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六英雄キ -異世界編-  作者: 上野 鄭
第一章 邂逅

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12話 いびつな魔道具

本日ラストです。

明日から毎日0時投稿の予定です。

 本人の意思確認できるまでは保留となった。

 翌日、()()の運搬について聞きたいとのことで、辺境伯の執務室に呼ばれた。


「概要は聞いているけど、もう一度確認させてもらえないかな?」


 掻い摘んで説明すると似たような質問を二、三された。


「――結論は貴殿の魔道具を見てからかな。素材については使えそうなものを一通り用意させるから」

「ああ、一つ言い忘れていたが、この魔道具俺しか起動できないぞ」

「……大事なことが抜けていたようだね」


 俺の一言で若干恨みがましい目をする。


「正確にはあり合わせで作るとしたらだけどな。俺以外が使えるようにとなると、使い捨てじゃ無理だし、必要な素材も高ランクのが必要になる」

「ある意味ありがたいね」


 辺境伯は肩を竦めて半ば呆れた様子でため息をつく。


「うーん、そうなると輜重(しちょう)部隊に運ばせたほうがいいのかな」


 うんうんと拳をあてながら唸っている。

 独り言を呟きながら考え込む辺境伯に声をかける。


「なら一度、素材を見に行くか? 実際に作った魔道具の動作確認の意味も込めて」

「――うん、そうしようかな。構わないかい?」


 俺の提案を少し考えてから提案を飲む。


「私もご一緒して構わないですか?」


 今まで傍観していたアルシアが静かに口を挟む。

 ちらりと見ると僅かに頬が上気し、瞳も輝きを放っていた。

 そこまで面白いものでもないのになぁ、と思いつつ、断る理由もなかったので受け入れた。


「早い方がいいだろう」


 そう言って辺境伯は手元のベルを鳴らして使用人を呼ぶ。

 指示を受けた使用人が退出すると、しばらくここで待っていてくれと言って書類の山に手をつける。

 俺とアルシアには控えていた別の使用人がお茶を入れなおし、お茶請けも用意された。



 ◆◆◆



 のんびりと雑談をしながら待っていると、ノックの後に先ほどの使用人が現れた。


「じゃあ行こうか」


 きりがいいところまで書類を片付けた辺境伯の先導に従い、城の中を進む。

 重厚な扉の前に着くと、使用人が扉を開ける。

 中に入ると研究室のような装いで、魔法薬特有の苦みと甘みを混ぜたような匂いがした。


「ようこそお越しくださいました」

「素材の準備はできているか?」

「はい。ご指示通り、今ある素材を全種並べております。倉庫に在庫があるものもございますので、おっしゃって頂ければ取りに向かわせます」


 年嵩(としかさ)慇懃(いんぎん)な男と辺境伯のやりとりを小耳に挟みながら室内を見渡す。

 よく分からない器具や薬品が並び、煩雑としている。

 目視できないが、奥のほうに大規模な装置類や隔離室のようなものがあるみたいなので、手近なものは比較的安全でさほど貴重ではないのだろう。

 会話が終わったのか、二人がこちらに向き直り、軽く挨拶をする。


「失礼しました。私、魔道具開発主任を任されておりますパウル・バーリーと申します。以後、お見知り置きを」


 丁寧に礼をする男にアルシアが名乗り返す。合わせて俺の紹介もしてくれた。

 男の瞳には侮蔑も嘲笑もなく、純粋な好奇心のみが感じられた。

 自分の半分にも満たない若造相手に、よくもまあそんな目を向けられるものだ。

 腹に一物抱えていないのであれば相当の変わり者だろう。

 そんな俺の考えを知ってか知らずか、ふっと笑いを浮かべて案内をする男。


「こちらに一通り揃えてございます。おっしゃって頂ければ不足分をご用意いたします」


 ずらりと並べられた素材に目を移す。

 長いテーブルをいくつも連ねて置かれた素材たちは、見慣れぬものの方が多かった。

 一通り眺めて確認すると、目星を付けていた素材を手にする。


「おや、それだけで構わないのでしょうか?」


 男の疑問ももっともだろう。

 俺が手にしたのは指先ほどの魔石を六つと鉄でできた腕ぐらいの長さの筒、それから鉄の延べ棒だけで、凡そ魔道具足りえないものだけだった。


「ああ。使い捨てを考えればこれぐらいがコスパがいい」

「左様ですか……」


 不思議そうに手元を見つめる男。

 アルシアに魔石を持ってもらおうとしたら、男に作業スペースへと案内された。


「こちらをお使いください。それでは私は席を外します」

「ん? 見ていかないのか」


 立ち去ろうとする男に疑問を投げかけると、男の足が止まる。

 逡巡しながら俺と辺境伯の間で視線を彷徨わせる。


「――秘中の技かと。部外者である私は見るべきではないと愚考しまして」

「別に見ても構わない。見たぐらいじゃどうにもならないからな」


 俺の言葉を挑戦と捉えたのか、文字通り捉えたのかは分からないが、男は慇懃な態度で是非と答えた。


「解説していただけませんか?」


 藪から棒にアルシアのお願いの声が響く。

 思わぬ言葉に動きを止める。


「解説……解説か」


 考えるように言葉を繰り返す。

 正直、今回の魔道具に関しては解説があって無いようなものだ。

 濁して説明してもいいが、それだときっと何も解らないだろう。

 一から十まで説明する気は毛頭ない。


「……ざっくりで構わなければ」

「ぜひ!」


 煮え切らない態度で告げる俺に、それでも嬉しそうな表情で答えるアルシア。

 男や辺境伯も期待の籠った視線を向けてくる。

 薄く息を吐いてからテーブルを挟んで向かい合うように移動する。


「本当にざっくりとだから、分からないことがあっても大して答えられないぞ」


 念を押してもそれでも構わないと口々に述べた。


「じゃあざっくりと。まず、この鉄の筒に蓋をする。蓋は何でもいいが、この後入れる魔法薬が漏れ出ないことが必須だ。今回はこの鉄の延べ棒を使う」


 延べ棒を掴んで筒を押し当てる。

 その後、魔法を使って鉄を柔らかくして蓋として機能するような形状になったところで鉄を再度固める。

 余分なところを切り落として漏れがないかの確認をした。


「今見てもらったように魔法で片方に蓋をした」


 目の前の光景が信じられないようで、それぞれが何の変哲もない鉄の筒を食い入るように眺める。


「あの! どうして鉄が変形したのですか?」

「魔法で一度柔らかくして再度固めただけだ」

「鉄を熱したら液体になるのではないのかい?」

「液体になる手前の状態で作業しているだけだ」

「魔力で成形している訳ではないのでしょうか?」

「違う。それが出来る奴もいるが、俺はできない」


 アルシアの質問を皮切りに、それぞれ疑問を口にする。

 それらに簡潔に答えて次の作業に移る。

 用意していた魔石二つを手に取る。


「次は魔石を魔法薬にする。魔法薬は魔力の伝達を阻害しなければ正直何でもいい。あとは骨格と魔石に作用しないことぐらいか。今回は見たことない魔法薬や素材からいちいち作るのが面倒だったから、魔石を砕いて使う」


