Ep.3
「さて、ではどこにいきましょうか! 地図を見た感じ、庭とか広そうで楽しそうですが!」
「じゃあ庭に行こう。外の空気も吸いたいしね」
ヒナタとサクラは外に出る。その大きな玄関から外に出た瞬間、自然の空気と輝かしい太陽の光が二人を迎えた。
「これはまた……広い庭ですね!」
サクラの言う通り、庭はかなりの広さがあった。木々が生い茂り、平原では草花が揺れている。目を凝らしてみれば、遠くに湖と流れる川があるのも見えるだろう。
「すっごい……」
ヒナタもあまりの大きさに言葉を失っている。
ふと振り返れば、いままで自分たちが過ごした場所も目に入った。
そこは大きな屋敷だった。
おそらくは二階建てで、自身は地下一階から上がってきてリビングにたどり着いたのだろうと理解する。
「ヒナタさん! せっかくですし競争でもしませんか?」
隣を見れば、大きな庭にその茶色の瞳を輝かせたサクラの姿があった。
「えっと、競争?」
「そうです! ここから、あそこに見える大きな木まで!」
指を刺された方向を見たら、たしかに特徴的で大きな木がそびえ立っていた。
「ではいきますよ! よーい……スタート!」
「ちょっと! サクラちゃーん!」
サクラの合図で競争が開始された。ロケットスタートに成功したサクラは、そのまま先頭を走る。
その桜色の髪の毛が、走るたびにふわふわと舞う。
後に続くように、ヒナタも駆け出した。
「あはは! おそいですよヒナタさん!」
「それは、はぁ……サクラちゃんが……フライングを……」
ヒナタがサクラに追いついた時、サクラはすでに遠くから見えた木のそばにいた。
「いやーそれにしても広いですね! あの塀までが庭とすると500メートルはまだありそうです!」
サクラの言う通り、遠くには石でできた塀が見える。苔やツタに覆われてはいるが、ここから逃さないという意思を感じるような威圧感を感じる。
「よし、じゃあ次は湖の方向に向かいましょう!」
「ちょ、ちょっとまってよ~!」
サクラは少しの休憩の後、再び駆け出す。その体力はどこから湧き出てくるのか。
「おお~、これはまた綺麗な景色ですね!」
湖に着くと、その絶景に心が引き寄せられる。
美しく雄大な自然は、二人を包むように全方位に存在している。
「わぁ、この花小さくて可愛い……」
ヒナタが見つけたのは、湖の湿地部分に生えていた、小さく白い花が密集してできた花だった。
「可愛らしいですね~。ドクゼリと言って、触るだけでも色々危険なやばいやつですね!」
「ええ!?」
ヒナタはその言葉に思わず後退りする。
「そ、そういうことは早く言ってよ~」
「すみません! まぁピンポイントでそれに近寄るとは私も驚きました! 自殺願望でもあるのかと!」
サクラも、笑いながら謝る。一種のじゃれ合いのようであった。
「さぁ、時間がありません! どんどん行きますよ!」
「え、もうちょっと休憩を……って、まって~」
再びサクラは走り出す。次は森に行くようだ。ヒナタも必死になってついていく。しかし、サクラの有り余る体力には勝てなかった。
ヒナタはへとへとになりながらも、サクラのことが気に入っていた。元気で明るく、こんな場でも笑顔で過ごす。
一種の心の支えのようになっていたのだ。
†
「ふぅ、いやーそれにしても広かったですね! 全部回るのに丸一日かかるとは!」
「お腹……すいた……」
ヒナタとサクラは一日中庭を駆け回っていた。森や平原、湖に川。あまりの広さに、そのすべてを回るのに丸一日かかっていた。
気づけば日は沈みかけており、その庭も闇に包まれつつある。
それだけ時間が経てば、ヒナタの空腹が限界を迎えることは仕方がないことだった。
「確かにお腹すきましたね! では食堂にいきましょうか!」
スマホの地図を見ると、どうやら二階に食堂があるようだ。
日が沈む前に館へ戻り、食堂へと向かう。
食堂についた頃、すでに多くの少女がそこでご飯を食べていた。
そしてやはりと言うべきか何と言うべきか、グループが既に分かれていた。
食堂の中央では堂々と山田ウミや南リリィを含む五人が仲良く食べている。
そしてそこから端の方へ目を移していくと、飛鳥井ケイと桑原ヒビキがそろって一緒に食べている。
