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少女は運命に殺された  作者: Philia
Chapter1
15/19

Ep.13

 リリィが犯行を認めた。

 裁判所は重い空気が流れる。

 リリィはぽつりぽつりと事件の真相を話しだした。


「あれは……必要なことだった……」



 †



 今日もリリィはいつも通り、マコトとともに過ごしていた。

 そんなマコトだが、今日は眠いようで早いうちに牢屋に帰っていった。


(私もそろそろ戻るか……)


 リリィはそのまま牢屋に戻ろうとする。

 しかしその途中、偶然リビングで一人のヒカリを見つけた。


(たしか、『死神』の……)


 その瞬間、リリィの内側を駆け巡ったのは、どす黒い感情。

 死神の人間はどうせ人を殺す。

 悪いカードだ。

 殺される間に殺さなければ。

 そうして気づけばリリィは自身の能力を使い、ヒカリを油断させ、手に持っていた剣で……ヒカリを殺した。


(これは……)


 ヒカリを殺した後、彼女の顔を見た。

 その顔は死ぬ時にはふさわしくない、心地よさそうな顔であった。


(ばれちゃう!)


 その顔を見て焦ったリリィは、そのまま顔を切り刻んだ。

 その時のリリィの、倫理観や罪悪感というものはなかった。


(これでよし)


 顔の状態がわからなくなり、リリィは一安心する。しかし、まだ問題があった。


(カーテンが色褪せちゃったな)


 衝動的に能力を使ったので、思いっきり発動された結果、カーテンが思いっきり色褪せてしまった。


(全く、どういうからくりなんだか。たしか二階に物置部屋があったよね。代わりがあるといいけど)


 そのときのリリィは人を殺した直後だというのに、恐ろしく冷静だった。

 早く証拠を隠さなきゃ、という気持ちが先行していた。


(お、あったあった)


 物置部屋で求めていたものを見つけると、それでカーテンを交換する。


(あー、でもこのままだと明日の朝にバレちゃうな)


 リリィは、このまま行けばいちばん最後に帰った自分が怪しまれることを自覚していた。

 だからこそ、ここから偽装を始める。

 まずは牢屋に戻る。そしてそこで、全員が牢屋にいることを確認し、『星』の能力で安らぎを与える。

『星』を使えば殆どの場合次の日に寝坊することは過去にこっそり使った経験からわかっていた。

 そして、自身の部屋の色褪せてしまったカーテンとシーツをヒカリのものと入れ替え、そしてヒカリの部屋に残された色褪せたカーテンとシーツをヒカリの死体から流れ出る血に吸わせ、ヒカリの部屋に持っていく。