 手にした魔石を一つずつ摘まみ、外に零さないよう筒の中で摘まみ潰す。

 筒に入った魔石の粉に魔力を流して撹拌する。


「今、砕いた魔石に魔力を流して掻き混ぜている。ある程度続けていると魔法薬になる」


 説明の間にも次第に粉が液状になっていき、数秒の後に魔法薬に変化した。

 直径五cmもなくて見難いだろうが、気になっているようなので順番に渡して中身を見せた。


「凄いです! 液体になっています!」

「本当だ。知らなかったよ」

「このような方法があったとは……」


 質問されなかったが、指先ほどの大きさから筒の七割満たすぐらいまでの液体になったことは驚かないのだろうか。

 益体もないことを考えながら次に進む。


「で、この中に魔石を入れる。普通は魔石や骨格の内側に魔法回路を刻むが、今回は不要だ。魔法回路を俺が肩代わりするからだ」

「それでは今回の魔石の役割とはどのようなものでしょうか?」


 男が興味深そうに尋ねる。


「今回は魔力供給源だ。魔力供給も基本俺がやるが、一時的に魔道具に留め置く必要がある。そのための魔石だ」

「なるほど」


 持ち上げた魔石を筒の中に落とす。

 とぷんと音を立てて入ったことを確認すると、再度鉄の延べ棒を手にして蓋を作る。


「あとはまた蓋をして完成だ」


 魔法薬が漏れないことを確認してからアルシアに手渡す。

 見た目は何の変哲もない鉄の筒だ。

 振ればちゃぽちゃぽと鳴り、液体が入っていることが分かるぐらいで、どんな効果かも解らないだろう。


「これが――」


 しげしげと眺めるアルシアを余所に男が質問を繰り返す。


「なぜ今回鉄で作ろうとされたのでしょうか?」

「加工しやすかっただけだ。筒状であれば何でもよかった」

「どのように使用なさるのでしょうか?」

「発動させたい場所に突き刺して使う。二対で使うから、同じのをこれからもう一つ作る」

不躾(ぶしつけ)で恐縮ですが、一つ頂いてもよろしいでしょうか?」

「これそのものは魔力を溜められるだけのガラクタだぞ。魔法回路が無ければ何の意味もない」


 矢継ぎ早に投げられる質問に答えながら魔道具を作る。

 説明の中で意図的に三つのことについて説明を省いた。

 省いたことに関する質問もなかった。

 こちらの意図を汲んで控えただけかもしれないが。


「ほら。今日の駄賃だ」

「おお!」


 男の熱意に、仕方なしに似た魔道具を作って差し出す。

 感極まって恭しく受け取る男を無視して話を進める。


「で、いつ試すんだ」

「そうだなぁ。この後でよければすぐに試そうか」


 アルシアを確認すると特に問題ないようで、幾人かの護衛を引き連れた辺境伯と共にドラゴン(トカゲ)の死骸を見に行くことにした。



 ◆◆◆



「初めに俺が向こうに一人で移動する。あっちでこれを刺したら一度戻って、今度はこれをここに刺す。その後で魔道具を起動させてから全員で移動する。いいな」


 俺の言葉に隊長が手を上げて疑問を呈す。


「その魔道具での転移は一度きりなのだろうか?何度でも出来るのであれば、先に我々の一部で試してみても問題ないか」

「いいぞ。これは魔道具が壊されるか、俺が魔力供給を止めない限り何度でも使える。ただし、一度魔力供給をやめると次は使えないぐらいだな」

「承知した。では先に我々数名で試させてもらいたい。――よろしいでしょうか」


 隊長は辺境伯に確認をとる。

 異論は無いようなのでさっさと用意する。


「じゃ」


 軽く手を上げて転移する。

