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六英雄キ -異世界編-  作者: 上野 鄭
第二章 遭遇

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61話 様子見の探索

 数ある迷路の入り口のうち、たまたま正面にあった通路を選ぶ。

 並びはネリーが数メートル先行し、セルマがアルシアの護衛として正面に、背後をリタが守る形だった。

 ゼインやキエラはアルシアの両脇に陣取り、どちらも気配を消していた。ゼインは隣にいるアルシアでさえ意識しなければ気付けないほど、存在感を希薄にしていた。


 広間と違い、通路には灯りがない。

 夜目の利かないアルシアたちのため、天井付近にキエラが光玉を作り出すと、十メートル先までは見通せるようになった。


「光源もこちらで準備しないといけないですね」

「あら、それぐらいはいいんじゃないかしら?」


 リタの呟きにキエラが反応する。

 今回は別だが、これからはアルシアたち四人で潜ることを想定していた。……もちろん、ゼインやキエラも同行するが、手出しはしない予定だった。

 それを踏まえての発言だったのだが、キエラは甘やかそうとする。


「私が魔法で生み出せればいいんですけど……」


 魔力量も多く、完全な後衛のアルシアが悩ましげに呟いた。

 流石に現状で魔道具を買う余裕はない。

 キエラが作ることも考えていたが、一度迷宮遺跡(ダンジョン)の中を覗いてからということになった。

 実際に体験した所感として、光源は必要だが、手を塞いでしまうのが悩ましいところだった。


「うーん、”水で浮かせる”って手がない訳ではないけれど、アルシアにはまだ難しいと思うのよね」


 キエラの案とは、他人の水魔法を奪い、それで光源を包んで浮かせるというものだった。

 他人の魔法を奪うだけでもそ(・)れ(・)な(・)り(・)の技術が必要なうえ、光源を壊さない繊細な操作に、歩きながらでもこなせる器用さまで要求される。

 流石に、魔法を覚えて三か月程度の相手に求めるのは酷な話だった。


 代替案も見つからないので、今のところはキエラに毎回頼むか、灯りを各自持つしかなかった。


「突き当りっす。どっちに行くっすか?」


 警戒しつつ先を進むと、丁字路に差し掛かった。

 少しだけ先行しながら罠や魔物の気配を探っていたネリーが声を上げる。


 地図など持ち合わせていないので、どちらを選んでもさして変わりない。

 何となくでアルシアが右を選んだ。

 そのまま先に進むと、初めての魔物に遭遇した。


「あれはコボルドですね」


 犬頭をした小さな人型の魔物が光りに照らされた。

 全部で五体だったが、ネリーとセルマの二人に蹂躙(じゅうりん)される。


「一体でEランク、数体の群れではDランク相当の魔物です」


 矢を番えて背後を警戒しながら、知らない二人に向かって説明した。

 ネリーが周囲を警戒し、セルマがその死体を切り捌(さば)く。

 コボルドは素材としてそこまで価値がないので、体に埋まった魔石だけ取り出して通路の脇に固めていた。


「討伐した魔物はああやって処理するのがマナーです。素材を取る取らないにかかわらず、死体は隅に避けて置くか、燃やしてしまうのが一般的です」


 洞窟なので流石に燃やす訳にはいかない。

 空気は流れているが、そこかしこで燃やしてしまうと、煙や臭いで他の冒険者の迷惑になるからだ。……二人にしてみれば、他にも死体処理の方法があるのだが。


 取り出した小粒の魔石を袋にしまうと、アルシアたちは先に進んだ。



 ◆◆◆



 次に遭遇した魔物は、アイヴィートレント――トレントと呼ばれる木を模した魔物の亜種だった。

 その名の通り、全身が蔦(アイヴィー)で構成された奇妙な魔物だった。

 本来、トレント系は本体部分が木(・)で出来ているのだが、このアイヴィートレントはすべて蔦(つた)で出来ていた。

 中心にある魔石に絡まるように蔦が伸び、くねくねとした動きと麻痺毒で冒険者を翻弄する、そんな魔物だ。

 Dランクの魔物で、一体しかいないことが救いだった。


「ここでアイヴィートレントとは、厄介ですね」

「洞窟で火が使えないからかしら?」

「それもありますが、ここのように狭く暗い空間ですと、闇雲に暴れ回るだけで手が出し辛く、不意の一撃をもらう恐れがあります。アイヴィートレントは麻痺毒がありますので、攻撃を受けすぎると動きが鈍り、さらに畳みかけられる……という悪循環に陥りかねませんので」


