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六英雄キ -異世界編-  作者: 上野鄭
第一章 邂逅
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7話 魔法技術の違い

 嬉しさを爆発させたアルシアが近づいてきて声高に喜びを吐露する。

 静かに聞いていると、落ち着いてきたのか少しばつが悪そうに照れてはにかむ。


「えへへ……。わ、わたしまた練習してきますねっ」


 口早に告げると、逃げるような足取りで離れていく。

 眺めていると、アルシアは続けて足で試そうとしていた。


「もう何度か腕で試してからのほうがいい」


 声をかけると素直に腕立てを始めた。

 そんな様子を片隅におきながら、借り受けた分厚い本に目を通す。



 ◆◆◆



 魔法の入門書のようで、巻頭には「魔法とは何か」と説明が記されていた。

 その内容に眉をひそめる。


ーーー

 ――“魔法”とは魔力を捧げ、空想を現実へとする行為である。

  魔法の発動には主に詠唱と陣が必要である。

  陣を描くことで多様な魔法を扱うことができ、詠唱はそれを補助するものであるため、素早く正確に唱えることが必須である。

  また、発動者のイメージが重要であり、イメージによって魔法の強さが異なる。

ーーー


 初手から書いてあることに共感できない。

 正直、嘘くさい。

 よくこれで魔法が発動できるものだ。

 この段階で読む気は失せていたが、仕方なしに読み進める。

 次は魔法の属性について書かれていた。


ーーー

 ――基本属性である火・水・風・土・無。そこに上位属性の光・闇が存在する。

  数多の魔法はこれら”七属性”からなり、いくつかの属性を組み合わせることで多種多様の属性を扱える。

  例として、有名な転移魔法は光と闇の複合魔法である。

ーーー


 属性は光と闇が上位とされていて、他よりも優れているような書きぶりであった。

 そして、光や闇を合わせるとより強力な属性を生み出せるともあった。

 これに関しては失笑しかおきない。

 あっちと違ってコンパクトにまとめようとした産物のようだが、そのせいで視野が狭くなっているとしか思えない。


 現に俺は”転移”を使えるが、光属性も闇属性も適性がない。

 俺の知る限り、あっちで”転移”を使える奴で両方の適性を持ったのはいなかった。

 あっちの属性の考え方は、”基本・上位ともに四属性”、”他は特殊属性”扱いで、特殊属性が無数に存在した。

 俺の”転移”も空間魔法の一部、”特殊属性”の魔法という位置づけだった。


 流し読みをして少し気になったのは、「血統魔法」と呼ばれる特殊な魔法だ。

 これは血筋によって扱える特別な魔法らしく、それ以上のことは載ってなかった。


 ページをめくっていくとそれぞれの属性の魔法が記されていた。

 ご丁寧にも詠唱の文章と魔法陣が見開きで図示されていた。

 実際に魔力を流してみないと確かなことは解らないが、余計な線や図形が多すぎる。

 仮にこの魔法陣に魔力を流すとなると、流した魔力の三割ぐらいしか魔法にならないだろうに――。

 頭の痛い内容を無理やり飲み込み最後まで目を通した。

 読み終えると鬱憤(うっぷん)を晴らすよう、わざと大きな音を立てて本を閉じる。


「如何でしたか?」


 抑揚のない声で老人が尋ねる。


「見るに堪えない」

「……そこまでですか」


 とげとげしく答えると、痛ましそうな(うめ)き声を漏らしていた。


「正直期待はしてなかったが、ここまでとは思わなかった。魔法の防諜(ぼうちょう)とかはどうしてるんだ」

「専用の魔道具を使用しております」

「それは自分たちで作ったのか」

「……製作したものもございますが、多くは迷宮遺跡(ダンジョン)産でございます」


 痛いところを突かれたようで、老人が少し顔を曇らせた。


「となると、次はその迷宮遺跡とやらについて書いてあるものがあると助かる」

「迷宮遺跡につきましては、多くは判明しておりません。判明していますのは、”一つの迷宮遺跡に多種多様な魔物が住み着いている”こと、”中に入る侵入者を排除しようとする”こと、”放置しすぎると(あふ)れ出でる”こと、”優れた魔剣や魔道具が隠されている”こと、”一定階層ごとに守護者(ガーディアン)がおり倒さなければ先に進めない”こと、ぐらいでしょうか」


