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六英雄キ -異世界編-  作者: 上野鄭
第一章 邂逅

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3話 少女の存在

※2025/11/15 改稿しました

「――は? そんなに魔力があるのに?」


 魔力があるのに全く魔法が使えないとは()()()()()()()()

 居ても、せいぜい苦手としているだけで、身体強化や簡単な魔法ぐらいは扱えていた。

 俺の言葉に少女は面食らったように小さく「え――?」と零して固まっていた。

 いち早く立ち直った老人が肩を(つか)む勢いで問いただす。


「それは一体どういうことですか!? お嬢様に魔力があると、一体何を根拠に?」

()()()分かるだろ、魔力ぐらい」

「――っ、“魔力を視る”など、聞いたこともございません……」


 何かを察したようにハッとしたと思ったら、今度は沈鬱そうな表情を浮かべる。

 重苦しい空気が漂う中、俺も俺で頭を抱えそうになる。

 俺たちにとっては、魔法の()()()()()()といえる魔力視が一般的でないとは――。

 こんなところで異世界であると認識させられたくなかった。

 漏れそうになるため息を飲み込んで、ぞんざいに質問を投げかける。


「なら、どうやって魔法の有無を測っているんだ?」

「専用の魔道具がございます。そちらに血を一滴垂らすことで、その方の魔力の有無と属性を調べられます」


 すでに少女は試したと話す老人だが、考えられる可能性は一つしかない。


「だとしたら、その魔道具が欠陥品なんだろ。……魔力視は、基本中の基本だぞ」


 大なり小なり魔法を使える奴は全員使える。

 精度の差や言葉の違いはあれど、他人の魔力を感覚的に推し量るのは、魔法を使う以上、必ず通る道だからな。

 驚きの声を零す老人だったが、一拍置いて真剣な眼差しで俺を見つめる。


「――それでは、お嬢様は魔法が使えるのですか?」

「使える。適性を調べないとどんな魔法かは分からないがな」

「その適正とは、今すぐにでも調べられるのですか?」

「できる――が、今はやめといたほうがいいだろう」

「なぜでしょう?」


 気が急いているのか、徐々に前のめりになる老人。

 召使いの女も同様で、少女だけが未だ混乱の中にいた。

 期待を込めているところ悪いが、またこいつらに噛みつかれるのも面倒だった。


「俺が適性を調べると、その相手がしばらく寝込むからだ。……もともとそっち系の魔法が得意じゃないってのもあるが、単に俺の魔力が他人と相性が悪いせいだな」


 寝込むと言った途端、予想通り顔を(しか)めた老人たちだったが、続く俺の説明になんともいえない表情を浮かべた。


「……えっと、あなた様が直接調べられるのですか?」

「ん? そうだが?」


 混乱から抜け出した少女が恐る恐る尋ねてきた。

 どうやら調べるための魔道具を持っていると思っていたらしく、必要なものは何もないと話すと目を瞬かせていた。


「……あの。突然で申し訳ないですが、お願いすることは可能でしょうか?」

「構わないが、今すぐか? というか、その『稀人(まれびと)』とやらの証明をしないままでもいいのか?」


 縮こまる少女も俺の扱いに困った様子で老人へ(すが)る目を送る。

 老人はややあって静かに首を振った。


「……気が急くのも理解致しますが、ここは堅実に行くほうがよろしいかと。まずは『稀人』の証明をされたのち、お嬢様の魔法をお調べ頂くと面倒が少ないかと存じます」


 まぁ身なりからして、いいことの出なのは疑いようもない。

 面倒ならうるさい連中を始末するぐらい訳ないが、少女のことを思えば、あまり大っぴらな手段はよくないだろう。彼女の存在が何であれ、いたずらに心を曇らせるのは俺の信条に反する。