 リタの説明に、確かに厄介ね、と零した。


「燃えやすいのかしら?」

「いえ、火を嫌いますが、本体の蔦は燃えにくいです。戦い方としては、松明や火を近づけながら蔦を切るのが定石です。燃えないのに、なぜか近づけると動きが鈍りますから」


 火を嫌うので勘違いされがちだったが、アイヴィートレント自体は火に弱くない。

 弱点属性は風(・)属性。

 残念ながら、アルシアたちの中では使える人がいなかった。


 定石通り行こうにも、火を持っていない状態ではあまり近づきたくない魔物。

 無理に押し通してもいけなくはないが、迷宮遺跡であることを考えれば、一度の無理が後々に響いてしまう。

 リタが魔法を使って牽制するか迷っていると、キエラが矢を一本拝借して先端に火を灯す。


「はいこれ。即席の松明だけれど、十分でしょ」


 元からキエラ製の土で出来た矢だ。整形もお手の物だった。

 今は矢羽根部分が無くなり、持ちやすいよう太くなっていた。


「ありがとうございます。――セルマ!」


 アイヴィートレントの動きを警戒していたセルマが、後退りながら近づいてくる。

 彼女の目の前に即席松明が出されたことで意図を理解する。


「ありがとう」


 短い言葉の後、セオリーに従って火を差し向けた。

 先ほどまで、一撃離脱で気を引いていたネリーもすぐさま距離を取る。

 リタの解説通り、火を向けられた魔物が動きを鈍らせる。

 そのうちに、セルマが片手の長剣で蔦を払っていき、最後に魔石に絡まった蔦を断ち切った。


「お疲れ様です、怪我はありませんか?」

「私は大丈夫っす。かすりもしなかったっすから」

「私も途中まで盾で防ぎましたから、問題ないです」


 アルシアが声を掛けつつ、二人に回復魔法を施す。

 怪我はなくても余力がある時は、体力回復を目的に魔法を使っていた。


 まだ状態異常を回復させたことはないアルシアだが、軽度の症状なら問題なく治せるまで腕を上げていた。

 今回のアイヴィートレントであれば、数回程度の麻痺毒なら十分治せる。

 折を見て経験させる必要がある、とゼインは考えていた。


 回復の後、二人は切り払った蔦を拾い集める。


「何かの素材になるのかしら?」

「そっすね、魔法薬の材料になるっす。特に、魔石に近い部分だと効果が上がるって聞いたっす」


 欲しいっすか? と聞かれ、サンプルとして少し分けてもらうことにする。

 試しに手に取ると、魔石に絡まっていた部分は末端や他の部分と比べ茎が太く、葉も青々としていた。

 キエラは別々の個所を三つほど貰うことにした。



 ◆◆◆



 そこからは魔物と遭遇しても危なげなく倒していく。

 まだ上層の三階目ということもあり、魔物もそれほど強くはない。

 ここは単体でEやFランクの魔物がメインで、それらが三~八体の群れで襲ってきた。

 Dランクの魔物の場合だけ、一体でしか出没しなかった。

 この「螺旋迷宮」の入場制限がDランク以上とされている所以でもあった。


「それにしても、出てくる魔物に統一性がないわね」


 何度目かの戦闘の後、少しだけ開けた小部屋の中でのキエラが愚痴を零す。


「そうですね。『螺旋迷宮』が洞窟のようなところですから、魚の魔物が浮(・)い(・)て(・)い(・)る(・)姿はすごく不思議でした」


 アルシアの言葉通り、本来なら湖や海に生息する魔物が洞窟にいる光景は、己の目を疑いたくなるほど衝撃的だった。

 水中でも陸地でも活動できる蛙や鰐(わに)のような魔物であれば話は別であるが、魚そのままの姿で空中を漂うのは、不思議を通り越して珍事である。

 同じく驚いていたキエラ曰く、重力魔法が掛けられているらしく、宙を泳ぐように移動していた。……水生生物が、どうやって陸上で生き永らえているのかは謎であったが。


