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六英雄キ -異世界編-  作者: 上野 鄭
第二章 遭遇

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63話 それぞれの水晶と魔物の群れ

 翌朝。

 アルシアたちは再び迷宮遺跡(ダンジョン)に来ていた。


「魔力を流すだけでいいのですか?」

「そうね。色が変わるまで続けて頂戴」


 アルシアたちの手には広間の天井にある水晶が握られていた。

 大きさは約二センチ。

 リタたちの魔力量を考え、余裕を持ったサイズにした。


「ふぅ、終わりました」

「少し借りるわね」


 手始めにアルシアが試すことにした。

 魔力の総量を考えれば、このぐらいなら何度も試せるからだ。


 彼女の手のひらから摘まみ上げた水晶は、綺麗な明るい緑色の輝きを放っていた。

 それをキエラは光にかざして確かめる。

 何度かひっくり返しながら見ると、小さく頷いて指を走らせた。


「わぁ……、綺麗ですね!」


 目を丸くしてキエラの手元を覗き込むアルシア。

 水晶は緑の光りのまま、外側をほんのりと青紫色に染めていた。

 始めの鮮やかな緑ではなくなったが、神秘的な色合いに、皆どこか魅入られる。


「予想外だったけれど、これはこれで趣深いわね」

「はい、仄かな差し色が良いアクセントになっていると思います」

「いいっすねぇ。私たちも楽しみっす!」

「うむ」


 リタたちにも好評だった。

 問題なさそうなので、三人も次々と魔力を籠めていく。


 リタは淡いオレンジ色、セルマは乳白色になった。


「色の濃さは魔力量の違いなのかしら?」


 キエラの呟き通り、リタやセルマの色合いはアルシアに比べると薄く、少し色付く程度だった。

 色が変わる時間もアルシアよりもかかっていたので、そちらの影響なのかもしれない。


「むむむ……」


 一番心配だったネリーが、案の定、水晶へ魔力を流すのに苦慮する。

 水晶の光りは弱々しくなってはいたが、まだまだ時間がかかりそうだった。


「貸せ」


 見かねたゼインがネリーの水晶を取り上げる。

 あっ、と口にしたのも一瞬で、彼の手にある水晶が色を失った。

 彼は無造作にネリーの手の上に返した。


「……ありがとうっす」


 お礼の後、再び魔力を流すと、今度は先ほどよりもスムーズに流れ込んだ。

 一分もしないうちに、ネリーの手のひらには淡いピンク色の水晶が出来上がる。

 色合いはリタたちと変わらず。

 彼女たちから水晶を貰うと、キエラは三人分の水晶を同じように処理した。


「わぁ、こちらも二色に分かれていて、鮮やかで可愛らしいですね!」


 アルシアの言葉が示すように、キエラの手にある水晶は、それぞれがアルシアの物とは少し異なった色合いをしていた。

 先ほどは外枠を囲むようだった紫が増え、中心と外側で色が二層に分離していた。

 度合いはちょうど半々ぐらい。中心の色味が始めより少し強くなっていた。


「面白いわね」


 出来上がった水晶をそれぞれに返したキエラが零す。


「最後はゼイン様の番ですね」


 アルシアはゼインに向き直りながら水晶を手渡した。

 すでに言い含められていたゼインが、面倒そうに水晶を貰うと、一瞬で色を染め上げる。


「わぁ――」


 その様子を眺めていたアルシアが、感嘆の声を漏らす。

 彼の手のひらにある水晶は、赤みの強い赤紫色に輝いていた。

 それだけではない。

 彼の作り上げた水晶は中心に向かうにしたがって紫の色が濃くなり、真ん中は深紫色にまで変化していた。

 一人だけグラデーションのある色合いに、他の女性陣も目を丸くして驚きの声を上げる。


「……こ(・)っ(・)ち(・)の(・)色(・)になったか」


 ゼインの呟きは、誰の耳にも届かなかった。


「目(・)の(・)色(・)から赤かと思ったっすけど、紫なんすね」

「確かに……。髪色からも少し離れていますね」


 ネリーの言葉通り、他の皆は瞳の色に近かった。

 アルシアは緑、キエラは青紫、リタはオレンジ、ネリーはピンク、セルマは黄。

 色の濃い薄いはあれど、近しい色合いだった。


 ネリーとセルマがゼインと見比べる。

 瞳は鮮やかな赤、髪は真っ黒で、紫や青の要素が見当たらない。


「魔力の色だろ。別に容姿は関係ない」


 そんな二人に、ゼインが考え違いを訂正した。

 他の面々も、そういうものかとそれ以上言及しなかった。


「後は装飾品にするのだけれど、それはまた今度ね」

「はい、素材が揃ってからですね」


 ひとまずは各自の水晶を確保しただけで満足する。

 そこからは、「螺旋迷宮」の探索に移った。



 ◆◆◆



 上層三階を彷徨(さまよ)っていると、魔物の群れと遭遇した。

