)
はじめは不安だったが、いまはすっかりこの環境に適応している。
帰りたい気持ちももちろんあるが、それと同時にここの皆とも離れたくないという気持ちもある。
可能ならば、ここの皆で一緒に帰りたい。
そんな気持ちを抱えながら、今日という日を終えるのだった。




