Ep.12
「カーテンといえば、物置部屋にこんなものがあったんだよね」
ユイが写真を見せる。
場所は二階の物置部屋。段ボールのなかの写真だった。
そこには、古びたカーテンが入っていた。その模様は、全員が見たことあるものだ。
「これ、リビングにあったカーテン……だよね」
ユイの言う通り、それはリビングにもともとあったものだ。
しかし、その色はほとんど落ちている。
色が、落ちていた。
「え、え?」
皆の視線が、一斉にリリィへと向けられる。この一週間で、リリィが能力を使うと布などの色が落ちることは皆に知れ渡っていた。
「ヒカリ君を殺した犯人は……リリィ君……なのか?」
「いやいやいやいや、そんなわけ無いじゃん!」
皆の疑いはリリィへと向けられた。
ウミが、代表するかのようにリリィへと問う。
その言葉に対し、あり得ないとばかりにリリィは否定する。
「でも実際色が落ちしたカーテンが変わってるし……」
「はぁ、これ言うと怒られそうだからあんまし言いたくなかったんだけどなぁ……実はカーテンについては私の能力で色が落ちちゃったの。昨日の夜ね。これがクモとかにバレて施設破損だー!って怒られるのが怖くて黙って変えただけ。黙っていたのは素直に謝るわ」
すらすらと色落ちしたカーテンについて話す。
「そもそも、ヒカリが死んだのは今日の朝でしょ? カーテンを変えたのは昨日の夜よ。なにも関わってないじゃない」
「いや、そうとも限らないよ」
リリィの言葉に、ヒナタは素早く反論する。
「殺された場所がリビング出会った以上、ヒカリちゃんが牢屋にいない時間帯……今日の朝だけじゃなくて昨日の夜に殺されたっていう可能性が否定できない」
ヒナタの言うことももっともであった。
牢屋で殺されていたなら、それは十中八九ヒカリが牢屋に戻った後……夜中は牢屋が施錠されるため、朝の皆が寝坊しているタイミングでの犯行であるが、リビングで殺されていたなら、ヒカリは牢屋に戻る前……つまりは昨日の夜に殺されている可能性が浮上するのだ。
「……たしかに。でも、私がやったっていう証拠はなにもないじゃん?」
しかしリリィの言うことももっともである。すべては状況による推測であり、実際にヒカリを殺したという証拠は何も出ていない。
「一つ……確認のための質問いいですか?」
そこで、恐る恐るといった様子でアズキが手を上げた。
「皆さん……というかキヨさん以外は、例の剣を持っているんですよね?」
その言葉に、皆は頷く。
「そうですか、つまり私を含めてキヨさん以外の全員が犯行可能ではある、ということですよね。そこでもう一つ質問なんですが、どなたか昨日最後に牢に戻ってきた人を覚えていませんか?」
アズキの質問は犯人特定につながる一言であった。
牢屋に帰るにはどんなルートでもリビングのある一階を通る必要がある。つまり、リビングで人が死んでいれば、血の匂いなどで気づく可能性がある。それがなかったということは、最後に牢屋に戻った人物がヒカリを殺害し、そのまま牢屋に戻った可能性が高いというわけだ。
「……私が戻った時、すでにケイさんとヒビキさんは、いたはず、です……」
キヨからの証言。直前まで医務室でヒカリとともにいたキヨがアリバイを保証したということは、少なくとも夜にケイとヒビキは犯行が不可能ということだ。
「私はサクラちゃんとアズキちゃんと一緒に戻ったよね。その時にリビングから変な匂いはしなかったよ」
「それは私も同感です!」
つづいて、ヒナタの証言。ヒナタが牢屋に戻った時、リビングに変化はなかった。それは、ともに行動していたサクラとアズキも保証している。
「ふむ、私はルゥ君とノノミ君とレクリエーションルームで行動を共にしていたが、たまたまユイ君とも合流したね。その後に共に牢屋に戻ったはずだよ」
「それにはボクも同じ意見。リビングにも特に違和感はなかったよ」