 後は不確かなことばかりとなります、と老人が小声で付け加えた。


「中はどこも変わらないのか」

「いえ、規模によってまちまちでございます。()()()()()()()()()()ようでして、見た目よりも広いことが常。中には森や海、雪山に火山まで存在することもあるようです」

「――なるほど」


 手に持った本を指でとんとんと叩きながら考える。

 あっちにはなかった代物だ。

 どう考えても理屈に合わない。

 常識が通じないことは解かるが、一度()()みたい。



 ◆◆◆



 考え込んでいる間にもアルシアの特訓は続いている。

 最初に比べれば魔法の発動が早くなり、魔力も安定している。

 今の回復で成功は五回目だ。


「そろそろ慣れてきただろうが、いったん休憩だ」

「――わかりました」


 息は上がってないが、魔力の消費がまだまだ多い。

 このままのペースだとあと十回も挑戦しないうちに魔力が枯渇するだろう。

 侍女が用意したお茶を飲むとアルシアは一息つく。


「魔法の発動には慣れてきたと思う。魔力の扱いを覚えたてですぐに魔法を使えるようになったのは凄いことだ。ただ、今は魔力の扱いがまだまだだから魔力を余計に消費している。上手くなればこの数倍は軽くいけるはずだ」


 ここまでの簡単な講評を告げる。

 アルシアは真剣に頷くと礼を述べた。


「魔力を増やすには魔力循環以外はないのですか」

「ある。枯渇するまで使えばいい――ただし。今はやめておけ」


 今にも立ち上がって続きをしようとしたアルシアを止める。

 少し不服そうな顔をして席につくと、どこか()ねた口調で聞いてくる。


「どうしてですか?」

「まだアルシアの身体が魔力に慣れてないからだ。安定してるとはいえ、魔力が流れることにまだ耐性が低い。そんなときに大量の魔力が流れると、最悪魔法が使えなくなる」

「……わかりました」


 しゅんとした様子で顔をうつむかせる。


「最初の頃が肝心だ。焦ると魔力が増えるどころか、魔力操作が覚束なくなる。そうなれば、結局必要以上の魔力を消費することになって魔法が使える回数が減る」

「はい、無茶はしません。――魔力循環は忠告通りであれば問題ないですか?」

「ない。安全を十分に考慮した時間を教えたからな」

「無理のない範囲で頑張ります」


 とりあえずの説明はこれでいい。

 小一時間ほど休憩を挟んだ後にアルシアは練習を再開した。

 足を対象にした回復魔法は二、三回の試行ですぐさま成功していた。

 そのすぐ後に連続で回復魔法が成功していたようなので、いったんアルシアの元へ向かった。


「安定して回復魔法が使えるようになったみたいだから、次に進むぞ」

「次は何をすればいいのでしょう」


 やる気は衰えていないようなのでそのまま続けることにした。


「次は小さい傷を治す練習だな。針を指に軽く差して血が出たところを回復魔法で治す。それだけだ」

「――他の者が代わりとなってはダメなのでしょうか」


 アルシアの後ろに控えた侍女が遠慮がちに口を開いた。


「ダメだ。人の怪我を治すほうが難易度が高い。次の段階でその練習をするが、必要になる魔力操作の熟練度がここから跳ね上がる。先にそっちをやってもいいが、上達が遅くなるぞ」

