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六英雄キ -異世界編-  作者: 上野鄭
第一章 邂逅
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5話 謁見

 あれから二日後、王都へ向かうべく馬車に乗り込んだ。

 アルシアたちが準備している間、特にやることがなかったので街の外をぶらついていた。

 付き添いや世話役は不要と言って、一人で過ごした。

 アルシアに何をしていたか尋ねられたが、特に話しておくこともなかったので、森を眺めていたと言ったら植物が好きなのだと勘違いされた。

 そんなこんなで、王都まで旅路は順調。天候も穏やかだった。

 休憩の合間にアルシアの護衛部隊の騎士と交流を持ったぐらいで、何事もなく王都へと到着した。



 ◆◆◆



 王都の街並みは整然として綺麗だった。

 石造りを基調とした建物が立ち並び、石畳の敷かれた大通りには多くの店がにぎわっていた。

 そんな街並みをぼんやりと眺めていると、ひと際大きな建物が目に付いた。


「あれは?」


 何の気なしに尋ねると、俺の視線を追って何を問われたのか気付いたアルシアが答える。


「あちらは冒険者ギルドです」

「冒険者?」

「はい。魔物退治や迷宮遺跡(ダンジョン)の探索、護衛などを行う方たちの総称です」


 顔を動かさず視線だけアルシアに向けて話を聞く。


「ふーん」

「ご興味ありますか?」

「特にない」

「そうですか」


 素っ気なく答えて外に目を戻す。

 そこからは会話もなく貴族街と思われる場所を通り過ぎる。

 先ほどから見えていた王城にようやくたどり着いた。


「それではまた後ほど、お会いしましょう」


 アルシアはそう言って老人と一緒に城の中へと消えていった。

 残された俺は侍女の案内に従って歩き出す。

 案内されたのは客室の一つで、部屋やベッドも広く、落ち着いた調度品のある部屋だった。

 出されたお茶やお菓子を無機質に口に運ぶ。

 謁見の準備が整うまで待ってほしいとアルシアに言われたので、素直にしている。

 部屋に控えていた侍女におかわりが要るか聞かれたが、いらないと答えてソファーで横になる。


「……」


 手を頭で組んで天井を向く。

 幾度か視線を動かして目を(つむ)る。



 ◆◆◆



 ふいにドアをノックする音が響く。

 侍女がドアを開いて訪問者の男を招き入れる。


「謁見の準備が整いました。お客人は私についてきてください」


 そういうや否や、(きびす)を返して歩き出した。

 目で侍女に確認すると浅く(うなず)いた。しかたなく男の後に続く。

 迷路のような城の中をひたすら歩く。

 だいぶ待たされた後に、意味もなく廊下を歩かされる。

 きっとアルシアをよく思わない連中の仕業だろう。

 謁見の場所まで遠ざかったり近づいたりを繰り返している。

 ようやく気が済んだのか、大きな扉の前にたどり着いた。


「ゼイン殿、ご入室!」


 耳障りな音とともに声高な宣言が聞こえた。

 扉が開かれ入室を促される。

 ちらりと流し目を送り中へと入る。


 正面に座る豪奢な服を着込んだ中年の男がこの国の国王だろう。

 その左右にタイプの違う女が二人。

 きっと王妃たちで右にいるのが(くだん)の元公爵令嬢のほうだ。きつい目付きにけばけばしい装飾をしている。

 王妃たちのさらに隣に見知らぬ男たちと少女、それからアルシアが(たたず)んでいた。

 第二王女と言っていたのに、隣にいる少女はそれより幼く見える。

 そういえば兄弟が何人いるとか聞いてなかったな、と今更ながら思う。


「その場で立ち止まり、(ひざまづ)け」


 王族たちがいる小上がりの下、ちょうど俺が進んだ真横にいた老人が偉そうな態度で口を出す。

 その老人を一瞥しただけでそのまま数歩進み、腕を組んで正面の中年を睥睨(へいげい)する。


「なっ!?」


 周囲がざわめく。

 正面にいる王族たちも驚愕や憤怒、困惑の表情をそれぞれ浮かべている。

 きつい目付きの女は手にした扇で口元を隠し、目を細めている。

 反対の女は困惑の表情で首を(かし)げる。

 それぞれの女の隣にいる男たちは一様に怒りの形相を呈している。

 アルシアはぽかんと呆けた顔を浮かべて固まっていた。

 周りにいる連中からは怒号や罵倒が投げられる。

 そんな中でも目の前の中年は、多少驚いたように眉を上げただけで、すぐさま表情を戻してこちらを見つめていた。