 現在いるのは通路の交差点。

 少し開けているとはいえ、このままだと確実に魔物に襲われてしまう。

 本来ならば避けるつもりだったが、キエラが一つ情報を零した。


「……誰か追われているわね」


 先行していたネリーの情報では、少なくとも十体以上の魔物が通路を駆けているとの話だった。

 反転しながら来た道を戻ろうとしていたアルシアが、耳聡くキエラの呟きを拾う。


「それは本当なのですか?」

「えぇ、本当よ。きっと魔物に追われて逃げているんじゃないかしら」


 確認するようにゼインを見上げると、彼も肯定した。


「――アルシア様、仮に手を差し伸べるのでしたら、お二人の力を借りるべきです。十体以上を相手取るには、私たちでは力不足ですから」

「そうですね……」


 リタの進言に、アルシアは悩んだ様子を見せる。


「アルシア様……?」


 そんな彼女の態度をリタは怪訝(けげん)そうに見つめた。

 リタに視線で咎(とが)められ、ばつが悪そうにするアルシア。


「リタの懸念は重々承知しています。ですが、今(・)後(・)を考えるのであれば、可能な限り挑戦するべきではないかと思うのです。――もちろん、リタたちを危険な目に合せるつもりはありません。ありませんが、今の自分たちがどこまで出来るのか、試してもいいのではないかと、ちょっぴり考えただけです……」


 眉を落としながら後ろめたそうに告げるアルシアに、リタも曖昧な表情を浮かべた。


 確かに以前、精一杯頑張ると宣言したのにも関わらず、己の限界を勝手に決めていたき(・)ら(・)い(・)はある。

 二人のバックアップが手厚いのに、すぐに頼ってしまっては何のための決意だったのか。

 そこまで考えつつも、万が一を想定してしまい、リタは煮え切らない表情になってしまった。


「いいんじゃないっすかね? ギリギリまで頑張ってみて、ダメそうならお願いするって感じで」

「私も、アルシア様のお考えに賛成です。……リタの懸念も分からなくもないが、お二人がそんなミスをするとは考えにくい。なら一度、当たって砕けてもいいと思う」

「……そう、ですね。魔物の種類次第では、四人でも手が足りる可能性はありますか……。キエラ様、どんな魔物かお分かりになりますか?」


 二人の説得も相まって、リタも前向きに検討する。

 その姿にアルシアは嬉しそうに微笑んだ。

 尋ねられたキエラは首を傾げながら口にした。


「そうねぇ……。見たことない魔物もいるのだけれど、多いのは蟻(あり)の形の魔物ね。他は蛙(かえる)と……丸まったあれは何かしら? よく分からないわ」

「……上層の蟻型と蛙型でしたら、恐らくアースアントとダートフロッグですね。どちらもEランクです。丸まった魔物は、ロールラットかウィンドスネイルだと思われます。どちらもDランクですので、後はそれぞれの数次第ではありますが、ギリギリ対応できる可能性はあります」


 リタの説明を聞いたキエラが改めて魔物を探る。

 向き直ったキエラは蟻五、蛙四、丸いの三と告げた。


「……足を止められさえすれば、何とかなるかもしれません」


 丸い魔物がロールラットかウィンドスネイルで難易度が変わってくるが、十分対応可能だと口にした。


「なら、私が足止めだけしてあげようかしら? もちろん、完全に動きを止めるんじゃなくて、一度勢いを削ぐだけだけれど」

「……お願いできますか?」


 キエラの申し出に、しばらく逡巡(しゅんじゅん)していたリタが要請することにした。

 もちろん、と頷いて快諾するキエラに、アルシアはお礼を言う。


「行く行くは私たちで出来ればいいですが、今はお願いしますね」

「えぇ、貴方たちぐらいの実力に抑えておくわ」


 暗に大規模な魔法を使わないと告げた。

 それでも構わないとアルシアたちは首肯した。


「そろそろ来るっすよ」


 ネリーの忠告が飛ぶ。

 急いでリタは簡単な指示を出した。


「通路から逃げて来た人を確認した後、キエラ様は通路から飛び出してきた魔物の勢いを止めてください。先頭を転ばせれば後ろも詰まると思いますので」

「分かったわ」


 悠然とキエラが頷く。


「アルシア様は矢で魔物の目か足を狙ってくださいませ。少しでも機動力を落とさないと、こちらが不利になりますので」

「はい、頑張ります!」


 小さくアルシアは握りこぶしを作る。


「セルマとネリーは魔物の注意を引きつけて、可能なら倒しなさい。深入りは禁物ですが、頭数を減らせるに越したことはありませんので」

「了解っす」

「分かった」


 ネリーとセルマも力強く頷いた。


「私は状況を見て動きます。逃げて来た人が加勢してくれればいいですが、そうではない場合、申し訳ないですがキエラ様かゼイン様に注意を払っていただきたいです。手が足りなくなると思いますので、私も前に出て戦闘に加わる必要があります」