 お付き合いお願いします、と頭を下げる少女に、ひらひらと手を振って気にするなと伝える。

 そのまま馬車に揺られながら、街へと向かった。



 ◆◆◆



 道中、簡単な自己紹介をされた。


「――ご挨拶が遅れました。私はアルシア・フォン・ルミナート。このルミナート王国第二王女です」


 ……別人の名前を告げられると、嫌でも違うと突きつけられる。

 調べてみるまでは確かなことは言えないが、十中八九、まぁ……な。

 俺の表情が僅かに固まったせいで、少女の顔が曇る。

 慌てて静かに弁明した。


「……想像よりも身分が高かっただけだ。お前に隔意がある訳じゃない」

「そうですか……」


 (はかな)げな笑みを浮かべないで欲しい。俺が悪いみたいじゃないか。

 声を大にしてそう言いたかったが、目を閉じて息を吐きだすに留めた。

 代わりに俺も名乗ることにした。


「俺の名はゼイン。ソール連邦の特務準執行官と客員連邦議員を務めていた。……賢人会の許可証(ライセンス)ラックはS-だった」

「……ソール、連邦ですか。やっぱり聞いたことがないですから、『稀人』様なのかもしれないですね……」


 少女が――アルシアが呟いて隣の二人に目だけで確認する。

 どちらも小さく首を振っていた。

 再びこちらに向き直った彼女は、今までにない目の輝きを放ち、口早に言葉を紡ぐ。


「その、特務……執行官? というのはどんな役職なのですか? あと、議員というと大臣職のように地位は高いのではないですか? それから、賢人会というのは? ランクSというからには、冒険者のようにお強いのはわかるのですが――」

「待て待て。そんな一度に質問するな。ちゃんと答えるから」

「あっ――、す、すみません! つい……」


 俺の指摘で再び顔を真っ赤にして縮こまるアルシア。

 まるで人が変わったかのように知識欲に染まり、前のめりな彼女だったが、どうやらいつものことじゃないようだった。その証拠に、隣にいた二人も目を丸くして彼女を見つめていた。最初目にしたお淑やかで気弱な印象が一変したのだが、どうもそっちのほうが普段の彼女のようだった。

 少しだけ(いぶか)しく思うものの、ひとまず彼女の質問に答えていく。


「まず、特務準執行官だが、ソール連邦にある“魔力災害対策局”の職員を指す言葉だ。俺は特例でその職員になっていたから、“準”がついてる」

「なるほど、ゼイン様は特別な存在ということですか」


 (アルシア)に代わって相槌を打つ老人。

 別にそんな気を遣わなくてもいいのだが。まぁ、変に混ぜ返す必要はないだろう。

 彼女も恥ずかしがりながら、ちらりと視線を向けるぐらいには正気を取り戻しているようだし。

 その視線に気付かない振りをして説明を続けた。


「客員連邦議員も似たようなものだ。確かに正規の議員ならそこそこの地位だったんだろうが、俺はその中の独自裁量権だけ欲しかったからな。戦闘後の契約や捕虜の扱いで身動きが取れなくならないようもらっただけで、他は全部他人に丸投げしていたから、名ばかりの地位だ」

「そういうことでしたら、次の許可証ランクというものが関係してくるのですね?」

「そうだ。世界異能評議会――通称“賢人会”という()()()()()が発行する許可証というものがないと、戦闘してはいけないという面倒な決まりがあった。登録した奴はもれなく、戦闘技能によって各ランクに振り分けられていた。その中で俺はランクS-という上から二番目の場所だったというだけだ」


 ランクはSからDに+(プラス)(マイナス)がついた十段階評価と伝えると、こっちにも冒険者という似た分類分けがあると老人は口にする。


「冒険者のランクはSからFの七段階でございます。呼称も“Sランク”と少々異なっておりますが」


 そっちは戦闘力ってよりは貢献度によってランク付けされるらしいから、似ても似つかぬものの気がする。

 まぁどっちにしろ、俺にはあまり関係ないが。


「失礼ですが、その許可証というものをお見せいただけないでしょうか? 物証がありますと、『稀人』の証明にもより信憑性(しんぴょうせい)が増しますので」

「悪いが持ち合わせていない。そういった類の物は、必要な時に転移で取り寄せていたからな」

「”転移”が使えるのですか!?」


 驚く少女の声が響く。

 何をそんなに……と思いきや、隣の二人も口を開けていた。


「使えるが……、そこまで驚くことか?」

「……我々にとって、”転移”とは()()()()()()にございます。現存するものも、すべて古代魔道具(アーティファクト)のみ。もしくは、迷宮遺跡(ダンジョン)内部だけ機能する魔道具があるのみでございます」