「静まれ――!」


 中年の男が口を開くと騒いでいた連中が口を閉ざす。


「其の者が『稀人』であれば、こちらの礼儀を知らぬのも仕方なし。そう糾弾することもなかろう」

「しかしながら、この者の態度はあまりにも不敬でございますれば――」

「そなたらの行いの意趣返しであろう。己が行為をまず恥ずべきである」

「っ――」


 反論してきた老人は口惜しそうに口を噤む。

 俺を睨みつけてきたが無視を決め込む。

 どうやらこれまでの嫌がらせは、目の前の中年男の仕業ではないようだ。


「して、そなたの名はなんという」

「聞いてないのか」


 ちらりとアルシアのほうに視線を向ける。


「聞いておるとも。こうして顔を合わせて、おぬしの口から直接聞きたいと思ったまでよ」

「……」


 しばらく無言で視線を合わせていたが、向こうは本気でそう思っているようで意図までは読み切れない。

 組んでいた腕をほどき、片手を腰に当てて宣言する。


「俺はゼイン。ソール連邦出身のしがない執行官だ」

「余はアイザック・フォン・ルナート。この国の国王である。して、聞いたこともない国と役職であるが、そなたが『稀人』であると証明に値するものは如何に?」

「それなら、アルシアが魔法を使えるようにする。ついでに欠陥魔道具の一つぐらいは直してやる」

「ほう」


 先に話を聞いていただろうに驚いたような態度をみせる。


「お言葉ですが――」


 それまで黙って聞いていたローブを着ている男が否を唱える。


「『魔力鑑定』の魔道具は古くから用いられている由緒ある魔道具です。それを『稀人』か定かではない者が、不遜にもケチを付けるなどと。そもそも、『審議判定』の魔道具が機能しないというのも眉唾でしょう。あることないこと並びたてて、煙に巻いているに違いありません!」

「なら、先にその『審議判定』とかいう欠陥魔道具をもってこい。骨董品が無意味なことをその低能に刻んでろ」

「ッいいでしょう!」


 そう言って部屋から退出していくローブの男。

 周囲の人間もほとんどあの男と同じことを考えているようで、疑念の(こも)った目を向けられる。

 中年男も特に異を唱える気はないようで、静かに成り行きを見守っていた。



 ◆◆◆



 しばらくすると鈍い音を響かせて無骨で不格好な魔道具をもってローブ男が表れた。

 前見た魔道具よりは一回り小さく、扉をくぐらせられるぐらいの大きさだったが、機能に対して大きさが釣り合ってない。


「持ってきましたよ。さあ、あなたのその口八丁もここまでです!」

「――魔力を測る魔道具はどれだ?」


 男の言葉を無視して持ち込まれた魔道具を探す。

 控えていた男がおずおずと遠慮がちに渡してきた。


 手渡された魔道具は思ったよりも小さく、手で掴めるぐらいの箱型で中央に注ぎ口が開いていた。

 口の左右に水晶のようなものが嵌まっていて、おそらく魔力量や属性がこれらでわかるのだろう。

 軽く魔力を流してみると分かるが、判別できる魔力の質が限られ、それ以外だとまずもって魔力量が測れないようだった。

 これを使っているならアルシアの魔力は測れないだろう。

 手にした魔道具を観察していると、ローブ男が限界に達したのか顔を真っ赤にして激高していた。


「どこまで虚仮(こけ)にすれば気が済むのですか!」

「ん? 準備終わったのか。さっさと終わらせるぞ」

「いい加減にしなさい! あなたのその化けの皮を剥いでやります!!」


 ローブ男をスルーして無骨な魔道具の横に立つ。

 イライラしながらも準備を進めていたのか、すぐさま魔道具が仄かに白く輝く。

 俺が触れた瞬間、そこから光が失われていき最後にはただのオブジェに変わった。


「えっ――」

「なっ――」


 部屋の中はまたしても騒然となった。


「も、もう一回です!」


 目の前の出来事が信じられないのか、またしても魔道具を起動するローブ男。

 しかたなく再び魔道具に触れるが同じ光景が広がるだけだった。

 諦めずに幾度も挑戦するローブ男だったが、俺が触れるたびに魔道具の機能が停止する。

 ローブ男が怒り狂って俺に詰め寄ろうとした矢先、中年男が声をかけてきた。


「ゼインよ。『審議判定』の魔道具が扱えないとは聞いていたが、これはどういうことか説明はできるのか」

「ああ。――俺の体質の問題で他者の魔力を弾いてしまうからだ。弾かれた魔力は大気へ霧散するが、この魔道具の魔力伝達速度が遅いせいで、ゆっくりと光が消えるみたいだな」