隅では、清水キヨのことを介抱しながら食事を進める橘ヒカリの様子があった。
そして、そのどこにも属すことなく、狩谷ユイが黙々と一人で食事を進めていた。
そして残った一人……鳴神アズキはまだ食堂には来ていないようだ。
「私たちも食べましょう! 見た感じ、すでに作られたメニューから自分で選んで取るみたいですね!」
「まるでバイキングみたいだね」
その料理は一体誰がどこで作っているのか、一瞬そんなことも考えはしたが、その考えが吹き飛ぶほどに鼻を突き抜ける食事の匂いに、二人は我慢できずに手早く食事の支度を済ませる。
「「いただきます」」
そう言うやいなや、目の前の食材にかぶりつく。ヒナタはスパゲッティをメインに、サクラは白米を中心に。
そして二人は、そのあまりの美味しさに極上の気持ちを感じる。
一品一品が、三ツ星シェフによって丹精込めて作られた料理のような味わい深さを引き出している。
舌を走るその食感は、今まで食べたことのないほど最上級のものであった。
味、食感、そして香り。全てにおいて、彼女たちの人生で最高の一品であった。
「はぁ~~~! おいしかった!」
「だねー!」
いつの間にか、ヒナタもサクラも食べ終わっていた。
「やぁやぁ、ヒナタ君にサクラ君。こうやって話すのは初めまして、かな?」
そんな二人に親しげに声を掛ける者がいた。山田ウミだ。
「えっと、ウミさんですよね?」
「ああ、覚えてくれて嬉しいよ」
黄金色の美しく短い髪が彼女の頭の動きに合わせて揺れる。
金の刺繍が入った服は、彼女をより美しく見せている。
「なんの用ですか?」
「用、といえば用かもしれないね。君たちにも話しておかなくてはと思ってね」
そう言って彼女は懐から何かを取り出す。
「これは……!」
「……興味深いですね」
ヒナタは驚き、サクラは興味を示す。
「そう、これは剣だよ。レクリエーションルームにおいてあった。しっかりと物も切れる。それにここを見てくれ」
そう言って剣の刃に刻まれた文字を見せる。
「『XI』……このギリシャ数字はタロットカードで言えば『正義』にあたる。つまりはおそらく私のものだ。そして他にも多くの刃物があったが、そのほぼ全てに何らかの数字が刻まれていた」
そういってスマホから写真を見せてくる。そこには、多くの剣が鞘に収められている様子が映し出されていた。
「ほぼ全て……つまりは刻まれてないものもあったってことですよね!」
「あ、ああ。そうだ。一本だけなんの数字も刻まれていないものがあったな」
そういって別の写真を見せてくる。そこには、確かにウミの剣に数字が刻まれていた場所に、何も刻まれていない物があった。
「なるほど、つまりこれは私のものってことですね! 私は『愚者』、つまりは0番目のカードなんですよ。つまりはそういうことです!」
「……なるほど、確かにサクラ君の言う通りだね。ギリシャ数字に0は存在していない。つまりは何も書かれていないことこそが答えだったというわけだ」
二人してウンウンと頷いている。
対して、タロットカードの知識がほとんどないヒナタにとってはなんのこっちゃだ。
「んもう! 何もわかんなーい!」
そう叫ぶヒナタに、サクラとウミが丁寧にタロットについて教える。
「なるほどなるほど、『塔』のカードは16番目、意味するのは……突然の崩壊!?」
いかにも悪そうなイメージにヒナタは頭を抱える。そんな彼女にウミが優しく言葉を投げかける。
「そんなに悲観しなくてもいいんだよ。言い方を変えれば新たな始まりの前兆さ。結局は君の受け取り方次第だからね」
そう言われてたしかにとヒナタは納得する。
この場所に来て今までのことがすべて壊れたかのようだった。
しかしサクラと出会い、ウミと出会い、これからいろんな子とも仲良くできるだろう。
別に悪いことばかりじゃない。悪いことしか受けとらなければ、どれだけ恵まれていてもその恵みに気づけないものだから。
「そうだね、私頑張るよ!」
「ええ! 一緒に頑張っていきましょう!」
何を頑張るのか、そんなことはどうだっていい。いまはとにかく、この環境で新たな出会いを願って。
そんな気持ちで、今日という日の終りを迎えるのであった。