「本来なら、トレントのような植物系も洞窟では滅多に見ません。多いのは虫系やアンデッド系です」

「そういう意味じゃ、今回出会った魔物の半(・)分(・)以(・)上(・)は変っすからね」


 セルマの説明に、ネリーも追随した。


 彼女たちが出会った魔物は動物系が多かった。

 蝙蝠(こうもり)や蛇なら洞窟にいてもおかしくないが、馬や栗鼠(りす)、鳥の魔物なんかを目撃した。

 全部が全部、アルシアたちが戦った訳では無く、他の冒険者が倒す様子を遠巻きに見たものも多かった。

 迷路のような洞窟になってはいたが、所々に広間があり、その中で戦う様を発見していた。

 幸い、洞窟も一本道ではないので、来た道を戻り、他のルートを辿ることで冒険者との接触を避けていた。


 現在は、二階へと昇る階段がある部屋で休憩していた。


「中層以降ですと、他(・)の(・)魔(・)物(・)と徒党を組む光景もあるそうです」


 リタの発言に、いよいよもって分からなくなる。

 迷宮遺跡の外であれば、違う魔物同士が遭遇すると最悪殺し合いに発展する。

 それが、迷宮遺跡内では手を組むというのは明らかな異常行動だった。


「なかなか興味深いわね。ゼインもそう思わない?」

「全然。興味ない」


 話題を振られたゼインが素っ気なく答える。

 彼としては、因果関係の原因なら多少気にはなっても、結果のほうには微塵も興味なかった。


「あら残念」


 賛同を得られず、キエラは肩を竦(すく)めて気持ちを切り替えた。

 答えを知りたければ、ある程度見当がついてから、またゼインに視てもらえば済むと考えて。


 休憩が終わると、アルシアたちは二階へと進んでいった。



 ◆◆◆



「ふぅ~、やっと明るいところに出れたっす」


 ネリーが背筋を伸ばして体をほぐすように動かす。

 リタやセルマも小さく息を吐いて緊張を解いた。


「お疲れさまでした」


 そんな三人に向けて、アルシアが労いの言葉を掛ける。


 あれから彼女たちは、順調に探索を続けていた。

 出会った魔物も冷静に対処し、次々と討伐していった。

 幸い、どれもEランクの魔物ばかりだったこともあり、連携の確認やアルシアの矢の練習を行うこともできた。

 その分荷物も多くなってしまったが、運搬に関しては問題なかった。

 迷宮遺跡に設置されているという魔道具には巡り合えなかったが、キエラがすべて魔法で運ぶことで解決していた。


 現在は一番上にある、最初に入った安全地帯に足を踏み入れていた。


「荷物は全部、買取に出していいのかしら?」

「はい、お願いします」

「私も、お供いたします」


 アルシアに確認したキエラが隅にある冒険者ギルドの出張所に足を向けた。その後をリタが追う。


 アルシアたちが潜っていた時間は約六時間。

 最初のごたごたやお昼の休憩を挟んだので、実際の探索時間はもう少し短かったが、一度の冒険にしてはまずまずの長さだった。


「どうだった?」


 漠然としたゼインの問いかけ。

 しかし、アルシアには関係なかったらしく、上機嫌な様子で答えた。


「充実した時間でした。自分のこれまでの成長を感じられましたし、今後の課題も見つかりました。パーティとしても、まだまだリタたちの負担が大きいですから考えどころではありますし、魔法の腕を磨く必要も再確認できました」


 しっかりと実のある探索ができたと語るアルシアに、ゼインは目を細める。

 ネリーやセルマも異議はないようで、首を縦に振っている。


「そうか、よかったな」

「はい!」


 優しく微笑むゼインに、満面の笑みで頷くアルシア。


 換金を終えたキエラたちが戻ると、皆揃って拠点へと帰るのだった。


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