「分かったわ」

「あぁ、構わない」


 申し訳なさそうに告げるリタに、二人とも承諾した。

 流石のリタも、他の冒険者を警戒しつつ、魔物の群れと戦えるとは考えていない。相手の出方を見る余裕を考えなければ、時間はかかっても成し得ると計算していた。


「来たっす!」


 ギリギリのタイミングでネリーの叫び声が上がった。


「――そこの人たち! 魔物が来てるの、早く逃げてッ!」


 女性の叫び声と共に、数人の冒険者が現れた。

 一人は先ほどの声の主らしき年若い女性。

 その後ろに彼女と同じ年頃の、二人の男女が走っていた。

 よく見ると、男性の背中にはもう一人背負われているらしく、全部で四人の冒険者パーティだった。


「今ですッ!」


 彼女たち全員が通路を飛び出したのを確認すると、リタが合図を送る。

 キエラは組んだ腕から人差し指だけ向け、横に一線引く仕草をした。


 たちまち通路の足元付近に土で出来た柵がせり上がる。


「ギギィッ――!」


 現れたアースアントたちが躓(つまず)いて広間に放り出される。


「ケェー!」


 ダートフロッグは二体だけ足が絡まり、それ以外は飛び越えてしまう。

 すかさずセルマが飛び越えた一体に駆け寄り、ネリーはもう一方に短剣を投げつけた。


「ハッ――」

「ふっ――」


 どちらの攻撃も足に狙いをつけ、見事に傷をつけた。


「ゲェェーッ!」


 怒りの叫び声をあげるダートフロッグだったが、後ろから迫るもう一種類の魔物とぶつかった。

 その魔物は転がりながら柵にぶつかり、放物線を描いてちょうどよくダートフロッグで足を止めた。


「ふふん」


 足止めの結果に、キエラは満足げな吐息を漏らした。

 彼女はダートフロッグが通り過ぎた後、追加で柵を作り、ちょうどぶつかるように仕向けていたのだった。


 その間にも戦いは続く。

 アルシアはリタの指示に従い、アースアントは足の関節を、ダートフロッグは目を狙って矢を打ち続ける。

 ネリーはアースアントに傷を付けながら走り回る。

 セルマはダートフロッグの前に陣取り、牽制を続ける。

 転がってきた魔物がようやく止まると、その全容を露わにした。


「……ウィンドスネイルですか」


 リタが僅かな苦々しさを滲(にじ)ませる。


「厄介なのかしら?」

「えぇ、そうですね。殻がそれなりに硬いので、乱戦ですと厄介です。先ほどのように転がられると、剣等も弾かれますから」

「そうなの。また転がるようなら、私が足止めするわよ」


 一瞬思い悩んだが、すぐさまお願いしますと告げた。


「私は一度、逃げていた冒険者と話をつけてきます。……危なそうだと判断しましたら、いつでも手を出していただいて構いませんので」

「分かったわ」


 リタの迷いを見透かしたように微笑んだキエラ。

 そんな彼女へ苦笑いを返して、足早に冒険者の元へ向かった。


 二言三言会話したリタが戻ってきた。

 難しい顔を浮かべたリタが指示を出す。


「――ネリー、右へずれて足止めを! セルマはそのまま正面を抑えて! アルシア様はお二人の側から離れず矢をお願いします! キエラ様は引き続きウィンドスネイルの足止めをお願いします! 私も前へ出ますので!」


 全員に聞こえるように叫ぶと、小声でリタに「先ほど同様、お願いします……」と言い残し、ネリーに並ぶよう走り出した。


 逃げて来た冒険者たちは、息も絶え絶えで、武器もほぼすべて落としてきたという。

 短剣ぐらいはあったが、下手に連携を取れない以上、離れているよう言う他なかった。


 結局、リタが加わった計五人で魔物と戦った。

 キエラの絶妙な助力もあり、アースアントから片付け、ダートフロッグ、ウィンドスネイルと順に倒していった。


 時間はかかったが、大きな怪我無く倒しきることが出来たのだった。


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