Ep.4
この屋敷に来てから一夜が過ぎた。
「おっはようございまーす!」
牢屋で目が覚めると、目の前に桜色の可愛らしい髪が揺れていた。
サクラは昨日あんなに走ったというのに今日も元気だ。
「おはよう、サクラちゃん。今日はどこに行く?」
「今日は屋敷内の散策をしますよー!」
そう言うやいなや食堂へと駆け出す。
「ちょっとサクラちゃん! 屋内は走らないほうがいいとおもうよ!」
「……たしかにそうですね! ごめんなさい!」
どうやら今日は駆け回らなくて良さそうだ。
ヒナタは胸を撫で下ろす。
サクラは元気いっぱいで人の話を聞かないように思えるが、合理的で正しいことに対しては素直だ。
それについては昨日の散策でよくわかった。
「じゃあまずは朝ごはんですね!」
「そうだね」
そう言って再び食堂へと歩を進めた。
「わぁ! 今日も美味しそうですね!」
食堂についた二人は昨日の夕ご飯を思い出す。
極上の味は、思い出すだけで涎が出てきそうだ。
「私は……これとこれかな」
「ヒナタさんそれだけでいいんですか? 私はこれだけもらっちゃいますけどね!」
ヒナタはトーストとスープというありきたりな選択だが、サクラは山盛りのサラダにフルーツポンチ、そしてプリンという選択だった。
「サクラちゃん……太るよ?」
「むー! 乙女に向かって太るなんて言っちゃいけないんですよ!」
そうは言いつつ、パクパクとお互い料理を口に運ぶ。
やはり昨日の通り、極上の味で天国に来たかのようだ。
「それにしても、この味に慣れるのが怖いなぁ」
「たしかにそうですね! でもここで食べられそうなものはこれ以外ないですし、まぁしょうがないでしょう!」
この味に慣れてしまった時、もしもいつもの生活に戻った日に肥えきった舌がいつもの食事を口にして拒否反応を示さないかが非常に心配だ。
「「ごちそうさまでした」」
二人はきっちりと食べきり、席を立つ。
周囲を見渡せば、自分たちが一番遅かったことに気づく。
「ありゃ、皆さん朝に強いんですね」
「たしかにね。サクラちゃんは元気そうだけど、私はさっきまで眠たかったし」
だが今は美味しい食事をたべて活力がみなぎっている。今なら何でもできそうだ。
「よし、じゃあ早速いきましょうか! まずは一番近いレクリエーションルームから!」
地図を見れば、食堂の隣にレクリエーションルームがある……というわけではない。
最も近いのはラウンジであり、これが意味することは……
「サクラちゃんははしゃぎたいだけでしょ」
「えへ、バレました?」
サクラはどうしても遊びたいようだ。
だがその気持ちを理解できないわけでもない。ヒナタもレクリエーションルームにどんな物があるか楽しみにしているのだ。
「ただそれだけじゃないんですよ、レクリエーションルームには昨日ウミさんが言ってたアレがあると思うんだよね!」
「ああ~、アレか。ちょっと怖いなぁ……」
それは、昨日の夜ウミと話したときに聞いた、例の剣である。
「ま、とりあえず行ってみよう!」
サクラのその一言に押され、ヒナタもレクリエーションルームに向かうのだった。
†
「たのもー!」
「ちょっとサクラちゃん! 恥ずかしいよ!」
レクリエーションルームについた途端、扉をバンッと開け、まるで時代劇のようなセリフをサクラが言った。
「……いらっしゃい」
そして意外にも、その言葉に返答があった。
「あ、えーっと、飛鳥井ケイさんと、桑原ヒビキさんでしたっけ?」
そこでは、ケイとヒビキが将棋を楽しんでいた。
ケイはその赤く長い髪を一つにまとめ、将棋盤に重ならないようにしている。
「どーも、飛鳥井ケイです。こっちの無口なのが……」
「桑原ヒビキよ」
ヒビキは将棋盤を睨んだまま返答する。
黒色の吸い込まれるような髪は、彼女の黒色の衣服と合わさりダークな雰囲気を醸し出している。
「ケイさん、ヒビキさんよろしくお願いします!」
サクラがそう言いながら、ケイの座っている側に座る。
「えっちょっと、何!?」
「ほらほら、ヒナタさんもそっちに座ってくださいよ!」
「え、私も!?」
そしてそこにヒナタも巻き込まれた。
「ヒナタって言ったわね。足引っ張ったら容赦しないから」
そしてヒビキはすでにこのカオスな状況に適応している。完全にヒナタを味方にする気だ。
「こういうのはみんなでやったほうが楽しいですから! やりましょうやりましょう!」
サクラのその言葉に困惑しつつも、ヒナタも将棋盤とにらめっこを始める。
現在はヒナタ目線からすればヒビキが優勢であった。飛車を持ち駒に持っていて、囲いも完成し、角は敵陣に入り込んで成っている。
対してケイとサクラの方は、飛車を取られた上に自陣は角に入りこまれ、一見ボロボロだ。
そうして段々と状況が落ち着き、結果は……
「これで、詰みです!」
サクラの一手により、王の前に金が置かれる。王に逃げ場はなく、その金を取ろうにも遠くから角が睨んでいる。正真正銘、詰みであった。
「……負け……た」
ヒビキが信じられないといった様子でぷるぷるしている。
「も、もう一回やりましょう」
「いいですよ! 何度でも相手します!」
そこからは、ほぼヒビキ対サクラの対決となった。
「いやー、私たちハブかれちゃったね」
「そうですね……」
ケイとヒナタは傍観者だ。
混ざろうにも、サクラとヒビキがバチバチにやり合っているので隙がないのだ。
「じゃあ私たちはオセロでもやってる?」
「そうしようか!」
そうしてケイとヒナタはオセロで勝負することにした。
†
「つ、つよい……」
ヒビキとサクラの勝負は決着がついたようだ。
結果はサクラの圧勝である。
「ふっふっふー! 千年修行して出直してきなさい!」
サクラもご満悦のようだ。
そしてケイとヒナタの勝負は……
「ま、負けた~」
「ぬふふー! 十年修行して出直してきなさい!」
ケイが辛勝した。
「それにしてもこんなに楽しめる場所があるなんて夢にも思いませんでした!」
サクラはどうやらこの場所が気に入ったようだ。
そしてその気持ちはヒナタも同じものであった。
「楽しかったです!」
「楽しかったねー! 私たちは基本いつもここにいるからまたいつでも遊びに来てね!」
気づけばレクリエーションルームの時計は十二時を指していた。もうお昼時だ。
「……また今度」
ヒビキも、悔しい気持ちを隠しながら別れの挨拶をする。
そうして二人はレクリエーションルームを後にした。
「やっぱり楽しい時間はあっという間に過ぎていきますね!」
「サクラちゃんとヒビキちゃんの対戦白熱してたからねぇ……なにか忘れてるような」
サクラはルンルンで食堂に向かっている。それを見るヒナタは、なにか忘れてるような違和感を覚えるが、まぁいいかと気持ちを切り替える。なぜなら食堂にはあの美味しい食事が待っているのだから。
しかし、そんな食堂は何やら騒がしい。
「何かあったんですかね?」
「さぁ……?」
二人は恐る恐る食堂へと入る。
そして彼女らを迎え入れたのは、ウミの困ったような声だった。