「リタ、心配は嬉しいけど、私は大丈夫だから」

「……お嬢様」


 アルシアが侍女の手を取って優しく微笑む。


「針で刺した傷跡も、成功すれば消えるから問題ないぞ。古傷とかでなければ回復魔法でだいたい治せるし」


 気休めだろうが一応説明しておく。

 不承不承ながらも侍女は小さな針を用意してアルシアに手渡す。

 渡されたアルシアは気負った様子もなく、静かに自分の指をぷすりと刺す。

 じんわりと血が滲み出てくる指を見つめながら回復魔法を試す。

 残念ながら血は止まらず、再度回復魔法を試みた。

 アルシアの眉が徐々に中央に寄っていく。


「……難しいです」


 何度も回復魔法を試していたが、結局傷は塞がらず、普通に止血した。

 眉を八の字に曲げてアルシアは指を見つめる。

 陽の光はすっかり傾き、空は赤く染まっていた。


「今日はギリギリできないだろうとは思っていた」

「……ちょっと悔しいです」


 むくれっ面のアルシアに王族として仕事がないのか聞いてみると、今は俺の世話だけらしい。

 正確には世話と魔法の会得だが。

 それもそうか。アルシア次第で俺の扱いが変わるとなれば他よりも優先度は高そうだ。



 ◆◆◆



「魔法の教本を読んでいたようですけど、何か気になることはありましたか?」


 練習を切り上げ客室に戻ると、思い出したように尋ねられた。


「気になったのは血統魔法と迷宮遺跡ぐらいだな。他は正直興味ない」

「そうですか……。血統魔法は扱える方が極端に少ないですし、迷宮遺跡に至っては詳しいことでしたら

 それこそ禁書ぐらいにしか載ってないと思います。禁書の閲覧許可も正直難しいと思います。――お力になれず申し訳ありません」


 謝るアルシアに気にするなと告げる。


「どっちも機会があればぐらいで、そこまで興味がある訳でもない」


 話題を変えるため、魔法技術の差について話をする。


「……そこまで違うのですね」

「ああ。俺の認識では光も闇も属性の優位はあまりない。精々が基本属性との間に弱点関係がないだけで、あとは扱う人間の技量次第ってところだな」


 感嘆したように声をこぼす。


「本には属性の有利・不利は書いてなかったが、相関関係は無いのか」

「ありますよ。火は風に強く、風は土に強い。土は水に強く、水は火に強い関係ですね。魔物相手に立ち回るときは特に気にするそうです。そちらは違うのですか?」

「魔獣は関係ないな。それに相関関係があるとはいえ、誤差程度。どちらかと言えば個人の技量のほうが大事だったな」


 俺の言葉に目を丸くして驚いていた。

 同じ魔力・技量であれば弱点属性が打ち破られていたが、大抵は魔法の構築がより強固な方が勝っていた。

 魔獣に関しては全く関係なかった。魔獣自身が使う魔法の属性と弱点が一致していたとは聞いたことがない。

 聞けば聞くほど別世界という実感が湧く。


「迷宮遺跡にしても、こっちには似たものもないしな……」

「えっ、そうなのですか!? それでは魔道具はどうされていたのですか?」


 ぼそりと呟いた言葉が聞こえたようで、今日一番の驚きを見せた。


「普通に作られていた。迷宮遺跡産の魔道具がどの程度か分からないが、おそらくそれと同等以上のものが出回ってたと思う」

「そこまで発展しているのですね」

「発展……微妙なところだな」


 何とも言えない表情をすると、アルシアは不思議そうに首を傾ける。


「魔力で動く乗り物や遠距離の連絡手段、魔力を検知する道具とか色々あった」

「お話を聞くと便利な魔道具に聞こえるのですが、お顔を見ると違うのですね」

「……普段使いは便利だろうが、こと戦闘面で考えると隠密性がな。ある程度魔力探知に長けた人間からしたら、相手が大声で自分の居場所を伝えているようなものだったんで、馬車とかの初歩的なものも未だに現役だった」

「なんだか、とても(いびつ)な感じですね」


 説明を聞いたアルシアも困ったように苦笑いを浮かべていた。


「そんな訳で発展してるかと言われると首を傾げてしまうってところだ」

「それでも、便利な魔道具を自分たちで作れるというのはとても魅力的です」


 慰めなのか、純粋に羨ましいのか、そんな言葉をかけられた。


 機会があれば魔道具を作るのもいいかもしれない。

 迷宮遺跡産と同等ぐらいであれば問題ないだろう。

 魔道具については、一先ず条件分だけに留めておいた方がいい。

 そんな心づもりを密かにしつつ、のんびりとした時間が過ぎていった。


本の内容抜粋って表現、これで伝わりますかね?

試行錯誤中です。(2025/8/23修正)

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