 ドラゴンの死骸の前に姿を現すと、警護していた兵士たちが一斉に剣を抜いて構えた。

 突然の出来事で狼狽(ろうばい)していた兵士たちも、俺の顔を確認するや否や、剣を収めて息を漏らす。

 代表なのか、兵士の中でも一番年上っぽい男が俺に歩み寄る。


「――失礼しました。突然現れたものですから、敵襲と勘違いしてしまいました。して、どのようなご用でいらしたのですか?」

「ああ。魔道具の実証のために来た。このあと、辺境伯を連れてまた来る」


 要件を問われたので素直に答えると、しばらく硬直してしまった。

 立ち直るまで無視してどこに刺そうかと周辺を見渡す。


「ハッ、失礼しました。突然のことに意識が飛んでおりました」

「気にするな。それより、魔道具を刺して置く場所はどこがいい? そこに人が来るんだが」

「それでしたらこちらにお願いします」


 男の指示に従って、少し離れた開けた場所に魔道具を刺す。

 壊さないこと、すぐに人を連れてくることを伝えてまた転移した。


「問題なさそうか?」

「ああ。向こうの兵士によさそうな場所を聞いていただけだ」

「なるほど。了解した」


 もう一方の魔道具を念のため確認してから地面に突き刺す。


「準備よし。で、先にいく人は決めたか」

「ああ。私含めここにいる」


 隊長他二人が歩み寄る。


「じゃ、行くぞ」


 言葉と共に魔道具で転移する。

 目の前の景色が歪み、森の中に変化した。


「どうだ」

「特に問題はないな。お前たちは」

「自分は問題ないです」

「私も大丈夫です」


 隊長の問いかけに、一緒にいた部下たちが答える。

 問題なさそうなら残りも運ぶとするか。

 移動しようとしたら、隊長から待ったがかかった。


「問題ないなら他も呼ぶぞ」

「待ってくれ。戻るなら私も一緒にお願いしたい。問題なかったという証明になる」


 手間は変わらないので隊長を連れて戻る。

 隊長の姿を見て安全確認が取れたようで、今度こそアルシアと辺境伯たちを連れて現場に転移した。


「ほう、これがドラゴンか――」

「凄いですね……」


 転移で気分が悪くなる人はいなかったようで、ひとしきり転移に感動した後にドラゴンの見学に移った。

 アルシアは残留魔力に気圧されながらも食い入るように眺めていた。

 実際に触ってみたいと言われたので、周囲を取り囲む障壁の一部を取り除く。


「これはなかなか」


 品定めする辺境伯を余所にアルシアに近づく。


「――っ!?」


 恐る恐る死骸に触ろうとしたアルシアだったが、指が触れた瞬間、勢いよく手を引っ込めて驚いたように目をぱちくりとさせる。


「まだ魔力の大きさに慣れてないだけだ。場数を踏めばそのうち慣れる」

「そう、なのでしょうか……」

「落ち込むことは無い。ダメなら恐怖で体が拒絶反応を示す。死骸であろうと目にしただけで卒倒することもある。近づいて、あまつさえ触れようとするんだ。適正はある。自信を持て」


 励ますように努めて優しい声を出す。

 半信半疑の様子だったが、おもむろにまた死骸に触れ、先ほどと同じように手を引っ込める。

 何度か繰り返していたが、一向に変わらず、少しむすっとした表情でこちらを見上げた。


「ははは。一朝一夕では慣れないって。魔力の大きさに慣れる練習はまた後でな」

「……わかりました」


 口惜しそうにうなだれるアルシアを軽く撫でる。

 そんなこんなで見学会は幕を閉じた。


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