 詳しく聞くと、遥か昔に作られた魔道具ないし、迷宮遺跡と呼ばれる魔獣や魔道具などの資源の眠る場所の奥深くで発見された高性能の魔道具を()()()()()と呼び、それ以外を単に魔道具と呼び分けているのだとか。古代魔道具と魔道具に明確な違いは存在しないが、ほぼロストテクノロジーに近い効果であれば、古代魔道具と呼ぶそうだ。

 迷宮遺跡も、俺の知る魔境に近い存在ではあるそうだが、魔境と違ってかなり()()()があるみたいだった。

 もう少し詳しく聞こうと思ったが、折悪く馬車が街に到着した。


 窓から見える建物の見た目や街行く人の様子は、俺の知っている光景とさほど変わりない。

 もしかしたら多少の違いはあるのかもしれないが、そんな些細なことまで気にしたことがない。

 魔力の様子に特段変なところが見られないのだからしょうがない。

 宿に着く前、念のため地図を見せてくれと言ったのだが、軍事機密のため持ち歩いておらず、代官館ぐらいにしかないそうだ。

 件の魔道具を使える手筈を整えるついでに、そっちも手配してくれるとのことで、今は素直に引き下がる。


 宿では夕食に誘われたが、疲れを理由に断った。

 貴族のマナーとか知らないし、俺と一緒に食事をしても楽しくないだろうからな。

 宛がわれた部屋で周辺の様子を探りながら、夜を過ごした。



 ◆◆◆



 翌日、俺は代官館にやってきていた。

 ゆっくり休めたかと尋ねる少女に、問題ないと告げる。

 道すがら、とある疑問を少女に投げかけた。


「なんでこんなところに、目的の魔道具があるんだ?」

「街では代官が司法も取り仕切っているからですよ」


 微妙に噛み合わない会話だと思ったが、その時は特に気にもしなかった。

 理由が分かったのはその魔道具と対面した時。俺の勘違いが原因だった。


 館の前には中年の男が待っており、少女を出迎えた。

 代官その人だったが、俺には胡乱な目を向けていた。

 そんな中、いくつもの視線を感じてそっと周囲を探る。

 いつものように魔力視や魔法も併用して確かめると、窓から顔を(のぞ)かせる野次馬や遠くからこちらを眺める奴と色々だった。

 大した奴もいなかったが、念のためと魔力を視るだけで、それ以降は気にも留めないことにした。


 案内役の男に続き、館を進む。

 先に地図を見せてくれたが、俺の知る大陸とは異なっていた。


「どうですか?」

「……全然違う」


 思いっきり顔を顰めた俺に、少女が気まずげに問い掛ける。

 似ているところもなくはないが、大陸といい島々といい、まったくの別物だった。

 ……これはいよいよもって、腹をくくる必要があるみたいだ。

 小さく息を吐いて、もう十分だと告げる。

 少女は心配そうに見つめていたが、ふっと笑いかける。


「なに、異世界だったとしても俺には問題ない。元の場所へそのうち連絡は取りたいが、それも数年ぐらいどうってことない」

「――でしたら! ()()協力します! ……あまり頼りないかもしれませんが」


 啖呵(たんか)を切っておいて、すぐさま自信なさげに視線を落とす少女。

 何やら()()()みたいだが、どうせなら、彼女に手を貸すのもやぶさかではない。それで助力が得られるのならば。それに、彼女の秘密を知るためにも――。

 そんな打算まみれの考えだったが、衝いて出た言葉は俺の意に反したものだった。


「そんなことはない。頼りにさせてもらうぞ、アルシア」


 少女が勢いよく顔を上げて俺を見上げる。

 見開かれる新緑の目が、信じられないとばかりに揺れていた。

 その瞳に見据えられ、俺は今更吐き出した言葉を飲み込むことはできなかった。


 静かに一度目を(つむ)り、覚悟を決める。

 どうせ一緒にいるつもりなら同じことだ。

 彼女が何であれ、俺の気持ちは変わらない。

 (まぶた)を開いた俺は、ゆるりと口角を上げる。


「――お前だけが頼りだ。代わりに、()()お前に手を貸そう」


 彼女の瞳がきらりと輝く。

 咲き誇るような笑顔を湛え、少女は力一杯の握り拳を作る。


「はい、任されました!」


 彼女の姿に胸の奥がずきりと痛む。

 それを無視して俺は一歩足を踏み出した。


 はてさて、証明はどうするべきか――。


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