「――だ、そうだが。ケルトン、そなたは原因を説明できぬのか?」

「そ、それは、その……」


 中年男に話を振られたローブ男はしどろもどろになりながら、視線を彷徨(さまよ)わせ、最後にはうつむいてしまった。

 周りの連中も苦虫を噛み潰したような顔をするやつ、まだ猜疑(さいぎ)の目を向けるやつ、感心したような納得したような顔をするやつと三者三葉の様子だった。


「――して、その魔道具は欠陥だったのであろうか?」


 俺の手にもつ魔道具に視線を向けて問いただす。


「そうだ。判別できる魔力の()が少ないせいで、アルシアは零れ落ちた」

「では、直すことは容易であるか?」


 中年男の問いに、少し悩んだが正直に答えることにした。


「……いや、魔力の有無を測るだけなら問題ないが、属性も調べるとなると俺では力不足だ」

「アルシアの属性を調べると聞き及んでいたのだが?」

「俺が直接調べる分には問題なくできる。ただ、それを魔道具に落とし込もうとすると、正直難しい。俺は魔道具の専門ではないから、()()()()()機能するよう強引に組み込んでるに過ぎないんだ」

「そうであるか」


 しばらく考えたのちに中年男が口を開く。


「直した魔道具をこちらで分解して調査することは可能であるか?」

「分解してもいいが、また組み立てなおした後に機能しないかもしれないぞ。部品とかの接合を無視して改造するから、分解すれば回路が途切れる可能性があるし」

「ふむ。であれば、いくつか予備を作ってもらえぬか? 褒美は与える故」

「構わない。改造は大した手間じゃないからな」


 とりあえずの落としどころは決まった。

 あとは肝心のアルシアの魔法適正について調べるだけだ。



 ◆◆◆



「アルシア」


 俺の考えを読んだかのように中年男はアルシアを呼んだ。

 呼ばれたアルシアは数歩前に進んで緊張したように唇を結ぶ。


「必要なものがあれば用意させよう」

「ない。俺が直接頭に触れて魔力を流せばいい」

「そうであるか。アルシアよ、ゼインの傍らに近寄れ」

「はい」


 ゆっくりとアルシアは俺に近寄る。

 所作は綺麗なままだが、緊張で強張っているのが伝わってくる。

 俺の目の前に到着すると揺れる瞳で見上げてくる。


「心配ない。俺に任せろ」

「……お願いします」


 頭にそっと手を添えると、アルシアは瞳を閉じて祈るように手を組む。

 ゆっくりと魔力を流してアルシアの魔力を探る。ついでに体中に魔力を巡らせておく。

 巡らせた魔力の影響でほんのりと髪が光り、僅かに舞い上がる。

 時間にして数秒の間だったが、周囲からは感嘆の声が漏れ聞こえた。


「何か不服でもあったのか?」


 僅かに眉をひそめたのを見咎(みとが)められたようで、不思議そうな声をかけられた。


「いや、何でもない。――アルシアの適正は回復魔法。それも肉体だけじゃなく、病気にも効くだろう」


 俺が結果を口にすると、周りがどよめきだした。

 アルシアは俺の言葉にほっとしたのか、脱力するように崩れ落ちる。

 予想はついていたので、背中に回していた手で支えて倒れないようにした。

 国王は純粋に関心をよせていたが、他の連中からは羨望や嫉妬、疑念等々、複雑な視線を向けられていた。

 当のアルシアは魔力酔いが酷いのか、上気した顔で朦朧(もうろう)として視線の数々に気付いていない様子だ。


「一先ずアルシアを休ませる必要がある」


 俺の言葉に国王はすぐさま人を手配し、アルシアは抱えられて部屋を後にした。


「とりあえず、アルシアが回復するまでは証明は後回しだ。元気になった後に回復魔法を使えるようにする」

「そなたは回復魔法を使えるのか?」

「使えない。ただ、回復魔法を使える奴の特訓方法は知ってる」

「そうであるか」


 少し考える素振りを見せた国王だったが特に続く言葉はなかった。


「俺の扱いはいったん保留でいいか」

「ふむ。――そういえば、アルシアを賊から助けてもらった礼がまだであったな。改めて礼を言おう。魔法が使えるようになったかは今後次第である。それまでは、アルシアの客人として遇そう」

「十分だ」


 とりあえずの用は済んだ。

 ここでやるべきことはもうない。

 踵を返してアルシアの後を追おうとしたら、国王から声がかかる。


「――して。()()()()()()()

「それならアルシアに聞け」


 振り返らずにべもなく答えて部屋の外へと向かう。

 扉を出ると控えていた侍女の元へと歩み寄る。


「かしこまりました。ご案内いたします」


 さっさと主の元に駆け付けたかっただろうに。

 わざわざ俺のことを待ってくれた侍女の案内に従ってアルシアの部屋へと向かった。


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