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1ー3 出発の前に

 カルヴィアは、隣村のサテュアンに比べると少し遠くなり、徒歩で半日(朝早く発って、夕刻前に到着)かかってしまう距離ではあるが、それでも遠い町ではないのだ。

 実際にギラン爺さんは、半年に一度ほどは必要品の買い出しにカルヴィアまで出かけている。


 そもそもグルヌベルヌ村には自由に買い物ができるような商店が無い。

 自分で必要なものは作り出すか、若しくは、カルヴィアまで出張って買い物をしなければならないんだ。


 従って、一月に一度はグルヌベルヌ村から買い出しの者がカルヴィアまで出張っているのだ。

 ギラン爺さんにもその買い出しの際の当番が半年に一度回ってくるという事だ。


 途中の街道には、人を襲う獣や魔物が出没することもあるので、襲撃されても対応できるよう数人が固まって買い出しに出かけている。

 行商人が居ないわけでは無いのだが、過疎の村であるグルヌベルヌ村までは中々出向いてはくれない。


 需要が少ない上に、余り利益が得られないので、旅の途中の危険を天秤にかけると、グルヌベルヌ村までは来られないというのが実情なのだ。

 止むを得ず、村全体で必要物品の希望を聞いて、買い出し部隊が交代で出向くことになっているわけだ。


 そんなわけでカルヴィアは決して遠い町ではないんだが、それでも滅多に行けない場所であるのは確かなわけだ。

 ケントがカルヴィアに行って何をするかと言えば、冒険者になるつもりなのだ。


 『冒険者になる。』と俺が言うと、ギラン爺さんも最初は反対したな。

 冒険者はかなり危険な仕事であり、身を()して稼ぐことになるのだが余程高位の冒険者にならない限りは、生活自体も中々厳しいらしい。


 その辺のことを重々承知の上でケントは冒険者を目指しているし、二年頑張って才能が無ければ冒険者を辞めてグルヌベルヌ村に戻ってくると約束して、何とかギラン爺さんには納得してもらったよ。

 だが治癒魔法を含めて、ケントのレベルを上げるには、どうしても冒険者になる必要が有ったのだ。


 年が明けるまで、ケントは懸命に各種の訓練を行ったよ。

 生憎(あいにく)と前にも言ったが、レベルや達成度が数値化されていないから自分自身の成長が必ずしもよくわからない部分もある。


 ただ、石板の解説書のお陰で初級程度と思われる魔法は何とか使えるようになったと思うんだ。

 また、石板によって錬金術と製薬についても、一応身に付いたようだ。


 村では中々手に入られないHPポーションやMPポーションが俺一人で作れたし、錬金術で簡単な道具も作成できた。

 一応、魔道具と呼ばれるものなんだが、魔石が簡単には手に入らないから自分の魔力を通して使う代物だ。


 例えば、『懐中電灯』と俺が呼ぶ、1センチ程度の直径で10センチの長さの木片の魔道具は、岩山から採掘した()()()を組み込むことにより、魔力を通すとLEDのような光が出る道具だ。

 錬金術で生み出した酸化ケイクリスタルのレンズを使用して、魔水晶の位置を変えることで光を拡散させたり収束させたりもできるようにしている。


 多分、こいつを売ればそれなりの金になるんだろうとは思うんだが、魔石を利用した魔道具ではないし、魔晶石そのものがどうやら余り知られていないものらしいから、しっかりとした力が身に付くまでは極力秘密にして、目立たないよう自重すると決めている。

 また、無属性魔法と時空魔法の組み合わせで、仮想空間の『インベントリもどき』や『亜空間』を生み出すことができた。


 ケントが持っていた真正のインベントリの容量も、今では1キロリットル(ドラム缶5本分)ほどになっているよ。

 真正のインベントリの維持には魔力を必要としないようなんだが、『インベントリ擬き』や『亜空間』については、どうしても維持に魔力を使うようなので長時間の使用には問題がありそうだ。


 数値が表示されていなくても、何となく疲労感の度合いで魔力の減少が分かるんだ。

 こいつは感覚的なもんだから、流石に説明はしにくいがな。


 従って、ケントの小物の道具類なんかは、この真正インベントリとインベントリ擬きに分けて収納しているぜ。

 大事なものは真正インベントリに、そうでないものはインベントリ擬きや亜空間への保管にしている。


 インベントリと擬きについてはどちらも生き物を収納できないんだが、亜空間には生き物を暫定的に入れることもできるようだ。

 但し、亜空間の場合は時間経過があるし、植物なんかは日光が当たらない所為なのか、すぐにしおれるな。


 多分、亜空間に動物を入れたら数日で餓死するんじゃないかな。

 検証の為に、ネズミを捕まえて七日間亜空間で放置しておいたら、やっぱり死んでいたな。


 従って、ペットを亜空間で飼うのは無理だとわかったぜ。

 仮にそんなことができるようになるとすれば、有り得べきレベルアップとともに、色々と工夫もしなければならないんだろうな。


 それ以外では、地中から金属類も選択して採取することができるようになったので、錬金術と鍛冶で刀剣類も作ってみたよ。

 一応、健司の知識からボウガン5丁、リカーブボウ5丁、それにコンパウンドボウ5丁を生み出し、それ用の矢も各二百本ずつ真正インベントリに入れている。


 そうして、また、検証を進めている段階でわかったんだが、インベントリ擬きって、魔力の枯渇を無視すれば、何だか無制限とまでは言わないけれど、かなりの収容力があるんだ。