 カーテンはヒカリの直ぐ側に。シーツは血を染み込ませたまま、ヒカリの部屋に。

 これで、あたかも

『牢屋で寝ている時に瀕死の重傷をおわせられた後、最後の力を振り絞ってリビングに行ったが力尽きてしまった』

 という筋書きができるはずだった。



 †



「でもまさか、私の部屋まで写真に残してるなんて、あんたプライバシーって言葉知ってるの?」

「うーん、知らないかもしれません!」


 リリィの言葉に、サクラは飄々した様子で答える。


「リリィ、貴方に罪悪感はないの?」


 マコトの問い。それに、リリィはあっけからんと答えた。


「罪悪感? なんで? 私が? 『死神』を殺してあげたのに?」

「人を……殺したんだぞ!」


 マコトが我慢出来ないと言った様子で叫ぶ。


「だから、私が殺したのは『死神』だって。理解してくれませんか?」


 リリィにマコトの言葉は響かない。

 なぜなら彼女は最初から、ここにいる少女をカードの運命としか見ていなかったからだ。


「『死神』を殺して皆を救った私より、『星』の私を処刑させようとしてるサクラって人のほうが十分殺人鬼の資格あるんじゃないですかー?」


 リリィは本当に自分が悪いことをしたという自覚はなく、皆を救ってあげたという認識のようだった。


「最初は処刑されるのが嫌で抵抗してましたけど、よく考えてみれば皆を救った私が処刑されるなんてありえないよね!」


 その様子に、リリィ以外の少女は悪寒が走る。

 その笑顔の裏に隠れた躊躇のなさ。

 自分が信じていることへの盲信。

 それは、彼女に対する評価を落とすのに十分すぎるものであった。

 そしてその直後、クモの声が響き渡る。


『たった今、投票が終わりました。投票結果を公開しますね


 ・南リリィ 11票

 ・楠サクラ 1票


 というわけで、今回処刑されていただくのは、南リリィさんです』


「なん……で……なんでなんでなんでなんでなんで!」


 リリィが発狂したかのように叫ぶ。


「私は皆を救った! 私は悪いことはしていない! なんで! なんで私なの!」


 しかし、その言葉はもはや誰の心にも届かない。

 最も親しかったマコトの心にも、届かない。

 そうしていると、中央に机とその上に乗っている四つのカードの束が現れた。


『さて、南リリィさん、中央のカードをそれぞれの山から一枚ずつ引いてください』


 リリィは発狂しつつも、不思議と言われたとおりに中央へ進む。

 そして、四枚のカードを引いた。


『さて、ではこれから運命の処刑方法を決めます。今引いていただいた四枚のカード……各スートの小アルカナと、あなた達以外の残りの大アルカナを混ぜ、引いていただいた運命に沿った処刑をさせていただきます』


 リリィは、先程まであんなに発狂していたのに、クモの声が響いてからは不思議と大人しくなっている。

 そして、再び現れた一つのカードの束。

 リリィは一番上のカードをめくる。


『結果は……IV.皇帝。いい運命ですね』


 クモの声が響いた直後、机もカードも消える。

 そして、強大な光に皆が視力を奪われる。

 視力が戻り、皆が目を開くと、そこには禍々しいギロチンが3つ、リリィを囲むように置かれていた。


「これは……」


 そこにいる全員が息を呑む。ここにいる誰しもが、それの使い道を知っているからだ。


「やだ……やだ、やだやだやだやだやだ!」


 リリィが咄嗟に逃げ出そうとする。しかし、その行動は成功することがなかった。

 ギロチンの拘束具が、まるでリリィを狙ったかのようにリリィを捉える。

 首、そして、その両手に3つのギロチンの刃がセットされた。


「なんで私なの……なんでなんでなんで!」


 リリィも必死に抵抗するが、ギロチンの拘束具はびくともしない。


『それでは処刑……執行です』


 その一言とともに、ギロチンの刃がスッと落ちてくる……というわけではなかった。

 ギロチンの刃は、そこにいた少女たちの期待を裏切るように、ゆっくりと落下していく。

 ゆっくりと、ゆっくりと、少しずつリリィに恐怖が迫っていく。


「嫌、嫌! やめて!」


 リリィの絶叫が裁判所に響き渡る。しかしギロチンは無情にも、リリィの首と両手に迫っている。

 そして……ギロチンの刃が、リリィの首と両手を捉えた。


「あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 痛い痛い痛い痛い痛い!!!」


 リリィの首と両手からは鮮やかな鮮血が流れ出る。時間が経つほどにその量は増えてゆく。


「あ、ああぁぁ……」


 リリィの声がだんだんと弱々しくなっていく。

 そしてどうだろう、一分は経っただろうか。

 ついにリリィの首と両手が……胴と別れた。


「……」


 もう、リリィの口からはなんの声も聞こえない。

 先程までの絶叫が嘘のように静かになった。

 リリィの両手からは、血が吹き出している。

 その姿はまるで、少女が大地へと血を注ぐかのようだった。


「終わった……のか……」


 ウミが呟く。

 先程の凄惨な光景をみて、口を開けただけ彼女の精神力は強いと言えるだろう。

 ほとんどの少女は、口を抑え、涙目になりながらその光景から目を逸らしている。


「なにか……おかしい……」


 やっと終わったのかと、アズキが顔を上げる。

 そんな彼女の目に写ったのは、想像もつかない光景だった。


「……っ!」


 ウミもその光景を目にする。その光景はウミには見覚えがあった。

 いや、ウミを含む数人には見覚えがあった。

 それは、黒いものだった。

 リリィの血が、だんだんと黒いものに変化していく。

 粘着性で、まるでスライムのような黒いものは、リリィの流れ出る血の量に合わせ、どんどん肥大になっていく。

 そしてその体積は、やがて中心を囲むように並んでいる机にまで届くようになっていた。


「ひっ!」


 気づけば少女のすぐ足元までその黒いものが届いていた。

 直後、その黒いものは……少女たちへと飛びかかる。


「うわぁぁぁ!」


 ヒナタが絶叫をあげる。今彼女の目の前には今にも襲いかかってきそうな黒いものがいた。


『そこまでですよ』


 しかし、その黒いものはそれ以上進むことはなかった。

 クモの声と同時に、それはピタリと動くことを止めたのだ。

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