ビー玉
〈かつたるい小春のせゐと轉嫁する 涙次〉
(前回の續き。)
【ⅰ】
ぴゆうちやんの話を聞いたテオ、天神一享博士の許へ、小六を帰した。が、それはテオのミスジャッジだつた。これではまた博士を(小六ごと)誘拐してくれと、「ニュー・タイプ【魔】」逹に誘つてゐるやうなものだ(天神博士は云ふなれば「お飾り」なのだ。彼らにとつて「目玉」は飽くまで小六なのである)。だがそれは上長であるカンテラの責任でもあつた。テオに自由裁量の権限を與へたのは、俺だ。カンテラ一人がその事を重く感じてゐた。
【ⅱ】
じろさん、同僚として、カンテラのそんな心の内を見透かしてゐた。「なに、いざとなつたら*『番軍』出動と云ふ事で、片が付くさ」。だが「番軍」は** 魔界軍に、既に手痛い一敗を喫してゐる。「負け癖が付いてゐなければ良いが-」-カンテラ。じろさん「だがあの時、魔界軍の軍師はドクター・フックだつた。今はだうなつてゐるか知らんが、奴がゐないだけマシだらう?」
* 當該シリーズ第21話參照。
** 當該シリーズ第22話參照。
【ⅲ】
實は今、魔界軍を率いてゐるのは、蘇生した* 果野睦夢だつた。初の女性將軍を擁して、魔界軍の士氣は髙まつてゐた。魔界軍を構成してゐるのは、主に魔界の庶民だ。彼らは「ニュー・タイプ【魔】」逹とは違ひ、皆、刺激となる事なら何でもあり、と喜んで受け容れたのだ。
* 前シリーズ第196話參照。
※※※※
〈現實には鏡開きの日などなく放つて置けぬと鏡餅割る 平手みき〉
【ⅳ】
結果、「番軍」は慘敗。二敗めの苦杯を舐める。天神博士と小六は魔界に連れて行かれ、博士は斬首された。彼は余りにも秘密を知り過ぎてゐた。水晶玉はその事を誇示するかのやうに映し出した。カンテラ、「俺逹の負けだ...」。初めて知る敗北の味を、カンテラ一味は一堂嚙み締めてゐた。責任を痛感したテオ、「兄貴、僕を斬つて下さい」。
【ⅴ】
だがぴゆうちやん、「エ、何デ!? 小六クンハマダ生キテイルヨ!」ぴゆうちやんだけに分かる事實。カンテラ、「かうなりや小六奪還しか、我々に殘された道はない」。ところが小六、「ニュー・タイプ【魔】」逹が目を離した隙に、自分で魔界を脱出して來た。僕はやつぱり野良でゐるべきなんだ- と小六。博士を殺したのは、云ひ替へれば僕なんだ。小六は姿を消した。
【ⅵ】
小六の「お目付け役」、微視佐馬ノ介は処刑された。だがそれは一味の預かり知らぬ事だつた。この話は、事件未解決の儘終はる。何事にも、終はりが見えぬ、と云ふ場合は有り得るものだ。たゞぴゆうちやんだけは嬉しさうだつた。友情とはさう云ふものなのだ。それは戀愛に似てゐた。「何ハトモアレ、小六クンハ生キ延ビタ!」。
【ⅶ】
ぴゆうちやんにとつて、小六と彼との交友は、一生ものである。ぴゆうちやんには、あの日小六に貰つたビー玉が、寶物のやうに思へた...
※※※※
〈暖冬や俺には見える断頭台 涙次〉
何故詩を書く?
小説にかまけた方が身の為だ
それは寶探し
僕の巡歴
きみには理解出來ぬ
事情がある譯さ
月の頃は三日月
一人見上げて
溜め息を吐く
今日一日を賭けるに足る
何かゞ詩にあるか
自問しつゝ明日の
粗筋を考へる
あした、と云ふ日の
ほらまた出來た
死は眞近だと云ふのに
PS: カンテラは意地で動いたが、この世界、それでだうにかなるものではない、とも知つた上での話である。誰からも報酬のない不毛な勞働。カンテラにとつては唾棄すべき事、であつた。




