Ep.17
「…………さーん、おき………さーい」
ヒナタの耳に声が届く。
目をこすりながら身を起こすと、目の前に桜色の髪の毛の少女が立っていた。
「ほら、早く起きないと、学校に遅れますよ?」
そうだ、学校に行かなければ。
ただ、なんだか嫌な夢を見ていた気分だ。
「それじゃあ行きましょう!」
準備ができたところで、サクラが声をかける。
ただ、すでに時間はあきらかに遅刻の時間だ。サクラも一人で行けば、遅刻しなくて済んだのに。
「へへ、罰を受けるときはいっしょですよ!」
そういって堂々と校舎へはいる。その様子はいつものサクラだ。
「あ、おそいぞ! 私よりも遅いって相当遅いぞ~!」
そう声をかけてくるのは、ケイだ。その鮮やかとも言える赤い髪は、毎年染めてこいと言われているが、ガン無視しているらしい。
「おはよう……」
更にその横にかくれるようにアズキが立っていた。普段は誰ともかかわらないが、数人だけに心をひらいている。
「おはよう……あ、そうだ私たちは遅刻してるんでした! 早く職員室に行きますよ!」
サクラに言われて、すぐに職員室へと向かう。遅刻した際は職員室で遅刻者カードを貰わなければならない。
「はぁ、ヒナタ君にサクラ君、これで何度目だ?」
遅刻者カードを渡しに来たのは、ウミ先生だ。新任でありながら、その凛々しい姿はベテランの先生の目標にもなってしまう。
「まぁまぁ、生徒にはやさしく、ね?」
ウミ先生と一緒に出てきたのは、ヒカリ先生だ。
(あれ……)
ヒナタは一瞬だけ違和感を持つ。しかし、その違和感はすぐに流れ去ってしまった。
「……おはよう、おばか姉妹」
「姉妹じゃないですー! 同棲してるだけですー!」
ヒナタとサクラに声をかけたのは、ヒビキだ。同じクラスだが、彼女は私たちと違い優等生であった。
「同棲って……まぁいいのかな」
「大丈夫でしょ」
そんな三人に声をかけるのはリリィとマコトだ。
(なんか……おかしい?)
再びヒナタのなかで生まれる違和感。
「あれ、私たち、どこで出会ったんだっけ?」
「そんなの決まってるでしょ。※※※※※よ」
うまく聞き取れない。
「だから※※※※※だって。もう忘れたの?」
「※※で※※※※※※※※しましたね!」
「※※※※※※だった」
「※※※※※※※※※※※※※※※」
段々と何も聞こ取れなくなっていく。
(あれ? なんだろう)
ふと、ヒナタは小さな小さな亀裂を見つけた。
その亀裂は、段々と大きくなっていく。
(……! 逃げて!)
なにか危ない気配を感じ、皆に逃げてと叫ぶ。しかし、その声を聞いている存在は誰一人としていなかった。
やがて、亀裂は人を飲み込んだ。
リリィが亀裂へ飲み込まれる。
(やめて……)
亀裂はどんどん大きくなってゆく。
そして、その亀裂はやがてヒカリをも飲み込む。
(やめて……!)
やがて己すらもその亀裂に飲み込まれた。
耳に残るのは、二人の亀裂に飲み込まれる瞬間の絶叫。
「……めてぇぇぇ!」
ガバっと大きく体を起こす。
「あいたー! ちょっとヒナタさん、突然なにするんですか!」
額を抑えたサクラが、ヒナタに文句を言う。
「あれ……」
そういわれて、ヒナタも自分の額がじんじんと痛むことに気づいた。
「……いたーい」
「こっちのセリフですよ!」
見渡せば、サクラ以外にアズキとユイ、そしてキヨの姿があった。
「ヒナタちゃん、大丈夫?」
キヨが心配そうにこちらを見ている。
「私の心配はしてくれないんですかー!」
サクラが文句を言うが、すでにサクラにはアズキが駆け寄っていた。
「それにしてもヒナタさぁ、なんか悪い夢でも見てた? すっごいうなされてたけど」
「うーん、そうかもしれない」
ユイが心配してくれる。
夢の内容だが、何も思い出せなかった。
「むぅ、まぁ元気そうなので良しとしましょう。びっくりしましたよ。昨日の夜、突然キヨさんから、ヒナタさんが自分のベッドに潜り込んできた、なんてメールきちゃって、驚きましたよ」
「あれ、そうだったかな……ごめんね、キヨちゃん」
昨日の夜のことを思い出そうとしたが何も思い出せなかった。
「……大丈夫。ちょっとだけ、嬉しかった」
キヨは少し顔が赤くなりながらもそう答える。
「ん? キヨさん熱出してますか?」
「だしてない」
サクラがその様子からキヨに声を掛けるが、キヨは食い気味に否定する。
「まぁ、ボクとしてもヒナタが元気そうで良かったよ」
「そういえば、なんでユイちゃんたちが一緒なの?」
いつもならばサクラとアズキだけだ。しかし今日は、ユイとキヨが一緒にいた。
「ああ、それなんですけど、今日は二階の物置部屋に行こうという話になりまして!」
なんでも、サクラの脳内では、物置部屋にはきっとラジコンがある! 気がする!
となってしまい、そのままアズキを連れて行こうとしたところ、偶然キヨとユイにも出会いそのまま行動を共にしているとのことだった。
「それじゃあヒナタさんも元気そうですし、行きましょう!」
その時ヒナタは、自身のスマホにあらたなメールが来ていることに気づいた。
クモからのようだ。
『あまり、牢屋以外で寝ることはしないでくださいね』
たったそれだけだが、ヒナタは深く反省する。
そうして五人は物置部屋へと向かうのだった。




