2ー1 復帰した健司の世界 その一
ところで、復帰した地球世界では、俺(健司)は26歳になっている。
俺(健司)も退院後は実家のある福山に戻っていた。
東京で住んでいた賃貸アパートは、かなり前に親父たちが整理して契約を解除していたからな。
事故があったのが9月半ばで、それから1年半余りも入院していたから、結構、「浦島太郎」って感じだよな。
一応、入院中もPCやテレビなどで多少の情報は得ているはずなんだけれど、実際に直面してみると時勢に乗り遅れてしまっていてびっくりすることはいくらでもあるもんだ。
例えば、スマホの機能が随分と変わっちまったのにはびっくりだな。
一応、新型のスマートグラスを開発する会社を創設する計画だけれど、仕事を始める前に英気を養うためと創立資金を稼ぐために海外旅行に出かけることにしたよ。
まぁ、それなりの金はあるんだぜ。
事故の損害賠償の慰謝料って奴が結構多かったからね。
俺(健司)自身は、1年半の間に就職先も失ったし、結構痛い目を見た・・・・ことになっている?
痛かったかどうかは、実際のところはよくわからん。
俺(健司)が目覚めた時は、ほぼ全身がマヒしている状況だったからな。
痛みは正直あまり感じていなかった。
でも回復の目途が立たずに1年以上も身動きできずにいるってのは、精神的にはかなり堪えていたな。
あれで、向こうのケントの世界が無かったら精神的に壊れていたかもしれん。
ただ、その見舞金やら賠償金にしても新たに事業を起こすための創設資金としてはやっぱりちょっと足りない気がするんだなぁ。
ベンチャー企業の資金支援事業なんかもあるけれど、あれは結構事前査定が厳しいからね。
俺(健司)のチート能力を生かすんなら、別の良い稼ぎ先が有ろうってもんだ。
行先は、取り敢えず、サンフランシスコ経由のラスベガス。
サンフランシスコは観光一択だけど、ラスベガスは観光とカジノだな。
一応、スケジュール的には、サンフランシスコで三泊、ラスベガスでも三泊の予定で初めての海外旅行だぜ。
英語は、左程得意じゃなかった筈なんだけれど、向こうの世界に行って『言語理解』の能力を得たからな。
今の俺(健司)は、言語ならなんでもござれなんだよ。
流石に聞いたことのない言葉は話せないだろうと考えていたら、そいつは浅はかな素人考えだよ。
面と向かっていても、電話で話していても、声が聞こえれば相手の言っていることが理解できるし、俺(健司)も会話ができる。
誰も知らない古代言語でさえ完ぺきに訳せたんだから、こいつは、きっと与えられた「スキル」の不思議なんだろうな。
だから米国に行っても当然に困らない。
ネイティブスピーカーのごとく話せるし、読めるし、聞けるんだ。
ベガスのカジノで一儲け?
うん、資金確保のための第一弾として、そのつもりはしっかりとあるぜ。
カードゲームなら、おそらくは負けはないんじゃないかなと思ってる。
相手がイカサマでもやってくれば別だけどな。
でも、イカサマができないように俺(健司)のスキルで予防することはできるんだぜ。
相手がイカサマをしていると確信したなら、こっちもカードを転移で交換すればよい。
俺(健司)が一度も手札に触れなければ、こっちがイカサマをしたとは絶対に考えないだろう。
俺(健司)が儲けすぎて、後刻、カジノ側が暴力に訴えてくるようならば、そいつを完全に封じ込めてやれば、相手も次には強くは出られんだろうな。
ベガスで三泊の予定ではあるものの、実のところはカジノで稼ぐのは最初の一晩だけのつもり。
プレイするのは勝ちが間違いなく読める『ブラックジャック』だけにする。
まぁ、ルーレットだって転がる玉を自在に操れば負けは無いけれど、それはそれで不自然になって疑われるだろうし、面白くない。
何も操作せずに、出目に応じて掛け金を増やしたり減らしたりすれば、最終的なトータルでは負けずに勝てるんだ。
それこそ賭け事の醍醐味じゃないか?
いや、最後に絶対に負けないというのがそもそもおかしいのか?
いずれにしろ、二日目以降はホテル宿泊料を前払いしたままで、急遽用事ができたと言って、ホテルをチェックアウトし、サンフランシスコに戻るつもりでいる。
ただ、賭け事でたくさん儲けると、日本に戻れば税金をむしり取られるけどな。
仮に、米国で臨時収入に対して税金を取られれば、確定申告をする際に当該納税証明書を添付すれば、二国間条約の二重課税の防止条項により、米国で取られた税金分は日本側税金と相殺されることになっている。
おそらくは、カジノで賭けられる限度額が決まっているだろうし、ディーラーの負けが込むと、それ以上は賭けができなくなるんじゃないかなと推測しているんだ。
その場合は、カードをやめて、スロットマシンに移るのかな?
滅多に当たらない高額の当たりを二度ほども出せば、そこも体よく追い払われるのだろうな。
カジノも一晩で三軒ほども梯子をしたら、それ以上は無理だろうと予測しているよ。
次の日には、俺(健司)の名前と写真がブラックリストに載せられているだろうから、一晩だけでどのぐらいまで儲けられるかが問題だ。
実のところ、そうやって半分遊びで儲けた金を元手に、今度はプレジャーボートを購入するつもりなんだよ。
中古で構わないから、できたら船内で寝泊まりできるタイプが欲しいなと思っている。
エンジンの付いたヨットでも構わないし、クルーザータイプのモータボートでも構わないんだ。
欲を言えば、雨が降っても操船中に濡れないタイプが良いけれど、あまり贅沢は云えないだろうと思っている。
そんな安易な考えで渡米した俺(健司)だったが、当初の思惑通り、しっかりと儲けちゃったよ。
一晩で約300万ドル超。
カジノでチップを現金化する際に税金を取られ、手数料も取られたね。
結局、三軒のカジノで納税証明書三枚を貰ったよ。
最終的に手元に残ったのは、小切手で180万ドルほどだった。
180万ドルは、1ドル150円換算で約2億7000万円相当なので、現金で持てばかなり重いんだろうけれど小切手だと数枚の紙きれだけだ。
日本の場合、一時所得が4000万円を超えると税率は45%だったかな?
