Ep.2
「ふむ、合計で十三人か。先程も言ったが、私の名前は山田ウミ。良ければだが、皆の名前も聞かせてほしい」
リビングには巨大なテーブルと、それを囲むように十三の椅子が並んでいた。どちらかといえばダイニングルームにも見える。
大きな窓にはそれ相応の大きさの少し古びたカーテンが掛かっており、隙間から太陽の光が差し込んでいる。
そこに十三人の少女が座る。皆それぞれの風貌をしているが、ただ一つ共通していることといえば、スマホをその手に握っていた。
その中のひとり、ウミが席を立ち、皆に問う。
黄金色の眩しい髪が、動くたびに揺れている。
金の刺繍が入った白い服は、彼女の立ち振舞いをより美しくしていた。
そしてそのウミの問いかけに、真っ先に答える人間がいた。
「はいはーい! 私の名前は楠サクラ。サクラちゃんって呼んでね! 『愚者』のカードに選ばれてまーす!」
すぐ隣に座っているサクラが真っ先に名乗り出る。
そしてその明るく元気な様子は、この場の緊張を解すのには十分であった。
「ええっと……私の名前は…………」
そういって次々と少女が名乗りを上げる。
サクラのように元気な者、逆に萎縮してしまっている者、反応は様々であった。
「最後に、君の名前は?」
「……あ! えっと、私は柊ヒナタっていいます。『塔』に選ばれました。よろしくお願いします」
話題に入るタイミングがなく、結局最後になってしまった。
だがこれにより、ここにいる少女十三人の自己紹介が終わった。
「さて、では早速お互い知っている情報を話し合っていこう」
ウミが仕切る。これに関してはとてもありがたいことだ。おそらくウミのようなまとめ役がいなければ、すでにバラバラになっていてもおかしくない空気感だ。
「知っている情報……さっきのクモ? が言っていたことが全てではなくて? ……ええと、なんでしたっけ」
そう切り出したのは橘ヒカリ。『死神』のカードに選ばれた少女だ。茶色の長い髪とエメラルドグリーンの目が特徴的である。彼女が言うには総合格闘技の経験があるらしい。頼りになりそうだ。
「ああ、確かにその確認もしなければならないな。先程クモが言っていた情報……カードに選ばれた存在、それに殺人事件……か」
殺人事件、その言葉に少女たちの顔が強張る。
「さすがに殺人事件なんて起きないと思いますけどね……」
ヒカリのその言葉にウミは頷く。
他の少女も、よくよく考えてみれば、殺人事件なんて起きないという結論にたどり着く。
「だって、ねぇ? ここにいる子はみんな昨日まで普通に暮らしていただけで……あ、まさか誰か現在進行系で刑務所に……なんてこともないか」
そもそも刑務所にいた人間がなんの前触れもなくこんなところに来るだろうか。
……あるかもしれない。
「ねーねー、そんなことよりさ、どうやったらここから帰してもらえるのかな?」
そう発言したのは、飛鳥井ケイ。『恋人』のカードに選ばれた少女だ。
彼女は自身の赤い髪を少々乱暴にかきあげる。
赤と黒の衣服は、どこかかっこよさを醸し出していた。
そんな彼女は気だるげに質問を投げかけた。
「それについては私からお教えしましょう!」
その発言に答えたのはサクラだった。
「私もそれが気になって、いくつかクモさんに質問したんですよね。ただそれによるとクモさんは私たちを帰すつもりは無さそうでした!」
「ちょまちなよ。なんで君がそんな事知ってるの?」
「あれ、気づきませんでした? このメール機能、送ってきた相手に返信することができるんですよ!」
そういってスマホのメールの画面を見せつける。
そこには先程のクモからのメールに対し、返信でマシンガンのように質問が浴びせられていた。
その中の一つ、『どうしたら私たちは帰ることができますか?』という質問に対し、こう返信されていた。
『帰すつもりはありません。帰ることもできません。理解したならば仲良く慎ましく、この屋敷で生活してくださいね』
意味を違えようがない、はっきりとした答え。
少なくともクモは、ここから帰すつもりはなさそうであった。
「……冗談、ってわけでもなさそうだね」
ウミもそのメールを見て言葉を失っているようだ。どこかできっと帰れるかもという希望を持っていたのだろう。しかしここまではっきりと言われてしまえば諦めるしかない。
「私は諦めないかんね……」
ケイがボソリと呟く。しかしそのつぶやきは誰にも聞かれることはなく虚空へと消えていった。
「あ、ちなみにこのスマホ案外ポンコツで、電話は多分ここにいる人にしか繋がらない上、時計やアラームといった機能も一切ないんですよね!」
「ポンコツすぎんだろ!」
思わずツッコミを入れてしまったのは、南リリィ。『星』のカードに選ばれた少女だ。
金色の髪がツッコミに合わせて激しく揺れる。
青と白の美しい刺繍が入ったその服からは、どこかのお嬢様かのような雰囲気があった。
ちなみに、牢屋でヒナタが聞いたあの泣き声は彼女のものだ。よくよく見れば、彼女の頬に涙の跡がある。
「時計もアラームも……よくよく見たら検索も地図もないじゃんか! どこのスマホだよ!」
このスマホには必要最低限ですらないレベルの機能しかないようだ。
おそらくは外部とのあらゆるつながりを断つためだろう。
「私の愛しのiPh◯neが……」
リリィが泣き言を吐く。
「ま、まぁとにかく、一旦この場所についてしらべないか?」
話を変えるためにウミがそう切り出す。
「たしかにその必要はありますね! このスマホの地図だけじゃわからないところが多いですし!」
そこにサクラも賛同する。
一人の賛成者が現ればあとは早い。他の少女たちも賛成していく。
「よし、では今日は皆でこの場所を散策しよう」
そうしてウミがまとめ上げ、結論が定まった。
こうして少女たちの共同生活がはじまった。
誰が、なんの目的で作ったかわからないこの場所で。
大きな食堂においしそうな食材。日当たりの良いテラスや、塀に囲まれた大きな大きな庭。医務室やレクリエーションルームまで完備されている。
一見すれば無期限の宿泊旅行とも言えるかもしれない。
しかし、それにしては空気が冷たい。嫌な悪寒がする。
ヒナタは胸の内の小さなざわめきが取れないでいた。
「ヒナタさんどうしたんですか? 行きましょう! 探検に!」
「う、うん!」
まぁいいかと、そのざわめきを気にしないことにする。
いまはできた友達を大切にしなければならない。せっかくの機会なのだから、少しは楽しんだほうがいい。
家族のことなど心配なことは多くあるが、今はとにかく目の前のことに全力を尽くそう。そうするしかない。
ヒナタはひっそりと、そう心に誓った。
登場人物のまとめは後に公開します




