Ep.1
(ここは……一体どこ?)
少女は薄暗い部屋で目を覚ます。いや、そこを部屋と呼ぶのは少々憚られるだろう。
なぜならその部屋には扉がなかった。代わりにあったのは、とても太く、誰にも開けられないであろう鉄格子だった。
(え!? 牢屋……だよね?)
あまりの衝撃に声を失う。
それはそうだろう。なぜならばその少女はつい先日まで高校生であり、家で家族と過ごしていた。
あたたかいご飯を食べ、温かい布団にくるまる。そんな生活をしている、ごく普通の高校生だったのだ。
それが目を覚ませば牢屋なのだ。
なぜ牢屋にいるのかなど、疑問は尽きない。それ故、ある意味状況を飲み込むことができた。
「うええぇぇぇぇん! ここどこー!!」
突如、牢屋に大きな泣き声が響く。
よくよく見れば、自分の部屋以外にも多くの牢屋があり、それぞれに少女と同じ程度の年齢と思われる少女たちが収監されていた。
いま大きな声で泣いている少女も、もとは家族とともにいたのだろうか。未だに泣き止む気配がない。
(……? これはなんだろう? って、うわ!)
ふと、クセで自身のポケットを探る。
しかし、自身の身につけていた衣服は、身に覚えのないものへと変わっていた。
それでもゴソゴソとすると、一つのスマホのような端末が入れられていた。
ポケットから取り出すと、それは自動で電源が付いた。
『えー、みなさん。おはようございます。ワタクシ、ここの管理人兼ゲームマスターの”クモ”と申します。以後、お見知り置きを』
そして、電源がつくと同時に一つの動画が流れた。ボイチェンのような声がスマホから響く。が、突然すぎる上、あまりの音量にびっくりしてしまい、スマホを床に落としてしまった。
しかしスマホは丈夫なようで、落としたにも関わらず元気に喋っている。
『本日から皆様には、今日からここで暮らしていただきます。着替えや食事もすべて完備されております。着替えは二日ごと、食事は一週間ごとに更新されます。古い着替えは捨ててしまって構いませんよ。あ、先に断っておきますが、ここから逃げることはできませんよ。あなたたちは選ばれた存在ですからね』
「選ばれた……? それにここで暮らす?」
ここで暮らす……つまりはこの牢屋でということだろうか。
ふと周囲を見渡すと、カーテンが掛かっている。ちらりと外を見ようとしたが、なぜか外の様子を見ることができなかった。
布団や蛍光灯など、ある程度生活できそうなものはあるが、安心感よりも不安が勝つ。
『このスマホには様々な機能がついているので、各自有効活用するように』
スマホを拾い上げるが今は動画が垂れ流しになっているせいでどう頑張ってもその様々な機能とやらが確認できなかった。
『最後に、君たちは運命に選ばれました。各々のスマホに選ばれたカードを送ります。そのカードはきっと皆さんの日常を助けてくれるでしょう。ただし、いずれあなた達はカードに呑まれ、死ぬでしょう。その時までのひと時を、大切に過ごしてくださいね』
それを最後に動画は終了した。巻き戻して再生しようにも、どのような方法で再生されたかが不明なため、色々試したが結局巻き戻すことはできなかった。
(それにしても、選ばれたカード? それにカードに呑まれて死ぬって……どういうことなの)
とりあえず、スマホの電源を付ける。すると今度は動画が流れるのではなく、ホーム画面が写った。
そこには、写真アプリ、メールアプリ、通話アプリ、メモ帳アプリ、そして己の個人情報とおそらくこの建物の間取り図が載っていた。
◇名前:柊 ヒナタ
◇選ばれし大アルカナ:塔
ただ、個人情報と言ってもたったこれだけだ。住所や生年月日などは一切記載されていない。
(多分、この選ばれし大アルカナってのが多分選ばれたカード……ってことだよね?)
ヒナタの選ばれたカードは塔であった。
そしてそれを理解した瞬間、ガチャリと牢屋の鍵が開く。
錠はあるが、それを開いた存在は見当たらなかった。
そしてすぐにメールが届く。
『言い忘れていましたが、あなた達が少しずつカードに呑まれていく過程で、どうにも人死にが出るんですよね。というわけで、もしも殺人事件が起きた場合、裁判を開きます。そこでもし犯人と指名されれば、その場で処刑されてもらいます。まぁ、殺人事件なんて起こさないでくださいね』
そのメールに書いてあったものはとてつもなく不穏な言葉だった。
殺人事件。そんなに長く生きていなくとも、その言葉を聞いたことぐらいはあるだろう。文字通り、人が死ぬのである。
しかも、その原因は少女たち自身とそのカードにあるともいわれた。
(このカード……手放せないのかな……)
手放そうにも、それが実体としてあるわけではないので、手放すことができない。
残念ながら、少女たちにはどうすることもできないのだ。
「全員、よく聞いてくれ!」
悩みにふけっていたが、外から聞こえる声で我に返る。
その声が気になり、牢から顔を出す。
「私の名前は山田ウミ。正義のカードに選ばれた! 情報を整理するために皆で話し合わないか! 私はリビングで待っている!」
山田ウミと名乗った少女は、そのまま奥へと消えていった。スマホの地図をみれば、その先は階段、そしてリビングに続く道だということがわかる。
「わ、私は行くからね! 別に怖いわけじゃないからね!」
この声は先程大泣きしていた少女だ。誰かに何かを伝えるわけでもなく、自分を鼓舞するかのように独り言を吐いてそのままウミの後について行った。
そして、更に一人、また一人のウミの後を追うものが出てくる。おそらくはもうすでにそういう流れなのだろう。
(私も行かなきゃか)
そういってヒナタも牢を出る。相変わらず窓の外には何も写っていないが、小さなカーテンがひっそりとそれを隠していた。
「どうもおはようございますー!」
部屋から出た直後、見知らぬ誰かに後ろから肩を叩かれた。
「えっえっ!?」
びっくりして振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。
桜色の可愛らしい髪に、少しだけ自分より高い背丈。
可愛らしい黒とピンクの入り混じった服は、本人の可憐さを強調している。
そんな彼女の茶色の美しい瞳がまっすぐヒナタのことを見据えていた。
「隣の部屋に住んでいる、楠サクラといいます! サクラちゃんって呼んでね! あなたとは気が合いそうだったので、声をかけさせてもらいました!」
そういって馴れ馴れしく隣に並び立つ。その姿はまるで十年来の付き合いの友人関係のようだ。
「えっと……柊ヒナタといいます。よろしくお願いします……」
「もー。そんなに他人行儀じゃなくてもいいのに! 今日から私たちは友達、ですよ!」
どうやらすでに彼女の中ではヒナタと友達になったようだ。
(強引な子だなぁ)
そうは思うが、別に友達と言われて悪い気はしない。それどころかどこか嬉しい気持ちがある。こんなわけもわからない場所につれてこられて不安だった心が、彼女の明るい会話でかなり解消されたのだ。
「じゃあ、よろしくね。サクラちゃん!」
「ハイ! よろしくお願いしますね!」
そうして、早速友達が一人できたのであった。




