Ep.16
ウミ主催で始まった『激戦! 大富豪最強決定戦!』は、ついに決勝トーナメントまで進んだ。
決勝まで残ったのは、ユイ、ヒビキ、サクラ、そしてキヨである。
「前のビリヤードのリベンジ、させてもらうよ!」
「私も、将棋で負けたあの時の雪辱……晴らさせてもらうわ!」
特に、ユイとヒビキがサクラに対しライバル心を燃やしている。
「ふふふー、望むところです!」
サクラもやる気いっぱいだ。
「……私も、負けない」
キヨもはじめは乗り気ではなかったものの、今はすでに空気に馴染んでいる。
「それじゃあ、行くよ!」
ユイの一手とともに、決勝トーナメントが始まった。
†
「ぐぬぬぅ」
苦しそうな声を出しているのはサクラである。
すでに、戦いから三十分が経過していた。
始まりはサクラが優勢であり、だれも手が出せなかったが、中盤からユイとヒビキが追いつく。キヨもなんとか食らいつくが、最もカードの枚数が多い。
「あ、これ……」
ふと、キヨがそう呟いた。
皆の視線がキヨに集まる。
「こうして、こうして……」
キヨは連続でカードを出していく。8や、A,2などの高カードもだしていく。
そして……
「これで……あがり!」
そしてそのまま最後の一枚もキヨが出す。この瞬間、キヨの勝利が確定した。
「勝者、キヨ選手!!」
ウミが高らかと宣言する。
同時に、周りで固唾をのんで見守っていた少女たちも沸き立つ。
「勝った……の……?」
キヨは、自分が勝ったという実感がなかった。勝利へのルートが見えた時、失敗しないように考えることばかり考えていた。
しかし、少しずつ実感が湧いてくる。
自分が、勝ったのだと。
「いやー、負けちゃいましたね!」
「くやしー……」
「……思わぬ伏兵」
サクラとユイ、ヒビキも思い思いの感想を抱く。
「それではキヨ選手に、優勝インタビューしていきたいと思います! キヨ選手、今の気持ちを率直に言えば……?」
「え……っと、その、……うれしい、です」
「ありがとうございます!」
キヨの率直な感想に、ウミがその場を盛り上げる。
「おめでとう! キヨちゃん!」
ヒナタも、キヨに駆け寄る。
「ヒナタちゃん、あのね、私、とっても楽しかった!」
キヨはにこっと笑う。紺色がかった長い髪が、大きく揺れる。それは、いままで医務室で倒れていた時には想像もつかない、可愛らしい笑顔だった。
「それはよかった! 感謝は、ウミちゃんとサクラちゃんに伝えてあげてね!」
実際、主催はウミであり、キヨを強引にでも誘ったのはサクラだ。ヒナタは何もしていない。
「うん、わかっ……た……」
「っ! キヨちゃん!」
突然、キヨが倒れた。
「どうしたんだい!?」
異変に気づいたウミが駆け寄る。
「キヨちゃんが、キヨちゃんが……!」
ヒナタは突然の状況に目に涙を浮かべている。
ウミは、すぐにキヨの額へ手を当てる
「……すぐに医務室へ運ぼう。あと解熱剤も。すこし熱があるようだ」
キヨは、レクリエーションルームの熱気に当てられて少し熱を出していた。
「サクラちゃん、手伝って!」
「はいはーい! 私の出番ですね!」
ヒナタはすぐさまサクラを呼ぶ。しかし、すでにその必要はないレベルで状況は整っていた。
「よいしょ!」
ウミがリーダーシップを取る中、ヒナタとサクラがキヨを抱え、アズキとルゥが道の確保をしている。ケイとヒビキはすでにレクリエーションルームを後にしている。ユイとノノミ、マコトは部屋の後片付けをしていた。
「これ! とりあえず清潔な水とタオル!」
医務室についた頃、ちょうどケイとヒビキが水とタオルを持ってきていた。
濡れたタオルを固く絞り、横になったキヨの額へと乗せる
「これで、大丈夫だろう」
素早い処置のおかげで、キヨの呼吸は安定している。
「キヨ君はあまりああいう場に慣れていなさそうだったね……」
「私も、無理に連れ出して申し訳ないです……」
珍しく、サクラが気を落としていた。
「サクラちゃん、元気だして。キヨちゃんは楽しんでたんだよ? それに、キヨちゃんが起きた時にサクラちゃんの元気がなかったら、キヨちゃんまで元気なくしちゃう」
ヒナタは、そんなサクラへ声を掛ける。その言葉は、サクラを元気づけるには十分であった。
「たしかにそうですね!」
サクラの元気も回復した。キヨの状態も安定した。少女たちの奮闘により、アクシデントは無事に突破できたのだ。
「私とサクラちゃんは一緒にキヨちゃんのことを見守ります」
ヒナタがそう宣言する。サクラもその言葉に頷いていた。
「私も残ります」
「ボクも!」
そこに、アズキとユイも賛成した。
「ふふ、それなら私は必要ないかな? それでは諸君。楽しんでくれたかな? またいつか第二回を執り行うから、楽しみにしておいてくれ!」
ウミがそう締めくくる。
かくして、少女たちによる『激戦! 大富豪最強決定戦!』は幕を閉じた。
†
(あれ、眠っちゃってた?)
ヒナタが目を覚ますと、すでにまわりには誰もいなかった。
サクラもアズキも、ユイもキヨも。
あたりを見渡すと、窓の外はすでに夜であることを示している。
(みんな牢屋に帰っちゃったのかな。キヨちゃんも、大丈夫かな……)
寝起きの、薄らぼんやりとした思考でそんな事を考える。
(今日はここで寝ちゃおうかな……)
牢屋の布団はすばらしい肌触りで、快眠を届けてくれるが、医務室のベッドも負けてはいないだろう。
(クモに怒られても……まぁいいや)
そうして、ヒナタは医務室のベッドで意識を手放した。