そしてウミ、ルゥ、ノノミ、ユイは行動を共にしており、強固なアリバイが存在している。
残ったのは、マコトとリリィだけであった。
「ええ、私?」
「……」
疑われた二人は思い思いの反応をする。
「私は昨日ウミと別れた後リリィと一緒にシャワー浴びて……そのあとはリリィと別れて牢屋に戻って……」
マコトが自身の行動を明かすたびに言葉が重くなっていく。
「だから私はリリィを……おいて……」
そこまで言ってマコトは言葉をつまらせる。
その言葉は、まるでリリィが犯人だと裏付けるものだったから。
リリィと特に仲が良かったマコトには、辛い一言であった。
「……でも、別にヒカリが殺されたのが夜だって決まったわけじゃない。そう、結局証拠がないんだよ。私がやったなんて証拠はどこにもない!」
リリィは必死に訴えかける。
「まぁ、たしかにそうですね。結局この話はこれ以上発展できません。ですが私から一つ、質問いいですか?」
サクラは事実を事実と受け止めつつ、続けて質問を投げかける。
「昨日、貴方は能力を使用してカーテンの色が落ちてしまったと言いましたが、なぜカーテンの色が落ちるほど強く能力を使ったのですか?」
サクラの純粋な疑問がリリィに降りかかる。
「それは……」
「あ、もしかして昨日きもちよ~く寝ることができたのはリリィさんのおかげですか! あ~なるほど!」
「そ、そうよ!」
サクラの発言に乗っかり、リリィは言う。
しかし、それはサクラによる巧妙な罠であった。
「あれ~、リリィさん、なら二回目はなんのために能力を使ったんですか?」
「な、なんのことよ」
サクラの問いに、知らないという態度を取るリリィ。しかし、サクラは逃すつもりはなかった。
「貴方の能力……気持ちよ~くなれる代わりに周りの布が色落ちしてしまいますよね。一回目はリビングで使ったんでしょうね。それは色の落ちたカーテンによって証明されました」
「ええ、そうよ。なら二回目はなんなのよ」
「そうですね、この写真を見てもらえばわかりやすいんじゃないでしょうか!」
そういってサクラが見せたのは、牢屋の個々の個室であった。
その中にはもちろん、リリィの部屋のものも含まれる。
「リリィさん、貴方の部屋の布類は色落ちしていましたよね。ならばなぜ、カーテンとシーツは他の部屋と同じ色を保っているんでしょうか?」
「……!」
言われて初めて気づいた。リリィの使う布類は『星』の能力を使いこなせるようになるまでは異常に劣化が早かった。その跡は布団のシーツの色落ちに現れている。
そして、本来なら同じようにカーテンも色が落ちているはずなのだ。その色の落ちたカーテン等は、一週間以上前だが休憩室でリリィと出会ったときに見ていた。
「さて、なんででしょうね?」
「新しいやつと、こ、交換したのよ」
「ふーん、ほーん、へぇ~」
サクラはわざとらしく相槌を打つ。
「つまり、ヒカリさんの部屋のものと交換した、ということでしょうか?」
「……っ!」
サクラの指摘に、リリィは思わず後ずさる。
「総合格闘技の経験者相手でも、油断させて後ろから一突きすれば、貴方でも殺すことはできるでしょう? そうですね、例えば貴方の『星』の能力を使えば。そして、殺した後にもう一度能力を使った。牢屋で私たちが起きないように。その時に自室のカーテンとシーツが色褪せてしまったんでしょうね。あわてて自身の色褪せたカーテンとシーツをヒカリの部屋のものを交換して、色褪せたのがバレないように血でにじませ、犯行場所の偽装までした。という筋書きでしょうか!」
サクラの説明に、リリィは何も言わない。
「リリィ……嘘、だよね?」
マコトが心から嘘であれという気持ちでリリィを見つめる。
しかし、現実は非情であった。
「これ以上あがいても……仕方がないよね……」
リリィが、犯行を認めた。




