Ep.9
一週間がたった。
その日はよく眠れた。
自身の部屋の時計を見れば、すでに十時を迎えていた。
「寝坊、したなぁ」
ぼんやりとした思いでヒナタは呟く。
日は入ってきていないはずなのに、まるで日光浴をしたかのような気分だ。
とても平和で優しい気持ち。
そんな気持ちは、今日ここで打ち砕かれることとなる。
「きゃあああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁっぁぁ!!!!!」
耳をつんざくような悲鳴が牢屋全体に響く。
その声に驚いた少女たちは飛び起きた。
その中にはもちろん、ヒナタ自身も含まれる。
(なにが……あったんだろう)
尋常ではない悲鳴に、背筋が凍る。嫌な予感が脳裏を駆け巡る。
「ヒナタさーん、起きてますよね? 行きましょう!」
気づけば、牢屋の外では自分のことを呼んでいるサクラがいた。そばにはアズキが控えている。
「う、うん」
軽く支度を済ませて牢から出る。
悲鳴が聞こえたのはすぐ近くだ。
「皆、集まったか……」
すでにウミ含む全員がとある牢屋の前に集合していた。
……いや、一人だけいない。
「あ、あ……あぁ……」
サクラの影でアズキが嗚咽を漏らす。
それも仕方がないことだ。
そこに有った凄惨な状況は、アズキにも……いや、そこにいる全員にとってショックなものであった。
血だ。
血溜まりがそこにはあった。
布団と床、どちらも大きく血が滲みており、一人から出るなら明らかに死ぬレベルの血だ。
そしてそこから血の跡が、一階へと続いていた。
皆は、その血を辿るように一階へ向かう。
血は、リビングへと続いていた。
そして、そこで少女たちは先程の比にならないショックを受ける。
そこにあったのはヒカリの死体だった。
茶色の美しく長い髪は乱れている。
心臓部分に刺されたような傷があり、顔は無惨にも切り刻まれている。
あまりの損傷に、その瞳が、口が、表情が、どうなっているかすらわからなかった。
凶器は残っておらず、おそらく止血しようとしたのか、血で染まったカーテンが床に落ちていた。
「ああぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!」
キヨが大きな声を出して泣いた。
肩が激しく揺れ、全身で泣いていた。
その紺色がかった長い髪が、床の血に触れすこしだけ染まる。
その涙は止まる様子がなく、永遠に続くかのようだった。
そんな中、全員の携帯に通知が入る。
『さて、皆さん揃いましたね。悲しいことに、人がひとり死んでしまいました。悲しいですね。恨めしいですね。ですので、犯人を処刑する裁判を開きます。今が十時なので……そうですね、十四時にしましょうか。時間になれば、皆さん二階から裁判所へと向かってください。その間に犯人を特定する証拠でも見つけておいてください。もしも来なければ……まぁ無理矢理にでも連れてきちゃいますけどね』
クモからのメールだった。
「犯人を……見つける……?」
ウミがつぶやく。
「それってさぁ、つまりこの中に殺人鬼がいる、ってことなんじゃないの?」
「そういうことになりますね!」
ケイの返答に、サクラが反応する。
「君たち……この中に犯人がいると思っているのか!?」
その軽薄な態度に、ウミが声を荒げる。
「いえいえ、客観的事実を述べたケイさんに賛同しただけです! 気を悪くしたならごめんなさい」
「いや……すまない。私も冷静ではなかった」
サクラの謝罪に、ウミも冷静ではなかったと謝罪する。
「とりあえず、一旦情報をまとめよう」
そう言ってウミはその場から立ち去った。おそらくは一人で現状を受け止めようとしていた。
それにつづいて、他の少女たちもその場から去っていく。
「ヒナタさん、アズキさん、私たちはどうしますか?」
サクラは、最後に残ったヒナタとアズキに判断を任せるようだ。
「私も……調査をするよ。こんな事があって、黙っていられない」
「私も同じ気持ちです……」
アズキはこの一週間で随分と打ち解けてくれた。ウミたちとはまだ話したことがないが、この調子で行けばすぐに打ち解けることができるだろう。
「決まりですね! ではまずは情報整理から始めましょう!」
そう言ってサクラはスマホを取り出す。
「サクラちゃん、そのスマホは……」
「これには、メモ帳アプリがありますよね? 実は私、皆さんの能力をメモしてたんです!」
そう言って、誇らしげにスマホを見せてくる。
そこには、各々の選ばれたカードと、この一週間で判明した大まかな能力が記載されていた。
「今回の犯行、総合格闘技経験者のヒカリさんが被害者です。つまりは、普通の私たち程度では返り討ちにあうのがわかっているんですよ。ここからわかるのは、今回の事件はズバリ、能力が一枚噛んでると思います!」
反論の隙がなかった。
たしかにヒカリは総合格闘技経験者だ。ここにいる少女では、ただ殺すことは不可能だろう。
「怪しいものは写真にとって、証拠に残して行きましょう!」
このスマホは検索も何もついていないが、カメラやメモ帳など、事件が起きたときに便利なアプリならしっかり入っているようだ。
ヒナタはスマホを握りしめ、調査を始める……




