1ー5 初めての依頼とゴブリン
冒険者は、ギルドからの色々な依頼を受けて仕事をするんだが、危険な仕事は原則として自己責任になっている。
単純な話では、魔物の討伐に当たり、ギルドでは魔物ごとに推奨クラスを明示しているが、必ずしもこの推奨クラスにこだわらずとも構わない。
例えば、上級クラス推奨の魔物討伐を駆け出しのEクラスの冒険者が受けても何ら支障は無いんだ。
但し、クエストを受けた上で失敗した場合は、罰金を取られることになる。
一つのクエストに複数の冒険者が群がると、誰が倒したかで揉め事になる恐れもある。
従って、クエスト票を張り出して、その票を受付に出した者に討伐の優先権が有るようにしている。
そうは言いながらも、偶々隊商を襲ってきた魔物を護衛が討伐したら、当該クエストに出ていたモノという事もあるから、その場合は早い者勝ちになる。
この襲われたから討伐したと云う言い訳が効くために、結構な揉め事になることがしばしばあるらしい。
更に言うならば、クエストでも重要な案件については、ギルドの信用や面目もかかっているから、そもそもクエストの受注が特定のクラス以上に限定されている場合もある。
例えば、貴族からの依頼とか隊商の護衛なんかがそれにあたる。
そんな場合は、推奨クラスではなくって、例えば『Cクラス以上が受注可』などと、クエスト票にクラスが明示されることになる。
従って、Gクラスの見習いでは、そうした案件のクエストは受注できないようになっているようだ。
そんな話はともかくとして、クエストで張り出されている魔物討伐の場合、そのクエストを正式に受けた冒険者が達成すれば、報奨金が出る。
但し、それ以外の冒険者が討伐した場合には、その素材のみが買取されるだけでクエストの報奨金は出ないことになる。
もう一つ、常設クエストには薬草採取やゴブリン退治などのクエストもあり、これはクエスト票を受付に提示する必要が無く、誰でも請け負える仕事なのだ。
だから、カルヴィアに来る途中で遭遇したゴブリンの群れについての報奨金は、冒険者でもないグルヌベルヌ村の買い出し部隊や俺でも報償金が貰えたわけだ。
但し、ギルドで報奨金を貰う場合には、クエスト履行の証拠提示が求められる。
ゴブリンの場合は、それが右耳だったのだ。
但し、全部で34匹ものゴブリンの群れが出たことについて、冒険者ギルドではその兆候を警戒しており、関係先に注意喚起を為したようだ。
これだけの群れが出るという事は、上位クラスのゴブリンが出ていてもおかしくないからだ。
少なくとも三匹の弓を使うアーチャーが存在したかもしれないということに、冒険者ギルドは大きな関心を寄せていた。
翌日には、三つの中堅以上のパーティに対して、ゴブリン生息域の調査依頼を出したようだな。
グルヌベルヌ村の買い出し部隊は、明日の日中に村の産物の売買と必要物資の買い付けをし、可能ならば明後日にはカルヴィアを発って村に戻る予定なのだ。
俺の方は、今日から冒険者としての活動を始めるが、最初は常設依頼の薬草採取だな。
実のところ、かなりの量の薬草が俺のインベントリに入っている。
真正のインベントリは、時間が停止しているんで、薬草も傷まないからな。
薬草の種類によって買取単価が違うようだが、ギルドのクエスト表示板の常設依頼であったのは、カリガナ草十把で大銅貨5枚、フェルディナの根5本で小銀貨二枚、ウェルアリの花弁12枚で小金貨4枚から12枚(いずれも状態により値段が異なる)であった。
俺のインベントリには、カリガナ草は三百把程、フェルディナの根も二百本以上、ウェルアリの花弁は百枚以上の在庫が有るんだ。
俺が、グルヌベルヌ村の周辺で、ここ一月ほどの間に集めた成果だよ。
因みに鑑定スキルを持っていると、こういった薬草はすごく探しやすいんだ。
目的の薬草に狙いを絞ると、視界の中で当該薬草がブリンクするのでその存在がすぐにわかるからね。
そんなことでグルヌベルヌ村周辺の山林で見つけた大量の薬草だよ。
これを少しずつギルドに収めれば、それなりに楽ができるというものだ。
因みに、カリガナ草三百把:大銅貨百五十枚=小銀貨15枚相当。
フェルディナの根二百本:小銀貨80枚相当。
ウェルアリの花弁百枚:小金貨32枚~小金貨96枚相当になる。
仮に全部を売れば、小金貨で33枚から97枚程度、無理やり日本円に換算すると六百万~四千万円弱の収入になる可能性があるぜ。
ずっと遊んで暮らせるというほどじゃないが、当座は宿代十日分ほどを現金化しておくのが良いかもな。
余り稼ぎ過ぎると、周囲に目を付けられる恐れもあるから、目立ち過ぎないように稼ぐことにするつもりなんだ。
実は、冒険者というのは低クラスでいる間は、本来、余り儲からない商売なんだ。
特に、魔物討伐を始めると、装備に金がかかり、怪我なんかをすると大金が飛んでゆく。
どうも、この世界に治癒魔法を使える者は非常に少ないらしい。
概ね、僧侶がその役目を負っているらしいが、生憎と僧侶はそのほとんどが肉体的に弱いので、クエストに同行できる者は至って少ないようだな。
従って、ハンターが怪我をすれば、何としても町に戻って、教会に居る僧侶に治癒を頼むことになるらしいのだが、これが物凄く高いらしい。
致命傷に近いような大怪我になれば、大金貨が飛んでゆくらしいぜ。
そんな場合、手元に金が無ければ、治療も受けられずに死ぬしかないわけだ。
そのためにHPポーションが冒険者には必需品らしいのだが、こいつがまた薬草の入手ができなくって慢性的に不足しているようだ。
その意味では、今の俺って凄くない?
