Ep.10
各々による調査が始まった。
ヒナタたち三人は、まずは牢屋に行くようだ。
「ふーむ、ここが牢屋の中……血でいっぱいですね!」
血でいっぱいの牢屋は、もちろんヒカリがいた部屋だ。カーテンが無いが、それはおそらく止血に使われたのだろう。
そして布団の上も、大きく血で汚れていた。いまでは血が染み込みすぎて元の色がわからないレベルだ。
それ以外は、特に荒らされた様子のないごく普通の状態だった。
「せっかくここに来ましたし、他の部屋も覗いてしまいましょう!」
「え、ええ……大丈夫かな……」
サクラはそのままヒカリ以外の部屋の写真をパシャパシャと撮っていく。彼女にはプライバシーの概念がないのかもしれない。
「よし、だいたいこんなもんですかね! 次はどこに行きましょう!?」
すべての牢屋の写真を取り終えたサクラは、もうここでの仕事は終えたとばかりに振り返る。
「うーん、次はじゃあリビングに戻ろうか。あそこも写真にとっておかないといけないね」
サクラの様子を見て、写真の大切さに気づく。
「たしかにそうですね! 行きましょう!」
そうしてヒナタとサクラ、アズキの三人はリビングへと戻る。
リビングには、すでに先客がいた。
「おや、ヒナタ君にサクラ君、それにアズキ君じゃないか」
ウミが、ニコッと微笑みかける。アズキがそそくさとサクラの影の隠れる。
「君たちも調査に来たのかい?」
「はい! 先程牢屋を調べ終わったところです!」
そういってスマホの写真を見せつける。その写真のフォルダには、もちろんウミの部屋の様子も写っている。
「全員分の部屋を撮ったのか……」
そうは言いつつも、まじまじと写真を見つめる。
「何が証拠になるかわかりませんからね! 気になるものはすべて記録に残すべきです!」
「たしかにそうだが……全員、特に変わった部屋はないようだが」
ウミの言う通り、特に変わった部屋はない。ところどころ違うが、個人の趣味の範囲内だ。すべてがコピーアンドペーストされたかのような、変わらぬ景色を写していた。
「まぁ、念の為ですよ! ウミさんはここで何してるんです?」
「私も……まぁ調査と言っても差し支えないかな。まずは死体周辺の状況から見なければ、と思ってね」
ウミの言うことも一理ある。
「それじゃあ調査を……と言いたいところですが、明らかに違う場所がありますよね!」
「え、どこどこ?」
サクラはすでにこの部屋の変化に気づいているようだ。しかし、ヒナタには何が変わったのかがわからない。
「これですよ!」
そう言ってサクラが示したのは、リビングの窓を包む真新しいカーテンだった。
「……何か変わったっけ?」
「ええ、新しくなっているんですよ! 初日にウミさんたちと自己紹介した日とは模様が変わっています!」
そう言われてみたらそうかも知れない。
「ふむ、ならばカーテンから指紋を採取して……と思ったが、こんなところに指紋採取とその照合ができる人間はいないな」
ウミの言う通り、もしも指紋の採取、照合ができれば話は早かったかもしれない。だが、ここにはそんなノウハウを持った少女はいなかった。
「うーん、リビングで変わったところといえばそれだけですかね?」
確かに、カーテンが変わっている以外に変化している場所はないようだ。
「次はどこ行きます?」
「……私、医務室に行きたい」
ヒナタは、覚悟を決めた面持ちで答える。
「医務室といえば……キヨさんですね!」
そう、医務室にはおそらくキヨがいる。
もしもヒカリについて知っていることがあれば……というのは二の次だ。
「キヨちゃんが……心配なの」
ここでの生活の中、ヒカリが最も親しかったのはキヨであり、キヨが最も親しかったのはヒカリだ。
「たしかにそうですね! では行きましょう!」
そうして三人は、医務室へと向かう。
そして医務室の中。そこには予想通り、キヨがベッドの上で横たわっていた。
「キヨちゃん……」
ヒナタは、かける言葉を見つけられずにいた。最も親しい人間があんな状態で見つかったのをまじまじと見せつけられて、ショックを受けている人間にかける言葉を見つけるほうが難しい話であった。