その上で地方所得税の10%もむしり取られるから、4億5000万円(300万ドル分)の一時所得に対して、日本の税金は2億4750万円ほどになると思うよ。
従って、米国を出る際には2億7000万円(米国での税金は1億5000万円)ほど残った筈なのに、日本でさらに9750万円ほど課税されるようだから、実際に手元に残るのは2億円足らずになるのかな。
何せ米ドルから日本円に両替してもらうと、手数料が1ドルあたり1円から3円ぐらい取られるからね。
つまりは0.7%から2%がさらに引かれるから、金額が大きくなれば結構損をすることにもなる。
ただまぁ、俺(健司)の出資金は最初の500ドルだけだから、損は全然していないぜ。
ホテル代やら航空機運賃を引くとさらに残額は減るし、今後のことを考えると青色申告のための税理士も頼んでおいたほうが良いんだろうなぁと思っているよ。
それでも、自由に使える分を半額として、間違いなく1億円近くもありそうだ。
日本に戻ってから、岡山県のマリーナで売りに出ていた中古のイタリア製60フィート型のクルーザーを6000万円で購入したよ。
10年物のクルーザーなんだが、どうも船首部を岸壁にぶつけたらしく大破していた。
その壊れた状態のままで購入すると本来の値段の三割程度(新品だと2億円程するようだ。)で購入できた。
尤も、このままでは船舶検査が通らないから、修理しなければならないんだが、俺(健司)の錬金術で外装・内装工事をしっかりと施せば、往年以上の輝きが蘇るはず。
岡山県のマリーナに泊りがけで二週間、破損個所が全く分からないくらいまでに復元修理を行った、
そうして、エンジンも十年ものだったけれど、エンジン修理や整備と言うよりは、各種部品を細部にわたるまで新品同様に変えたと言った方が間違いないだろうな。
決して部品を新たに買ってきたわけじゃないんだぜ。
俺(健司)の錬金術なら、中古の部品をそもそもの規格に合わせて蘇らせることができるんだ。
ゴムやパッキンだって、劣化していたものを新品同様にできるんだぜ。
ちびた金属を補修するなんてお手の物だ。
最近のプレジャーボートは、船体にFRP素材が多用されているから金属とは違うんだけど、俺(健司)の場合は、放置されている廃材をあちらこちらで拾ってきて、再生し、補修に回すことができたよ。
岡山県のマリーナで臨時検査を受けた上で、このクルーザーを福山に回航して、市内にあるマリーナに預けた。
クルーザーをマリーナに預けると、結構な管理費をむしり取られるんだが、それもやむを得ないよな。
そうして、軍資金を得るための第二弾は、このヨットを使って瀬戸内海でトレジャーハンターをすることなんだ。
俺(健司)の場合、スキルで周辺の精密探査が可能だからな。
海上でクルーザーを走らせながら、海底及び砂や泥に覆われている古の財宝を探し出せるということだ。
探知範囲はおよそだが百メートル前後かな。
30mの水深の場合、およそ70度方向の全周にわたって探査が可能ということだ。
真下では海底の地下70m付近まで探査ができることになる。
流石に、それ以上の距離になると、物の識別が曖昧になって、地中に埋まっている物が判別できなくなるんだ。
俺(健司)が探そうと思っているのは、江戸時代かそれ以前の小判や金塊が中心になるのかな。
文化財としての古い壺とかも金になるのかもしれないが、結構手続きが面倒そうだ。
そうして意外と瀬戸内海には、船がお宝を積んだまま海難等で沈んでいるんだ。
目指せ「数万両」なんだが、見つけられるかどうかは、まぁ、博打に近いかな。
でも探査範囲内に実際に有れば、俺(健司)の能力で必ず見つけられるという自信はあるぜ。
だから発見した状況を記録として残すために水中カメラなんかも準備してある。
また発見場所もちゃんと測定して、記録しなければならないから、そのために、搭載してあったGPS以外にもう一台最新のGPSを追加搭載したよ。
数百年も昔の沈船だと潮の流れが早い瀬戸内海では、船体がとうに崩れてしまっているだろうけれど、小判や金塊なんぞは海底の土砂に埋もれたままになっている可能性が高いんだ。
何かのはずみでそうしたお宝が海底表面に出てきて見つかることもある。
必要ならば、スキューバーダイビングもしようとは思っているけれど、俺(健司)の場合は素潜りでも大丈夫なんだ。
40mまでの深度なら、40分ほども素潜りしていられるぜ。
それだけ俺(健司)が異常な能力を持っているということだな。
トレジャーハンティングのために、中古のクルーザーを購入したわけだが、その前に当然のことながら小型船舶操縦士免許も取っていたんだぜ。
全国各地にある教習所みたいなところで、最短四日の合宿で一級小型船舶操縦士の免状が取得できるんだ。
俺(健司)の実家は、広島県の福山市にあるんで、広島海田での合宿に参加、15万円(ホテル代等を含めると20万円)ほどの出費はあったけれど、無事に免許を取得できたよ。