自分で多少の治癒ならできるし、ポーションも作れる。
装備だって、自前でかなりの部分を何とか出来ちゃうんだ。
まぁ、多分、今の段階で対応できるのは初級装備の類なんだろうけれど、それでも有ると無いのとでは大違いだよな。
俺の場合、剣も槍も弓矢も自前だから、全然金がかかっていないんだ。
いずれ俺の冒険者のグレードが上がって行くに従って、装備類もグレードを上げて行く必要がありそうだけれど、自分のモノづくりのグレードが上げられれば、他所に頼る必要もないんだろうな。
仮に俺の鍛冶能力や錬金術に限界が見えたら、そこから他力本願に移行すればよい。
それまでは一生懸命に金を貯めることにしよう。
お世話になったギラン爺さんにも、できるだけ楽をさせてやりたいしな。
買い出しに来た爺さんたちが泊るドルヴィク亭には、俺も一緒に泊まることにしており、宿代は一泊食事(夕食と朝食)付きで大銅貨12枚だ。
食事抜きの素泊まりだと一泊で大銅貨9枚になるらしい。
俺は、一緒に出て来た爺さんたちと一緒に二連泊を頼んでいる。
普通、異世界では、夕食を食ってしまうと、夜は余りすることが無い。
俺の場合は、錬金術で生み出した光の魔道具や光魔法が使えるから、夜でも色々できることはあるんだが、それをすると目立ってしまうので、できるだけ他の人と同様に早く寝ることにしている。
◇◇◇◇
で、ケントが寝ると日本に戻るわけだが、日本での出来事は特筆すべきことが余り無いな。
日本に戻ると懸命に治癒魔法を使いながら全身の感覚を呼び覚ましているところだが、これがなかなかに進まない。
誰かに触られた時に厚い座布団のような布地の上から触れられているんじゃないかと思うほどぼんやりとした感触なのだが、それでももう二か月以上も色々とやっていると少しずつだが皮膚の感触が戻ってきているような気がする。
この調子で潰れた神経系やら骨やらが修復してくれればよいんだが、今のところその兆候は無いから、腕も足もピクリとも動かんぜ。
まぁ、あっちでのレベルアップが進んで、より高度な治癒魔法が使えるようになるまではきっとお預けなんだろうな。
◇◇◇◇
翌日、目が覚めると、1月5日、カルヴィアの町での二日目だ。
今日、買い出しの爺さんたちは、半数が市場で村から運んできた品を市場で売り、残り半数は買い出しだな。
そうして予定では、明日の朝には村に向けて出発の予定だ。
尤も、この予定は天候等に左右される。
この時期は割合雨も少ないんだが、雨が降ると市場も開かないし、村の産物の売買や買い出しも思うようにできないらしい。
それに小雨程度なら旅もできるが、土砂降りの場合は、流石に帰りの旅も延期されるらしいぜ。
でもここ数日は雨の心配はなさそうな空模様だな。
俺は、常設依頼の薬草採取をする予定でいる。
一応、向かう方向は、昨日ゴブリンに出会った方面だな。
万が一にでもゴブリンが大量に発生しているようなら、買い出しに来た爺さんたちの帰路の安全を確保して置いてやりたいからな。
場所的には、カルヴィアの町から徒歩で1時間程度のところだ。
平坦部ではあるけれど、ちょうど森が道路の両側を覆っている場所だし、薬草もそれなりにありそうな場所だった。
朝飯を食ってすぐに街を出た。
現場付近に着いたら、薬草探しを始めた。
それなりに薬草は見つけられたんだが、同時に、気配察知でゴブリンの集団を見つけたよ。
十匹程度の集団が少なくとも三つ、道路の西側300mから500mの距離にばらけている。
10匹程度ならば爺さんたちでも十分対応できるだろうが、これがまとまるとやっぱり大変だよな。
ということで俺は森の中に押し入って、ゴブリン退治を始めたよ。
最終的に一番奥側のゴブリン集団を討伐したら、より西側に多数のゴブリンを察知した。
おそらく数的には、百匹を超えるであろう集団が、小高い山の麓辺りに居るようだ。
もしかすると俺一人でも退治できるかもしれないが、此処は安全策を取って、すぐに俺はカルヴィアに引き返した。
ゴブリン37体分の耳と魔石を持って、冒険者ギルドにご注進だ。
多分、俺が現場に案内することになるだろうから、道路脇の樹木に布切れを巻き付けて目印にしておいたぜ。
俺は歩いて一時間ほどの距離を駆け足で走り抜いた。
ふむ、思いのほか身体の鍛錬ができているようで、4キロから5キロほどの距離を結構な速度で走ってもさほどに疲れていなかったな。
因みにギルドでは未だ調査隊が出発していなかった。