 いろんなものを試しに放り込んでいるが、一向に終わりが見えないんだよな。


 一方で、亜空間の容れ物には、限界がありそうだ。

 今のところ、亜空間に収容できるのは一辺20m前後の立方体が限度だという事が分かっている。


 最初に生み出した時点では8立米(一辺2mの立方体)ほどの容量だったが、訓練をして出し入れをしているうちに容量が大きくなったような気がするな。

 インベントリ擬きにしろ、亜空間にしろ、その維持に魔力を使うのじゃないかと思うんだが、最初の頃はともかく、今では魔力保有量(?)も増えたみたいで魔力の残量がわからないままで、かなりのものを突っ込んでも普段の動きや生活に支障が出なくなっている。


 俺の場合、余り気にしなくても良いのかも知れないが、使うとわずかながらでも倦怠感を覚えるのは間違いないので、どこかに限界はありそうだと思っている。

 ラノベなら魔力の使い過ぎで、昏倒するというようなことがあると思うのだが、これまでそこまでの異常は起きていない。


◇◇◇◇


 いずれにせよ、『水』、『木』、『土』、『風』、『光』、『雷』、『氷』、『闇』、『聖』、『時空』、『無』の初級魔法全てを一応使えるようになったよ。

 このうち攻撃魔法で使えそうなものは、取り敢えず、『水』、『土』、『風』、『光』、『雷』、『氷』かな?


 補助的に『闇』や『無』属性が使えそうだとはわかっている。

 闇属性は、精神干渉ができるらしいし、無属性は身体強化が可能らしい。


 但し、身体強化をかけても一人でやっている分にはよくわからん部分もあるんだ。

 確かに重いものを持ち上げたりもできるから、筋力の強化はできているんだが、素早さの比較対象が無いので、何となく早くはなったという感覚だけで、今一その効果がよくわかっていない。


 『聖』属性は、ラノベ知識で言えばアンデッド等の討伐に有効のはずだが、使う場面が無いので今のところは、その効果がよくわからん。

 それでも、ケントは、水の浄化に聖属性魔法を使っているよ。


 『時空』魔法は、収納スキルに加えて、どうも空間転移等にも使えそうなんだが、今一、感覚が掴めていないんだ。

 遺跡にあった他の石板は概ね要らなくなったんだが、時空魔法に関する石板だけはもう少し読み込むために必要だと思って、亜空間倉庫に入れて持ち運ぶことにしている。


 武術関係で言うと、剣術、体術、槍術、棒術、弓術については、概ね人並みに使えるようになったんじゃないかと思っているよ。

 馬術は、使える馬が無いから現時点では後回しだな。


 但し、村にある荷馬車用の馬とは仲良くなったな。

 別に馬の言葉が分かるわけじゃないんだが、何となくつながり的なモノを感じられるようになったという事かな?


 或いは、闇魔法に関わりが有るのかも、・・・・。

 古代文字の石板の言及によれば、テイムはこの闇魔法を使うらしいからな。


 鍛冶、錬金術、製薬については、一応ほぼ身に付いているが、数値化・定量化ができないからそのレベルや能力の高さがよくわからん。

 採掘についても、それらを実践する過程で錬金術の「抽出」の一部としてできるようになったな。


 薬師として必要な成分抽出も錬金術と組み合わせると簡単にしかも効率的にできるんだ。

 治癒については、水、光、聖属性魔法でできるらしく、土ネズミを捕まえて練習をしているところだ。


 残酷なようだが、小刀で傷をつけてそれを治す練習だ。

 例によって、魔力をどの程度使っているのかが見えないんだが、治癒魔法についても支障が出るまでは無視しておくつもりだ。


 ネズミを捕獲するための罠をいくつか造っているうちに「罠師」と「細工師」というのが、<その他>に生えたな。

 この世界でのありようが分からないから何とも言えないけれど、取り敢えず冒険者になるための準備はなんとか整ったように思う。


 年が明けたら、その三日後に村の買い出し部隊とともにカルヴィアに出発する予定だ。

 毎日、現世と異世界を行き来しつつ、ついにギラン爺さんとの別れの日が来た。


 ただ、特段の支障が無ければ、4月頃(夏場?)と10月頃(冬場?)の年二回は顔見世に戻って来る予定だよ。

 だから今生の別れじゃないんだが、ギラン爺さんも老齢になっているからな。


 置き土産にケントが作ったHPポーションを40本と、石板に記されていた強壮剤(錠剤)を造って400錠入りの(びん)で渡したよ。

 HPポーションは、十日に一瓶飲んでも1年は持つはずだし、村人でケガをした人に使ってもいい。


 直射日光に長時間当てたりしなければ、1年くらいは効果はあるらしい。

 まぁ、こいつは古代の石板の能書きだから俺が確認したわけじゃないけどな。


 強壮剤は、俺も試しに飲んだが、後遺症等の害は無いと思う。

 但し、ちょっとばかり、()()が元気になるかもしれん。


 そんな意味合いで、爺さんに渡すのを少し躊躇(ためら)ったが、身体に害になるようなものじゃないから、疲れた時に飲むように言って、飲み過ぎないようにと念のための注意をして渡したよ。

 HPポーション40本分は、流石に村には無いはずだし、カトレアル婆さんのところにも置いていない。


 爺さんから『そったらもん、どこで手に入れただ?』と、追及されたけれど、でも、『別に盗んできたもんじゃないけど、入手先は内緒だな。』といって誤魔化しておいた。



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