「キヨさん、元気だしてください!」
そこへ、明るく声をかける存在がいた。
サクラだ。
持ち前の明るさなのか、この悲壮な空気が読めなかったのか、はたまたわざと空気を壊しにいったのか。
「サクラ……さん……」
キヨが、明らかに疲労をためた声で返事をする。
熱はないようだが、顔は火照り、そうそう気軽に出歩くことはできなさそうだ。
そんなキヨの手をぎゅっと握るものがいた。
アズキだ。
「大丈夫……」
アズキはキヨの手を握って離さない。
「ふむ、仲良さそうですね! アズキさんがいなくなるのはさみしいですが、キヨさんをアズキさんに任せて私たちは調査を続けましょう!」
「……そうだね」
アズキはキヨを励ましている。キヨもそのおかげか、かなり状態が安定している。
そう言って二人はキヨとアズキを残して、医務室を後にする。
そして二人はトイレやシャワールームなどを調べたが、特に変わったところがない。
そして最後に、休憩室へと向かった。
そこには、リリィとマコト、ルゥとノノミがいた。普段ウミと一緒にいるが、今はウミ以外で行動していた。
サクラは、その場所に着くやいなや写真をパシャパシャと撮りまくる。
「ん、なんで休憩室にこんなに人がいるんですか?」
「あ、ああ、サクラにヒナタか」
こちらに気づいたリリィが反応する。
「……偶然皆集まった。ウミがいないと……まとまりがない」
ルゥが呟く。その銀髪は、こころなしか輝きを失っているように見える。普段はウミを頼りにしていたのだろう。しかし、いまウミは傷心中だ。できるだけ一人にさせておいたほうがいいだろう。
「ワタシはみんな一緒のほうがいいと思いますけどね~。安心しますし」
ノノミは、一人でいるよりかはまとまっていたほうがいいと感じている。
「皆さんは、どこか調査した所あるんですか?」
「うん、図書館と牢屋に行ったけど、特に何もなかった。二階はすでにケイとヒビキ、ユイがいたから行ってない」
サクラの質問に、ルゥが答える。
「なるほどなるほど、情報提供感謝です!」
サクラはルゥに感謝を述べる。
「そういえばサクラちゃんたちはどこに行ってたの?」
「私たちですか? 私たちは牢屋とリビング、そしてキヨさんの様子を見に医務室に行ってました!」
逆にノノミに質問されたので、正直にサクラは伝える。
「確かに、一番ヒカリと仲が良かったのはキヨ……だったね」
マコトが言うとおり、ヒカリとキヨは一番仲が良かった。だからこそ、マコトも心配になったのだろう。
そうして時間は過ぎていき、やがで約束の時間になった。
クモからのメールが届く。
『まもなく、裁判が開廷します。みなさん、二階渡り廊下より、裁判所へと向かってください』
それは、裁判が始まろうとしていることを伝えるものだった。
皆、そろって裁判所へと向かう。
キヨも、アズキに支えられながら裁判の席についた。
そこは、大きは部屋だった。
中心を取り囲むように椅子と机が並んでいるのは、どこかリビングを思い出すかもしれない。
その様子はまるで、全員が被疑者であり、全員が検察官であるかのようだった。
そして、その取り囲まれている中央にはなにもない。
あるのは、ポッカリと空いた空間のみ。
しかし突然床が抜け、全方位見えるテレビが現れる。
そこには、クモのイラストが張り出されていた。
『皆さん、揃いましたね。ルールを説明します。あなた達は、ここで議論をしてもらいます。その後、各々のタイミングでお手元のスマホから投票させていただきます。メールのリンクから投票ページには簡単に飛べます。なにか見せたい証拠があれば、あなた達の机にあるコードとスマホを繋いでください。コードを繋いでいる間だけ、この中央のテレビと画面が共有されます。そして、討論の結果最も票を集めた人物が、処刑されます。それでは、橘ヒカリ殺人事件裁判……開廷です』
相変わらずの、ボイチェンのような声が響く。
たった今、裁判が始まった。




